夢の豆撒
階段を降りると、店は静かだった。
リラたちはもう帰ったのかな?
「ただいまにゃ!海苔巻き喜んでたにゃ!」
「ただいまー。王宮に納品行ってきたよ」
「おかえりなさーい。もう少しでご飯になるわ」
手を洗ったあと、少しだけ手伝い、 ご飯ができた。
巻かれていない海苔巻きとか、巻ききれていない海苔巻きがあり、なんだろうと思ったら、作るのに失敗したものらしい。普通のご飯もあったけど、失敗したらしい海苔巻きを食べた。卵焼きと、煮た椎茸が美味しい。
おかずは、鶏のさっぱり煮で、ツナマヨの乗ったよくわからないサラダらしきものがあった。
マリーゴールドも疑問に思ったみたいで、ユリに質問していた。
「ユリ様、このサラダのようなものは、何でございますか?」
「出汁に使う昆布はわかる?」
「はい」
「あれは乾燥させてあるけど、これは乾燥してない昆布を茹でて切ったものよ。乗ってるのはツナマヨ。鮪のオイル煮にマヨネーズを和えたものね。元の国に、生昆布を茹でて切ってあるのが売っていてね。それをよく洗って、食べやすい長さに切ってあるだけよ」
昆布って、出汁に使う以外に食べるんだ!
出汁に使った昆布の佃煮は食べたことがあるけど、乾燥させていない昆布は初めてだ。
昆布って、こんなに歯応えが有る海藻だったんだなぁ。でも、さっぱりしていて結構美味しい。歯応えがあるのに簡単に噛み切れて、面白い。
ユリとマリーゴールドの話では、リラも食べたことがないらしい。私の後ろにいたイリスが、「ユメちゃんも初めてなのですか?」と、驚いていた。
鶏のさっぱり煮に入っていた、鶉の玉子ばかり食べて、先に食べきったキボウは、ソウから鶉の玉子を分けてもらっていた。私も少しだけキボウに分けた。お返しに鶏肉をくれようとするので、それは断った。
「休憩が終わったら、今日は、節分ということで、全ての食べていくお客さんに、切った太巻きをつけます」
ユリが午後の予定を話していたけど、豆まきを言わないので聞いてみた。
「豆まきはしないのにゃ?」
「豆まきは、お店が終わってからしようと思います」
お店ではしないみたいだ。
その後、ユリは休憩のために、部屋に戻っていった。最近は厨房に残らず、部屋で休むことにしているらしい。ユリはいつも働きすぎなので、しっかり休んでくれるのは大歓迎だ。
「ユメー、これー」
「何にゃ?」
キボウから葉っぱを一枚渡された。どうやらソウも渡されたらしい。
「これをどうするのにゃ?」
「こうかーん」
「取り替える交換にゃ?」
「あたりー」
「何と交換にゃ?」
「ユメのすきなものー」
どうやら、鶉の玉子の代わりに、何かと交換してくれる証らしい。
「キボウありがとな!」
横で聞いていたソウはすぐに納得したのか、笑いながら休憩に行ってしまった。
マリーゴールドは休憩のためにベルフルールに戻っていき、マーレイとイリスも休憩に行ってしまい、厨房にはユメとキボウだけになった。
「キボウは休まないのにゃ?」
「やすむー」
キボウも階段を上がっていき、厨房には私だけが残った。
外に今日のメニューを確認に行くと、イーゼルに乗った板には「今日は節分!」と書いてあり、メニュー一覧を見て把握した。
一番下に「次回イベントは14日です」と締めてあり、次回も大変そうだなぁと思った。
大分早くマリーゴールドが戻ってきて、お茶を用意していた。
「お茶、お店のにゃ?」
「お店のでは、えーと、」
マリーゴールドは言い淀んでいるようだった。
「言いつけたりしないにゃ」
「外のおやつ用でございます」
「外おやつは、何にゃ?」
「海苔巻きの細巻きでございます」
見せてもらうと、二種類有るようだった。
「午前中に作ったのにゃ?」
「はい。たくさん作ったので慣れまして、私も早く作れるようになりました」
マリーゴールドは、ニコニコと説明してくれた。
お茶が出来上がる頃に、マーレイとイリスも戻ってきた。
「マリーゴールド様、お休みされなかったのですか?」
「イリスさん、少し時間を間違えて戻ってきましたが、しっかり休みましたので、ご安心ください」
マリーゴールドは、少し時間を間違えたと説明していた。お茶しか作っていなかったので、本当なのだろうと思った。
しばらくしてユリも戻り、ユリはマリーゴールドにお礼を言って、海苔巻きとお茶を外に持って行った。
「さあ、皆さん頑張ってください」
ユリが皆に掛け声をかけ、お店が始まった。
「今日のおすすめと、胡桃餅と、ジンジャーエールを頼む」
「黒猫様、今日のケーキと、お茶をお願いします」
「ピザトーストと、ココアをよろしく」
「ユメ様、おすすめと、クリームソーダをお願いします」
皆バラバラの注文で、結構大変だった。
「今日のおすすめ」と「今日のケーキ」は、同じものだ。今日のおすすめケーキは、きな粉味のムースだ。上に黒蜜もかかっている。
「お待たせにゃー。これは節分のサービスにゃ」
切った太巻きを出し、頼まれたケーキと飲み物を並べた。
「黒猫様、これはどうやって食べるのですか?」
「食べる前に、黙って心の中で願い事を唱えるにゃ。それから美味しく食べるのにゃ。ユリが言ってたにゃ」
「どのような願いでも良いのですか?」
「健康や平和を願うと良いみたいにゃ」
「ありがとうございます」
イリスも同じように説明していた。
客たちは、おとなしく何かを願い、楽しげに食べたあと、帰っていった。
今帰った客が戻ってきた。
忘れ物でもしたのかな?と思ったら、私のそばに来て、早口で捲し立て始めた。
「黒猫様、伝説の黒猫様のお弁当が、従者用のおやつに出ているとは本当でございますか? あれはお売りくださらないのですか? ツナマヨのあの中身はいったいなんなのですか?」
「ちょっと、落ち着くのにゃ。早口すぎて、わからないのにゃ」
私がうろたえているとユリが来た。イリスが呼んできてくれたらしい。店が、ざわっとした。
客はユリを見つけ、私から離れると、今度はユリに質問を始めた。
「ハナノ様、外の細いおにぎり?でしたか、あれを販売する予定は無いのですか? 注文は受け付けないのですか? 私の口に入るにはどうしたらよろしいですか? どうしても食べたいのです! どうにかなりませんか?」
やっぱり早口で、少し聞き取れない。
「食べてはいないのですか?」
ユリは冷静にゆっくり話していた。お客の話は聞き取れたらしい。
「はい。つれてきた御者が、とても美味しかったと話しておりまして、他の家の従者が、ツナマヨと話していました。ツナマヨと言えば、幻の『黒猫様のお弁当』のおにぎりの名前、是非、私も食してみたいのです!!」
この客が捲し立てているので、周りの人は皆黙って成り行きをじっと観察しているみたいだった。
「まず先に、外のおやつは『海苔巻き』です。中身が、ツナマヨと鶏肉のそぼろです。食べたいのは、ツナマヨの方ですね。お一人だけ差し上げると不公平になりますので、お一つ200☆でお売りしましょう。それでよろしいですか?」
「はい!! ハナノ様、ありがとうございます!!!」
大感激の様子で、とたんにニコニコしだした客は、私に謝りに来た。
「黒猫様、つい興奮してしまい、ご迷惑をお掛けしました」
「大丈夫にゃ。希望が叶って良かったにゃ」
「はい!ありがとうございます」
ユリから出来立てのツナマヨ海苔巻きを渡され、帰っていった。
その後、次から次へとツナマヨ海苔巻きを注文され、ユリたちが間に合わないので、持ち帰り専用の先注文で受けることになった。
注文を取りに厨房に行くと、マーレイがたくさん缶詰を開けて、ツナマヨを作っていた。ソウが海苔を半分に切っていて、とても忙しそうだった。
注文の合間に仕込みもしているようで、区切りの良いところで大量に海苔巻きを作り、ユリかマリーゴールドのどちらかが、必ず海苔巻きを巻いているようだった。
「黒猫様、伝説のツナマヨが食べられると聞いて来ました!」
「ツナマヨ巻きは持ち帰りのみにゃ。先注文で、帰りに間に合うにゃ」
「え!今から作るのですか?」
「そういうことにゃ」
注文をしたものを取りに厨房にいくと、なぜかリラがニコニコしてマヨネーズらしきものを作っていた。
「マリーゴールド、あれ何にゃ?」
「リラさんでございますか? ユリ様からの提案で、ベルフルールでもツナマヨを売り出すことになりました」
「ありがとにゃ」
どういう経緯かわからないけれど、ユリとリラが仲良くしているなら良いことなんだろうと思う。
夕方、呼ばれて黒猫クッキーを作った。キボウも呼ばれ、世界樹様のクッキーに、時送りをしていた。
「夕飯、海苔無いからちらし寿司にしましょうか」
「恵方巻き、食べないのにゃ?」
「海苔使いきってしまったわ」
ツナマヨ巻きで、海苔の在庫を使いきったらしい。
「無いのが海苔だけなら、海苔、買ってこようか?」
ソウが海苔を買って来るらしい。恵方巻きは食べられるようだ。
お店の片付けをしたり、まだ残っているお客にお茶を継ぎ足したりしているうちに、ご飯が出来たらしい。
薔薇の花に見える綺麗な巻き寿司や、レタスと鶏肉のそぼろを巻いた巻き寿司があった。おかずは肉じゃがと、ほうれん草の胡麻和えらしい。
『皆がいつまでも幸せに暮らせますように』
黙って願い事を唱えてから食べ始めた。
お刺身の入った巻き寿司は美味しかった。鉄火巻きは食べたことあったけど、太巻きで、刺身が入っているのはたぶん初めて食べたと思う。
「豆まきするにゃー」
「炒り大豆用意してあるわよ」
ユリが、升に入った炒り大豆を渡してくれた。
「キボーは? キボーは?」
「はい。キボウ君の分よ」
ユリは、キボウにも升に入った炒り大豆を渡していた。
「鬼はー外、福はー内」
あまり豆を投げすぎないように、豆まきを始めた。
キボウも豆を持っているはずだけど、掛け声は聞こえず、あとから聞いたら、そのまま食べていたらしい。
私が2階に上がったあと、解散したそうで、ユリとソウとキボウも2階に来た。
突然、ソウのとんでもない質問が来た。
「なあ、ユメ。ユメは何粒食べるんだ?」
「にゃ!?」
「あら、ユメちゃん、何粒食べるの?」
確か、生誕324年で、そんなに食べられないなぁ。どうしよう。
「なーにー?」
「節分の炒り大豆はね、年の数だけ食べるものなのよ」
キボウが聞きに来て、ユリが答えていた。
するとキボウは升を見て、ユリに訴えた。
「たりなーい」
「キボウ君、何粒必要? 何歳なの?」
「よんひゃくこー! 4さい!」
「ぶは!」「え!」「やっぱりにゃ」
薄々わかっていたけど、キボウはやはり年上だった。でもキボウ的には4歳なのか。なら、私はルレーブではなくユメだ!
「飲んでもいない飲み物を吹き出したよ!」
「私はユメとして1歳にゃ!」
「私も女王として1歳くらいね!」
「あ、俺も生まれ変わって1歳くらいだな!」
皆一桁を主張して、撒いた豆を殆ど食べなかった。
ユリが拾い集め、お菓子に加工していた。




