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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇子供ユメ◇

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夢の贈答

お店が開店すると、なぜかみんな籠を持っていた。貴族っぽい人も、平民ぽい人も、豪華さこそ違えど、籠を持っている。そしてみんな絶望的に似合わない。ちらっと見えるきれいな布を敷いた中には、花や果物が入っているらしい。


注文を全て出したあと、イリスに聞いてみた。


「イリス、何でみんな籠を持ってるのにゃ?」

「御結婚の御祝いではないでしょうか」

「そうなのにゃ!?」

「普通は、御祝いのメッセージと、その家で作ったものを、奥さまやお嬢さん等の女性が渡すのですが、こちらにお見えになるお客様は男性ばかりなので、ご自分でお持ちになられたのではないかと思われます」

「イリスも渡すのにゃ?」


少し沈黙があったあと、イリスがボソッと呟いた。


「マーレイに反対されました」

「にゃ?」

「普通は、お菓子や料理を作って渡すのです・・・」

「みんなみたいに、花か果物にしたら良いにゃ」

「マーレイが用意すると言っていました」


イリスが少し落ち込んで話が止まったとき、店内の客から声をかけられた。


「ユメ様、ハナノ様にお祝いをお伝えしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「呼んでくるにゃ」


厨房にユリを呼びに行った。


「ユリ、呼んでほしいって頼まれたにゃ」

「わかったわ」


ユリは少しキョロキョロしながらついてきた。テーブルの上の籠が目に入ったみたいだ。


「ユリ、ここに立ってにゃ」

「え、うん」


ユリに、みんなから見えやすい場所に立ってもらうと、座っていた者も全員が立ち上がり、揃った声でお祝いを言っていた。


「ユリ・ハナノ様、御結婚おめでとうございます」

「え、ありがとうございます」

「明日、参加できませんが、心より御祝い申し上げます」


あー、城に招待されないから、ここで御祝いなのか。ユリはみんなに慕われているんだな。

なんだか、物凄く心が温かくなった。


挨拶が終わったユリに聞かれた。


「ユメちゃん、御祝いって、誰がくれたかわかる?」

「メッセージが入ってるらしいにゃ」


ユリは安心したのか、紙束をくれた。


「ユメちゃん、とりあえずくれたかたには、デザート優待券を渡してくれる?」

「わかったにゃ。イリスにも言っておくにゃ」


ユリが厨房へ帰ったので、イリスにも伝えた。


「では、半分お預かりいたします」

「イリスが全部持ってた方が間違わないにゃ」


イリスにデザート優待券を全て渡した。二人で配るとわからなくなりそうなので、イリスに任せた。

すると、一人の客から手紙を渡された。


「ユメ様、こちらを預かって参りました」


読むと、年末に行った農園からのものだった。

要約すると、ソウに、結婚祝いの果物を送りたいけど、キボウが選んだ方が美味しいだろうからキボウと一緒に来てもらえないか?という内容だった。

あ、私は通訳か!

確かに、ソウにもユリにも頼めないから、私に頼むしかないんだろうなと思い、少し笑ってしまった。


「イリス、1時間くらい外しても良いにゃ?」

「はい。どこか行かれるのですか?」

「美味しい果物をもらってくるにゃ」

「はい。行ってらっしゃいませ」


キボウに以心伝心を送って呼び出そう。


『キボウ、果物もらいに行くから付き合ってにゃ』

『わかったー』


外で待っていると、キボウが転移してきた。


「キボウ、年末に行った、農園わかるにゃ?」

「パイナップル、ピタヤー?」

「それにゃ!」

「ユメー、かばんー」


キボウは、魔道具の鞄も持ってきてくれたらしい。


「キボウ凄いにゃ! 気が利いてるにゃ!」

「キボー、すごーい、キボー、すごーい」


キボウと転移すると、農園の人がすぐに気がつき、責任者を呼んできてくれた。


「黒猫様、お呼び立てしてしまい、大変申し訳ございません」

「構わないにゃ。最善の選択にゃ」

「キボー、きたよー」

「キボウ様、ご足労いただきましてどうもありがとうございます」

「ごそくろー?」

「わざわざ来てくれて、って意味の丁寧な言葉にゃ」

「ごそくろー、ごそくろー」


キボウって、難しい言葉を話さないだけで、意味はわかっていると思ってたんだけど、段々知能が低下してる気がしないでもない。

大丈夫かなぁ?


「種類といたしまして、アテモヤ、アボカド、キワノ、グァバ、パパイヤ、スターフルーツ、チェリモヤ、ピタヤ、ドリアン、パイナップル、パッションフルーツ、バナナ、マンゴー、マンゴスチン、ライチがございます」

「半分くらいわからないにゃ」


アテモヤ、キワノ、グァバ、チェリモヤ、パッションフルーツ、マンゴスチンが、ユメにはわからなかった。


アボカド、パパイヤ、スターフルーツ、ピタヤ、ドリアン、パイナップル、バナナ、マンゴー、ライチは、食べたことがないものもあるが、ものが想像できる。


「お好みがございましたら、そちらを。無いのでしたら、おすすめをお持ちください」

「おすすめで良いにゃ。あと、私が個人的に買っても良いにゃ?」

「はい!お好きなだけお持ちください。お呼び出しした御足代としてお納めくだされば幸いにございます」

「キボウは欲しい種類あるにゃ?」

「わかんなーい」


農園の地図が渡された。転移前提の移動のようだ。


「何をどのくらいの予定にゃ?」

「ホシミ様の奥方様になられるハナノ様は、種類にお詳しいようでしたので、全種類とも思いましたが、食べやすいものだけにしようと考えております」

「どこから行くにゃ?」

「では、アボカドから」


地図を見て農園につくと、キボウが聞いてきた。


「いっこいるー?」

「あ、ありがとうございます!」


農園の人に気を使えるなんて、成長したのかな?


「キボウ偉いにゃ! キボウ頼んだにゃ」

「わかったー。アボカードー!」


結局、農園を12か所も回った。比較的そばの場合もあったけど、少し分かりにくい場所もあった。


アボカド30

キワノ5

グァバ5

スターフルーツ5

パイナップル30

パッションフルーツ5

バナナ30

パパイヤ20

ピタヤ30

マンゴー30

マンゴスチン10

ライチ200


ライチが多いのは、私の希望が入っている。ルレーブだった時も、川井翼だった時も、好きだった果物なのだ。ユメになってから食べていないけれど、たぶん好きだと思う。それにしても、昔は初夏にしか味わえなかったのに、今は、この国では割りと一年中収穫できるらしい。技術の進歩なのかなぁ?


「こんなに貰って良いのにゃ?」

「もっとお渡ししたいくらいでございます」

「ソウに手紙無いのにゃ?」

「あ、はい。こちらをお願い致します」


やはり可愛らしい籠に入った花が一緒だった。


「今日中に、ソウに渡しておくにゃ」

「よろしくお願い致します」


キボウは、農園からそのまま家に戻っていった。

店に戻ると、イリスが割りと暇そうにしていた。


「ただいまにゃ! 遅くなって悪かったにゃ」

「ユメちゃんおかえりなさい」

「忙しくないのにゃ?」

「今日は、比較的暇ですね。お祝いを置いて、お土産を買って帰る人が多いです」


ちょっと厨房を覗くと、ユリは座っていて、リラとシィスルとマリーゴールドが、何か作っているのが見えた。

あ、厨房も暇みたい。


その後もイリスが言ったように、籠を置いて帰るだけの人や、お土産を買うだけの人が多く、店で食べていく人は少なかった。


あっという間に夕食の時間になり、ユリが食事を6人前だけ並べていた。

あれ?誰が食べないんだろう?


席についたのは、ユリ、ソウ、キボウ、私、マーレイ、イリスだった。なんとリラたちは、試作品の食べすぎで、お腹が空いていないらしい。


「ユリ、俺、良いの発見した!」

「ん? なあに?」


ソウが突然宣言した。なんのことだろう?


「普通のクッキー生地を少し分けてもらえる?」

「かまわないわよ。リラちゃんに聞くと良いわ」


あー、昼に言っていたクッキーの話か!


「ソウ、何作るにゃ?」

「へへー、内緒」

「私は出掛けるから、あとよろしくね」


ユリはあまり興味がないのか、さらっと流して出かけていった。

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