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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇少女ユメ◇

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夢の美味

起きてリビングに行くと誰もいなかった。

冷蔵庫を見るとユリのパンはなくて、1つしか入っていなかった。


とりあえず残っているパンを食べて少し待っても誰も来ないので、ユリの部屋へ行ってドアを叩いたけど返事はなかった。

ドアに鍵はかかってなくて、病気だったら困ると思って開けてみたけど、ユリはいなかった。


通りかかった誰もいないはずの部屋から何か音がする。

怖かったのでソウの部屋に行ってドアを叩いてみた。

ソウは部屋にいて困っているみたいだった。


「ソウ、ユリが居ないにゃ。あと、誰もいない部屋から音がするにゃ」

「隣の部屋なら、たぶんユリだよ」


音がするのはユリがなにかしているらしい。

なんだ。音の正体がユリで、ユリもちゃんといるなら何も問題はない。と思うんだけど、ソウは複雑そうな顔をしていた。


「ユリ、となりにいるにゃ?」

「まあ、たぶん」

「ソウは何困ってるにゃ?」

「うーん。ノックしたんだけどさ、返事がないんだよね」


ユリが返事しないって、なんでだろう?


「喧嘩でもしたのにゃ?」

「思い当たることはないんだけど、何かしたかなぁ?」


二人でいくら考えてもわからなくて、もう一度ドアをノックしてみようということになった。


部屋の前まで来てドアをノックしようとしたとき、ユリが部屋から出てきた。


「ユリ、何してるにゃ?」

「縫い物、だけど・・・?」

「なーんだ。何か怒ってるのかと思った」

「怒る理由もなければ、怒られるようなことでも何かしたの?」

「いや、無いけど、わからないからなんだろうと思って・・・」


ミシンの音でノックが聞こえなかっただけなのである。


「何か食べる?」

「休みだし外に何か食べに行く?」


元気になったソウが提案した。

でも、昨日みたいなのは食べたくない。


「美味しいのが良いにゃ!」

「食べに行くとしたら、何を食べに行くの?」


ユリが聞くと、ソウが少し考えてからお店を言った。


「焼き肉か地元の店、もしくは王都に行く?」

「焼き肉にゃ?小さいお肉を自分で焼くやつにゃ?」


焼き肉と言う言葉に聞き覚えがあった。

たぶん食べたこともある。

そして、大好きだった気がする。


「ユメちゃんが知ってるっぽいから行ってみましょうか」

「そうするか」


ソウは、馬車を取ってくると言って、先に出掛けていった。


ユリが着替えると言って部屋へ戻って行ったので、そうか、着替えた方が良いんだなと思った。

いつもユリが出掛けるときみたいな服が良いなと思って、一度黒猫になってから再び人形(ひとがた)になった。


よし!思ったような服になった!


でも思ったほどユリの服は、ヒラヒラしていなかった。

次はユリみたいな服にしよう。


ユリと一緒に外で待っているとソウが馬車で来た。

ユリはすぐに乗り込まず困っているみたいだった。

何を困っているのかな?と考えていたら、ソウがユリに客車に乗るように言っている。なんだ、ユリはどこに乗るべきか迷っていたのか。ならみんなで前に乗れば誰も困らないかな。

もう一度黒猫に戻り、ソウのとなりに飛び乗った。これでユリと3人一緒に乗れるはず。


座ったユリの膝の上に乗り、丸まった。

猫の姿でユリのそばにいるのは久しぶりだ。

なんだか、風が気持ち良かった。


ユリとソウは、馬車の操縦について話しているようだった。

猫の姿だと、会話に加われない。


御者だけ運ばす、代わりをつれてくればよかったのでは?と思ったら、ソウが自分で言っていた。


「ユメちゃん、ついたわよ」


ユリに声をかけられたので、客車に入りたいと主張した。

すぐに通じたらしく、ユリが一緒に客車に入ってくれた。

ユリはすぐに外に出たので、今度はユリに似た服を思い浮かべて変身した。


ソウが小声で、姉妹みたいに見えるな。と言っていた。


ソウが前を歩いて、ユリと一緒についていった。

ユリは少しキョロキョロしていた。

ユリは歩いたことの無い場所なのかな?


食べ物屋さんがいっぱい有って、良い匂いがする。

ソウが立ち止まったお店は、看板に『仁』と書いてあった。

うん、読めない。じん? にん?


「さあ、入ろう」

「うん」

「食べるにゃー!」


ソウが扉を開けるとすぐに店の人が声をかけてきた。


「ようこそいらっしゃいませ」


長いスカートの女の人だった。


「ようこそいらっしゃいました。わたくし、当、焼き肉『(じん)』の店主、ハヤシでございます」


あ、じんって読むのか。

お店の人とソウとユリは知り合いらしく、何か話していた。


席に案内されてもずっと話していたけど、ユリが言ったことで物凄く驚いていた。


やっと話が終わり、ソウが、追加バンバン頼むからじゃんじゃん持ってきてなと言ったら奥に戻っていった。


ソウが色々注文していたので、もうひとつあったメニューを開いてみると、意味が分からない値段が書いてあった。


特上カルビ 25000☆


「どうしたのユメちゃん?」

「お貴族様の店にゃ」


ユリに聞かれて、思わすリラの言葉を思い出した。

ウーロン茶が2500☆と書いてあった。ごはんの値段はともかく、ウーロン茶はたぶんユリも出したことがある。そのときは200☆か300☆くらいだった。つまり、10倍だ。

見なかったことにして、美味しく食べよう!


ソウがいっぱい注文して、ユリが焼いてくれるので、とても美味しかった!

するとお店の人が何かもって来た。


「よかったら召し上がってください。特上カルビです」

「太っ腹にゃ!」


一番高いやつだ!凄い!

ユリは少しおろおろしているみたいだったけど、早速焼いてくれた。


口の中で溶けるように無くなる甘い脂が物凄く美味しかった。


「ユメまだ食べるか?」

「お腹いっぱいにゃ!」


ソウに聞かれたのでそう答えると、ユリを残してソウと先に店を出た。


お店から出てきたユリにソウが訪ねる。


「ユリ、何か見るの?」

「食器見に行っても良い?」

「青空市?」

「うん!」


話が分からないので聞いてみる。


「どこ行くにゃ?」

「説明が難しいから一緒に行きましょ!」

「わかったにゃ」


一緒にと言ったのにユリが動かなかった。

不思議に思ってユリに聞くと、方向がわからないらしい。ソウに聞いた方が早いかな。


「ソウ、どっちにゃ」

「広場の方なんだけど」

「わかったにゃ」

「え?ユメちゃんわかるの?」

「前に、歩いたにゃ」


広場ならこっちから行けるはず。

ユリの手を引くと、ソウはついてきた。


「ユメちゃん、いったいいつ歩いたの?」

「・・・ユリがお菓子教えてるところの石を見た次の日にゃ」

「あの不思議な幕のあった石?」

「不思議な幕?」


ユリはソウに結界の説明をしていたけど、ユリはあれを結界だと知らなかったらしい。

ソウはまったく知らないふりをしてユリの話を聞いていた。約束を守ってくれた。


ユリはお店の強すぎる結界についてもソウに聞いていた。


「この国には、魔法だか魔道具だかで自動翻訳がかかっているんだよ」

「そうなの?」

「俺とユリは同じ言葉を使っているけど、マーレイとリラはこの国の言葉を使っている。ユメはどうだろうな」

「ソウとユリと同じにゃ。お店の貼り紙はそのまま読めるにゃ。リラのノートは読めないときがあるにゃ」


ユリの書いた文字は難しいもの以外読める。

リラの書いた文字は一瞬読めないことがある。

基石に書かれた魔法文字はすべて読める。流し込まれた知識によって。


歩いて広場の端についた。


「ユリ、ついたにゃ」

「あ、本当だ。ユメちゃん凄い!」

「どこに行くにゃ?」

「ココットを買ったお店よ」

「ココット買うにゃ?」

「今日の欲しいのはココットじゃないけど、何か良いのがないかなぁって」


ユリが曲がろうとしたらソウが止めた。


「ユリ、こっちだぞ」

「あ、あれ?あはは」


ユリの方向音痴はひどいらしい。

ソウの案内で食器がある店についた。

青空市だ。


「こんにちはー!」

「いらっしゃい。アルストロメリアのお嬢ちゃん」


お店のおじいさんも知り合いらしい。

ユリは小瓶を見つけると、目を輝かせていた。

容量や値段を聞いて交渉しているみたいだった。

結局、見ていた小瓶を1200個買ったらしい。


「ユリ、何に使うにゃ?」

「黒蜜よ!アイスクリームと一緒に販売したかったの!」

「あー、そういえば前から探してたな」


黒蜜が持ち歩けるようになる!?


「ユリ、1つ欲しいにゃ」

「良いけど、何に使うの?」

「出かけるとき持っていくにゃ!」

「え?何を?」

「黒蜜にゃ!」


ユリが黒蜜を入れるって言ったのに、なんで聞かれるんだろう?


「わかったわ、黒蜜を入れてから渡すわね」

「ありがとにゃ!」


ソウも欲しいらしい。

黒蜜はみんな欲しいと思う!

次回は10月4日13時の予定です。

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