夢の忠心
城からは、転移陣を使ってまとめて帰って来た。転移魔法を使えない人が魔力を使って転移陣を動かすと、350p+50kgを越えた分の不足魔力が必要になるが、転移能力者がいれば、転移陣に乗りきる分は、転移1回分の魔力ですむ。現在転移能力者は、ユリ、ソウ、ユメ、キボウの他、非公表の花梨花、松竹梅だけである。
「ユメ、使えなくなった魔法とか有るのか?」
ソウにいきなり聞かれた。
今聞くと言うことは、女王を降りたからではなく、年を越して時間がたったからと言うことだろうと思う。ユメとして生きる事になってからを聞かれているんだろうと思い、答えることにした。
「猫には成れるけど、ルレーブには成れないにゃ」
「そうか」
「だから、ローズマリーにお礼を言って、最後にしてもらうにゃ」
「それで来たのか」
以前、明確に思い出せたルレーブの姿が、今はあやふやで、ルレーブが自分であったと言う事実を知っているだけで、自分であると言う実感もなくなった。
ソウはパープル侯爵に話があるらしく、途中で別れた。
「ローズマリー、少し話があるにゃ」
「はい。ユメ様」
ソウは、パープル侯爵の執務室で話をするらしいので、私は客間に通された。
サリーが来て、お茶とケーキを置いていった。
なんと、スフレチーズケーキだ。ユリが店で出していないお菓子だ。
「作ったのにゃ?」
「ユリ様に教えていただいたお菓子は、定期的に作り、いつでも作ることが出来るようにしております」
「ローズマリーは、偉いのにゃ」
ふと笑ったローズマリーが、遠くを見るような目をして呟いた。
「アルストロメリア会、懐かしゅうございます」
「もうしないのにゃ?」
「ユリ様が、お忙しいと思われますし、年月が空きすぎました。ラベンダーも嫁に出ましたし、マーガレットも、いずれは嫁に出ますので、難しいと思われます」
「作った厨房は未だあるのにゃ?」
「はい。小規模なお菓子教室は、定期的に開催しております」
「そうだったのにゃ」
ユリの事は、ユリに聞かないとわからないから、私が決められるものではないと、話を変えることにした。今日、ここに来た件を話そう。
「ローズマリー、私の侍女をしてくれてありがとうにゃ。でも、もう充分にゃ。私はもうルレーブには成れないのにゃ。今は、黒猫のユメなのにゃ」
「はい。存じております。ご迷惑でなければ、一生ユメ様の侍女でおります。私の我儘と、ご了承いただきたく存じます」
指名したとき、多少強引に頼んだ覚えがある。断れる状況じゃない状態で頼んだ覚えがある。それなのに、ずっといてくれると言われた。
「ローズマリー、本当にありがとにゃ。私は幸せ者にゃ」
感極まって、泣いてしまい、ローズマリーを慌てさせてしまった。すぐに、サリーが、温かい濡れタオルと、冷たい濡れタオルと、乾いたタオルを持ってきてくれた。
目が腫れているとユリが心配するので、しっかり温めた後、しっかり冷やし、最後に乾いたタオルで拭いてさっぱりした。
その後は、世間話をしたり、最近の店のお菓子の話をしたり、なかなか楽しかった。
「そういえば、ユリが、強化夏板を売り込みに来ると思うにゃ」
「きょうかなついた?とは何でございますか?」
言葉自体が通じなかった!
「厨房で何か焼くと、火加減が大変にゃ。夏板は魔力で動かすから、温度が固定できるにゃ。それの強化タイプで、80~240度って言ってたにゃ」
物はわかったけど、意味がわからないといった顔をしていた。
「ユリ様が売り込みにいらっしゃるのですか?」
「えーと、鮎を作ったり、ホットケーキを焼いたりするのが楽々って言ってたにゃ」
「もしや、アルストロメリア会用でございますか?」
「そういう意味だと思うにゃ。パープルと、王宮に売り込むって言っていたにゃ」
作れる料理で、思い付くものを説明してみた。お好み焼きやミニピザが、火の無いところでも作れるから、お肉も焼けるだろうし、こういった客間でも使えると説明した。
「素晴らしいですわ!」
ユリの代わりに売り込んでしまった。




