夢の登録
ユリが迎えに来たので帰ることにした。
城のソウの部屋まで歩き、忘れない内に言っておこうと思い、ユリに伝える話の件を話した。
「ユリ、世界樹の森であったこと、特に私がいなかった間の話をハイドランジアにして欲しいにゃ。公開されないけど、王家の記録には残るにゃ」
「それってもしかして、王の努め的な何か?」
「そうなのにゃ」
「ユメちゃんが居なかった辺りの話ね。わかったわ」
嫌がられるかと思ったら、何となく察していたのか、すんなり受け入れてくれた。
「ソウとカエンにも頼みたいにゃ」
「ソウはともかく、カエンちゃんはどうかしら?」
カエンはソウのために参加したらしいから、その他の何に興味があるのか、よくわからないのだ。唯一、魔力の低さに苦労しているようだったから、これで頷いてくれることを願おう。
「カエンの魔力を増やす方法があるにゃ。それで手をうってもらえないか聞いてみて欲しいにゃ」
「わかったわ。家に帰ってから行ってみるわ」
「ありがとにゃ」
家に戻り、ユリがご飯を作っているとソウが帰ってきた。ビックリすることに、カエンをつれてきていた。
カエンは出されたお茶を飲みながら、ユリにお願いをしていた。
「ユリ御姉様、新しいクッキーというのを分けてはいただけないでしょうか?」
情報が早いなぁ。先読みで見たのかな?
「え? 世界樹様のクッキー?」
「はい!」
「何かあるの?」
「能力的なものが上がるようでございます。例えば、素早さとか、持久力とか、精度などでごいます」
へぇ。そんな効果があるのかぁ。
「あ、えーとね、カエンちゃんに頼みが有るんだけど、とりあえず聞いてもらえる?」
ユリは、今話してくれるらしい。
「はい」
「世界樹の森でのユメちゃんが居なかった辺りの話を、王妃のハイドランジアさんに話して欲しいの。強制ではないけれど、できる限り協力を要請するわ」
「構いませんが、わたくしの目から見た話をすればよろしいのでしょうか?」
「その通りにゃ。頼むのにゃ」
「いついたしますか?」
「クッキー作っておくから今行ってくる?」
「はい。それで構いません」
「なら、俺が連れて行ってくるよ」
ソウも行くなら、言っておかなければ。
「ソウもカエンと同じにゃ。ソウは強制にゃ」
「あー、国民の義務的な?」
ソウは苦笑いをしているみたいだった。
カエンに、きちんと条件を伝えよう。
「カエン、国民登録をすれば、魔力が増えると思うにゃ。どうするにゃ」
「その場合、こちらに住むことになりますか?」
「名誉国民としての登録だから、式典で呼ばれない限り、向こうに居ても大丈夫にゃ」
「登録だけで魔力が増え、特に住まいの制限もなく、わたくしに美味しい点しかございませんが?」
ダメな点がないと話として怪しいのかな?
「世界樹の森の話が、報告義務になるにゃ」
「呼ばれる式典は何がございますか?」
「直近だとユリの婚姻の義くらいにゃ」
「是非、名誉国民にしてくださいませ!」
あれ? むしろ出たかったの?
ソウの妹だから、招待はできると思うけど、今言うと混乱するから黙っておこうかな。
「セカンドネームを入れるにゃ。好きな植物の名前を考えると良いにゃ」
カエンは、ソウに連れられ城に行った。
「ユメちゃん、私はいつ話せば良いのかしら?」
「確認があると困るにゃ。できれば私の記憶があるうちに頼むにゃ」
質問があったときに、答えられるうちが良いと思う。
「明日にでも行ってくるわ。さて、クッキー作ろうかしら」
「手伝うにゃ!」
ユリと二人きりで、クッキーをたくさん作った。黒猫クッキーはなく、全部世界樹様のクッキーだったけど、楽しかった。
そういえば、カエンが言っていたのは、ユリの女神の慈愛効果ではなく、もしかしたらキボウのなにかだろうか?
「ユリ、カエンが言っていたのは、キボウが時間を早めるからかにゃ?」
「あー、そうかもしれないわね。仕上げをしてからキボウ君に聞いてみましょう」
冷めた、先に焼いた分に緑色の物を塗っていると、キボウが起きてきた。クッキーを見る前から歌っている。
「クッキー、クッキー、キボーのクッキー」
「キボウ君、カエンちゃんが、このクッキーに効果があると言っていたけど、キボウ君が時送りをするからかしら?」
「あたりー!」
あ、やっぱりそうなんだ。
「カエンちゃんに頼まれた分なんだけど、時送りしてもらえる?」
「わかったー。いちじかーん」
キボウは、お気軽にユリの頼みを聞き、手をかざしていた。
濃い緑色だったクッキーの表面が乾燥して、薄い緑色に変わった。
「キボウ君ありがとう! キボウ君も食べるわよね」
「たべるー、たべるー」
キボウはユリから手渡されたクッキーを食べ、おとなしくなった。
「ユリ、いくらで売るにゃ?」
「どうしようかしら? 手間はあまり変わらないけど、材料費が結構高いのよね」
「500☆くらい取れば良いのにゃ。あと、パウンドケーキも値上げするのにゃ。安すぎるのは問題なのにゃ」
「パウンドケーキは、値上げしようと思ってたわ。さすがにね」
クッキーを食べて満足したのかキボウはうつらうつらしていた。
残りのクッキーも冷めたので、緑色のを塗ると、キボウが起きてきて、時送りをして乾かしていた。
「キボウ君、時送りをして疲れたりしないの?」
「しなーい。パウンドケーキたべるー。しなーい」
何となくわかるような、全くわからないような。
これを通訳している人は、凄いなと思う。
「んー? パウンドケーキを食べれば時送りを使っても大丈夫って意味かしら?」
「あたりー」
うわ!ユリが通訳しだした。私はルレーブの記憶があるうちに、キボウの言葉がわかるようになるだろうか。
まあ、それよりも、効果が確実ならあまり安く売ると問題だろうと思う。
「ユリ、毎度効果があるなら500☆では安いにゃ」
「なら、2種類作りましょうか? キボウ君に手伝ってもらったものと、普通に売るものと」
「どうやって分けるにゃ?」
「デザインで分ければ良いかなって」
「どんなデザインにゃ?」
「この絞り口金で、花っぽく」
ユリは絞り袋で、アスタリスクみたい模様をつけて見せた。
中身は、色が白いだけで、塗っているものと同じらしい。
「アスタリスクみたいにゃ」
「あはは、アスタリスク、確かに似てるわね」
そう言いながら、クッキーの緑の部分に、模様をつけていた。
「これをいくつかポンポンと、花みたいでしょ」
「でも、これだともう一度乾かすことになるにゃ」
疑問を呈すると、あっさり違う方法に変えていた。ユリのなかでもまだ固まっていなかったらしい。
「なら、スタンプで模様でもつけましょうか」
「それが良いにゃ!」
ユリは、新しい判子を持ってきて、食用インクというもので、緑の上にスタンプしていた。
[Alstroemeria]
「これでどう?」
「良いと思うにゃ!」
アルストロメリアと書いてあった。
「キボー、おすー」
「キボウ君もやってみたいの?」
「あたりー」
キボウが押すらしいので、判子はキボウに任せ、残りのクッキーをユリと一緒に仕上げた。
「少しずれちゃったのは、食べちゃってね」
ユリがキボウに言うと、何枚か食べているのが見えた。
100枚以上出来たみたいで、見渡していると、ソウとカエンが帰ってきた。
「ユリ御姉様、何枚譲っていただけますでしょうか?」
「100枚まで可能かな」
「では、100枚お願い致します。これでよろしいでしょうか?」
カエンは札束を取りだして、ユリに渡していた。
「1枚、1万円?」
ユリはかなり驚いた顔をしていた。
「足りませんでしたか?」
心配そうに聞くカエンに、ユリはなにか思ったのか、笑顔になり、そのまま売っていた。
「いえ、お買い上げありがとうございます」
大分高いのに良いのかなぁと思い、あとでソウに聞いたところ、カエンの収入からすれば、微々たるものだから問題ないよと言っていた。
「カエン、名前決めたら連絡してにゃ」
「はい。お兄様の家に連絡をいれます」
クッキーを袋にしまいながら、ユリに、名前の登録方法を説明しておかないとなぁと考えていた。
カエンはクッキーを全て持ち、ソウに送られ帰っていった。




