夢の上司
グンジョーを出発したあと、すぐにユリは眠ってしまった。
ユメはクーファンをキボウに貸してしまったので頑張って起きていたら、ソウから声をかけられた。
「ユメも眠かったら寝てて良いぞ。転移ポイントについたら声かけるから心配するな」
「わかったにゃ」
「ソウは起きてるのにゃ?」
「俺は眠くないからな」
◇◇◇◇◇
「ユメ、ポイントに着いたぞ。馬車で帰るか? ユリと一緒にシィスルとマリーゴールドを送りにいくか?」
ソウに起こされた。
「着いたのにゃ? ・・・送りに行くにゃぁ」
欠伸をしながら答えると、違和感に気づいた。
あれ? キボウはどこに行った?
ユリが馬車を降り、ソウも降りようとしていたので聞いてみた。
「ソウ、キボウはどこに行ったにゃ?」
「突然転移していったぞ。行ってくるーって言ってたから、帰ってくるだろ?」
ソウが馬車を転移させるために降りたので、一人になった。
ポイントからの転移後、私も馬車を降り、ユリについて行くことにした。
ユリの魔力で全員転移した。リラもいっしょだった。
時間が遅いためか、辺りが大分暗い。
「暗いと雰囲気違うわね」
ユリはのんきに感想をのべていたが、初めて乗り物に乗らない転移をしたシィスルとマリーゴールドは転移酔いをしたらしく、少しふらついていた。
「あう・・・」
「う・・・」
「ふー」
リラは、大丈夫らしい。
「大丈夫? 転移酔いした?」
ユリが尋ねると、あまり大丈夫そうに見えない二人が答えていた。
「だ、大丈夫です」
「大丈夫でございます」
「私は慣れました!」
リラは全く問題ないようだった。
「私も最初の頃はクラクラしていたから、そのうち慣れると思うわ」
ユリも初めてグンジョーに行ったときは、フラフラしてたなぁ。そういえば。
「馬車に乗ったままよりも、こう、なんというか、間違ってお酒を飲んでしまったような感じで・・・」
シィスルは、かなり酔っているようで、大変そうだ。
「それ、やっぱり酔ってるわよ? 無理せず、少し休んでね?」
「申し訳ございません」
「謝る必要ないから、無理しないようにね。荷物を渡すから、待ち合わせ場所までいくわ」
先に立ち直ったマリーゴールドが、みんなを案内して宿のそばまで来た。マリーゴールドが人を呼びに行った。宿の人に呼ばれて出てきた男性が、マリーゴールドを見て驚いていた。
「お嬢様!! 御者のマーレイはどうしたのですか!? まさかシィスルさんとお2人で?」
「あ、いえ、あのね。他に誰が来てる? みんな呼んでもらえる?」
「かしこまりました」
次に来たのは、マリーゴールドの兄と、シィスルの父らしい。小声で「御兄様」「お父様!」と言っているのが聞こえた。
「マリーゴールド、何故誰も連れていな・・・ そちらは?」
マリーゴールドとシィスルの後ろにいた私達は、暗いのもあって、見えなかったらしい。
「お兄様、こちら、ユリ・ハナノ様、ソウ・ホシミ様、黒猫のユメ様です」
「は? えー!!」
いっせいに回りの人たちが平伏した。
少し慌てたユリがすぐに次を促していた。
「あ、公式じゃないので、平伏さないでください。単なる保護者として来ましたので、すぐ荷物の引き継ぎをしてもらえると助かります」
「かしこまりました!」
マリーゴールドの兄は馬車を探しているらしく、キョロキョロしていた。
「あの、荷物はどちらにございますでしょうか?」
「そちらの馬車、もしくは、荷物置き場はどこですか?」
「荷は宿に持ち込みますので、どこへでも引き取りに伺います」
「なら、宿のそばまで行きましょう」
宿のそばの人通りがない場所に来て、ユリは得意の杖を振り、蓙と荷物を次々出していった。
マリーゴールドの兄や、シィスルの父や、その他の従者たちがみんな石のように固まって動かなくなっているのをお構いなしに、リラの蜜柑を配り終えるまで ユリの独擅場だった。
「預かった荷物は以上です。リラちゃん、挨拶する?」
「はい。少しお時間いただきます」
リラが呼び掛け、やっと正気に戻ったようだったが、今度は、頭を下げたまま動かなくなった。最初に来た従者が荷物を全部引き取って片付け、リラが日付の確認をし、シィスルとマリーゴールドに直接約束をして、さっさと帰ることになった。
「シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん、またねー」
「ありがとうございます!」「ありがとう存じます!」
ユリが、全員をつれて家まで転移した。




