夢の我慢
今日はWの日。
ユリたちは、お昼ご飯の後、出掛けていった。
突然部屋に来て、「ユメちゃん、ちょっと化けてくるわね!」と言ったのだ。私は意味がわからず唖然とした。すると、ユリと一緒にいたソウが、「カエンのところに行ってくるよ」と説明してくれた。
あー。リラの店に行きたいのか。
そういえば、そんな相談をされていたと思い出した。
今週は結構大変だ。
ユリが結婚式のお祝いで配ったアマンドショコラの追加が、見込みよりかなり増えて、まだ作り終わらないのだ。この二日間、お店に来た人には返したらしいけど、城に持って行く分が、全く足りないと言っていた。
私もユリとソウにお祝いを渡したいけど、何を渡したら良いかなぁ。
リビングに居るキボウに聞いてみようと思った。
「キボウ、ユリとソウの結婚のお祝いって、何か渡すにゃ?」
「おいわい?」
「みんな、花とか果物持ってきたにゃ」
「おいわい、もってくるー!」
キボウは転移で消えた。
何を持ってくるつもりなんだろう? どちらにしても、キボウはなにか候補があるらしい。
ちなみに、リラは、当日の絵らしい。
こうなったら、ハイドランジアか、メイプルにでも相談しようかな。
私は城のソウの部屋に転移し、呼び鈴を鳴らした。
「ハイドランジアか、メイプルは居るにゃ?」
「確認して参ります」
珍しく、予定を把握されていないらしい。公務がない日なのかな?
戻ってきたメイドは、今城に居る王族は、サンダーソニアだけだと説明していた。
「サンダーソニアは暇なのにゃ?」
「お暇かどうかはわかりかねますが、お声がけ致しますか?」
「頼むにゃ。暇なら、相談があるにゃ」
「かしこまりました」
再び聞きに行ったメイドは、割りとすぐに戻ってきた。
「失礼いたします。サンダーソニア殿下をお連れいたしました」
「ユメ様! せっかくお越しくださったのに、留守で申し訳ございません。お様母も、義姉様も、ご夫婦で非公式に里帰りしております」
「相談が有って来たのにゃ」
「相談でございますか?」
「ユリとソウにお祝い渡したいのにゃ。でも何を渡せば良いか、わからないのにゃ」
サンダーソニアは、しっかり相談に乗ってくれた。
ユリとソウとの関係性と、できることの中で、相手が喜ぶものが最適だと話がまとまり、買った品物よりも、私ならではの特色のあるものが良いと言われ、ユリとソウが知らない、魔法についての過去の話をまとめた書き物を渡すことになった。これは、私の居なくなった後、ユリの手に渡るように書いたもので、昨年書き上げてあるので、すでに渡せる形になっている。
「役立つ情報って素晴らしいですね!」
「1☆もかかってないにゃ」
そのノートもペンもユリに貰ったものだ。
「お金では買えない価値です! ユメ様のおっしゃるその情報の価値は、国家予算でも足りない価値だと思われます!」
「サンダーソニア、ありがとにゃ!」
「お役に立てたようで、何よりでございます!」
サンダーソニアには、黒猫クッキーと、ユリから貰ったラスクを渡すと、ものすごく喜んでくれた。
「楽しくお話しただけで、美味しいお菓子をいただけるなんて、戻ってきたお母様と、義姉様に、羨ましがられると思います!」
「にゃはは。また来るにゃー!」
「お待ちしてまーす」
転移で家に戻ると、キボウが、籠に入れた木の実を持っていた。ユリの魔力を全快にする、あの木の実だと思う。ちゃんと籠に入れているのが、凄いなと思った。
「キボウ、籠はどうしたのにゃ?」
「おかあさまのー」
「にゃ! お母様の持ち物が残ってるのにゃ?」
「あるよー」
なにか分けてもらえないか、そう言いたかったけれど、キボウは、お母様の事を「ルレーブだけ大事」と言っていたのを思い出した。キボウの物を奪ったらいけない・・・そう思い直し、私は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「キボウ、その木の実は、世界樹の森にたくさんあるのにゃ?」
「わかんなーい。かみさまくれたー」
「世界樹様から貰ってくるのにゃ?」
「あたりー!」
世界樹の森にその実が生る木が有るのかな? あの料理のように、その実を埋めたらたくさん生ったりするのかな?
あの森は不思議な場所で、謎なものだらけだ。
ユリとソウは、すぐ帰ってくるかと思っていたけど、なかなか帰ってこなかった。
本でも読んで待っていることにしよう。




