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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇子供ユメ◇

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夢の七草

朝ご飯の後、部屋で本を読んでいた。

魔法の無い異世界に生まれ変わる話で、まるで私のようだと思いながら読んでいた。

そう言えば、黒猫になる少し前、意識だけが漂っていた頃、こんな感じの小説を読んだ気がする。

元々あやふやだった漂っていた頃の記憶は、年を明けてから、更にあやふやさを増して、ぼんやりとしか覚えていない。


私の記憶は、段々失くなっていくのだろうか?

大好きな人たちを傷つけないと良いな。

迷惑をかけないと良いな。


小説を読み終わった後、借りてきた図鑑を見た。

アルストロメリアの花の説明に、ユメユリソウ、ユリズイセン等と呼ぶこともある。と書いてあった。ユリに名前の秘密を教えられ、ソウに図鑑を見てみると良いと言われた時、その話の衝撃に、すっかり図鑑を見るのを忘れていた。

本当に書いてあることに、なんだかホッとして、とても嬉しくなった。


一人ニヤニヤ図鑑を見ていると、キボウが呼びに来た。


「ユメー、ごはんー」

「キボウ、ありがとにゃ」


リビングに行くと、ユリはいなくて、煮魚とだし巻き玉子と、緑色の葉っぱが入ったお粥のようなものがおいてあった。


後から、ユリとソウがリビングに入ってきた。

ユリは、ソウを呼びに行っていたらしい。


みんなが席につくと、ユリが説明してくれた。

今日は七草らしい。


思い出してみると、明確に食べた記憶はないのに、世界樹の森で見せられた記憶で、美味しくなかったという気持ちだけが残っていて、食べたくないと思った。


「昔食べたにゃ。食が進まなかった記憶だけがあるにゃ」

「子供の頃、これ、出されるのが苦痛でさぁ」

「やさい!やさい!」


なんと、ソウも苦手らしい。ユリが作ったものを拒否するソウを初めて見た気がする。キボウだけは、野菜入りだと喜んでいた。


「それだけを食べようと思うから食べにくいのだと思うのよね。特製あんかけをかけるか、海苔の佃煮と一緒に食べるか、味のついたおかずと食べれば食べられるわよ」


七草粥は、そのまま食べないらしい。

でも、しょっぱいおかずと一緒でも、食べにくかったように思う。なのにユリは、あんかけか海苔の佃煮という選択肢を提示していた。多分知らない食べ方だと思う。


「あんかけにゃ?」

「これ、作ったから、試してみてね」


ユリがすすめるのだからと、すぐにそのあんかけをかけてみた。

恐る恐る食べた七草粥は、あんかけのおかげで、ものすごく食べやすい、むしろ美味しいものだった!


「美味しいにゃ! ユリ凄いにゃ!」

「俺も食べてみる」


私の様子を見ていたソウも、あんかけをかけて食べたようだ。


「お!旨いな! あと引く味で、さらっと食べ終わる」

「キボーも!キボーも!」


ソウも喜んでいた。ユリは、キボウの七草粥にもあんかけをかけてやり、にこにこしてみんなを見ていた。


「おいしー!おいしー!」


あれ? そう言えば、ユリは食べないの?

私の視線を感じたのか、ユリが話し始めた。


「私もお粥が苦手でね。どうにかして美味しく食べられないかと思ってね」


七草粥ではなく、お粥そのもの?


「お粥が苦手なのにゃ?」

「病人食みたいでしょ。子供の頃、風邪を引いて一人で寂しかったのを思い出しちゃうのよ」

「あー、ユリのところ、ご夫婦で仕事してたもんな」


看病してほしかったのかな。

私は、悪夢の呪いをかけられたとき、ユリが助けてくれたのが本当に嬉しかったと覚えている。

そばにいてくれるのって、とても大事で、とても大変なことなんだと思う。


「でも今考えると、わざわざお粥を作ってくれたのよね。私は炊飯器で手軽に作ったけど、きっと父は、米から鍋で作ったと思うし、手がかかっていたのよね」


炊飯器で作れるの!?

あれ?お父さんが作ったの?


「ユリのお母さんは作らなかったのにゃ?」

「母は、桜花餅(おうかもち)以外は、たまーに真ん丸のおにぎりを作るくらいね。新婚の頃にコロッケを爆発させて以来、料理はしていないと話していたわね」


コロッケって、爆発するの?


「お餅は作れたのにゃ?」

「餅つき機があったからね、あ、餅つき機借りてきたから、桜花餅作る?」

「作るにゃ!」

「つくるー!つくるー!」


ソウの実家から借りてきたという餅つき機は、お米10合がお餅になる餅つき機だった。

餅つき機は、研いだ餅米と水を入れておけば餅ができるらしい。

炊飯器の普通のお米とは少し違う匂いがして、餅米が炊き上がった後、ガタガタと凄い音がして、機械が壊れたかと思ったら、機械の餅つきの音らしい。


お餅がつき上がると、ユリはお餅全部に桜の塩漬けを入れ、桜花餅を作っていた。

桜が混ざったお餅は、半分に分け、長細くしてから潰すようにしていた。


そうか、食べていた桜花餅は、これを切ってあったのか。

ユリがナマコ餅と呼んでいる形にすると、半分をソウに渡していた。


半分の桜花餅は、餅つき機のレンタル代らしい。

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