夢の贈与
戴冠式当日。
お昼を少し過ぎた時間から始まる。
ユリは前回より、色味が増え、少し派手になった衣装に、藍色のローブを纏っていて、手には、私が昨日渡した杖になる鞄を持っている。
出掛けにソウから「なめられないようにするんだぞ?」と言われ、「えー」と言っていた。
「ユメちゃん、みんなが認めないと言ったらどうしよう」
「威圧すれば魔力差に認めるしかないにゃ」
「威圧ってどうやるの?」
「本気で怒るか、心の眼で睨むのにゃ」
「心の眼で睨むなんて、そんな器用な・・・」
少し驚いた顔をしたあと、呟いていた。
話していないと間が持たないのか、色々質問してくる。
「この鞄、ユメちゃんは、他にどんな形にしてみたの?」
「ティアラとか、ブローチとか、ネックレスにゃ。振り回せなくて使えなかったにゃ」
「う、ユメちゃんの方が、大人だった・・・」
年齢的には私の方が大人なのだ。
「ユリは何にしたのにゃ?」
「魔法少女ステッキ型」
「私の時代にそういう発想がなかっただけにゃ」
「うー」
ユリの中では、私は保護対象なのだろう。私に慰められたことが少しショックらしい。
「私の前に使っていた魔女は、指輪にしていたらしいにゃ」
「杖が目立ちそうな場合、指輪にしてみるわ」
目立つと困る場所に持っていくのか。
「向こうで人前で使うときは、鞄型が良いにゃ。いきなり取り出したら、怪しい人にゃ」
「な、成る程。色々難しいのね」
あの魔力の薄い世界で生きてきたはずなのに、すっかりこちらに慣れたんだなぁ。
「鞄の中はほぼ無限で入るにゃ。でも、1/1000、つまり、1トンで1キロくらいの重さがかかるにゃ。これは、他の鞄も一緒にゃ。転移制限の重量は、1/1000ですむにゃ。体重50kgなら、50トンくらい持ち運べるにゃ」
「凄いのねー!」
たまには、ユリが感心する立場なのも面白い。
よし、ここで取って置きの話をしてやろう。
「裏技があるにゃ。鞄二つに50トンずついれても、もうひとつの鞄に入れれば、100gにゃ」
「凄すぎて、わけわからないわね」
「使うときは、常に40~50kgの荷物を入れておくと、盗難防止になるにゃ」
(※魔力が1万p以上無いと、軽くならないため)
「盗んだ人には、持ちたくない重さね。ふふふ」
「あとは、中は時間停止状態にゃ。生き物は入れちゃダメにゃ」
なぜかはわからないが、中にいれた生き物は、その時間が長いほど発狂するのだ。
「わかったわ」
コンコンコン
「ホシミ様をお連れいたしました」
「入ってください」
「ユリ、『入りなさい』にゃ」
「あうー」
「なにしてるの?」
ユリがうなだれているとソウが聞いてきた。
「ユメちゃんに怒られたー」
「なんで?」
「さっき、入ってくださいって言ったから」
「『入りなさい』か、『入れ』だな」
「えー、ソウは出来るの?」
「こっちに来て10年以上経つからな」
ユリがソウを驚いた顔で見上げていた。
「ソウ、時間にゃ?」
「ユメは着替えないのか?」
「面倒だから、変化するにゃ」
「わー、ユメちゃん横着ー」
今日の主役はユリだから、私が張り切る必要はないのだ。それに、私もコルセットは嫌なのだ。変身してドレスになれば、きつくないのだ。
「そこで寝てるキボウはどうすんだ?」
「キボウ君の、地位がわからないのよね」
「魔力的には、ユリより下で、私より上にゃ」
「そうなの!?」「そうなのか!?」
「プラタナスが、桃色に塗ってたのにゃ」
実は、女王だった時のユメよりも魔力値は高い。
小さな声で、「俺が一番低いのか」と、ソウが呟いているのが聞こえた。
ソウは前回と同じ衣装で、ユリより派手だ。
「それより、ソウは、それで出るのにゃ?」
「おかしいか?」
「もう少し寒色を入れた方が、ユリが映えるにゃ」
「どうすれば良い?」
ソウが食いぎみに聞いてきた。
「私用に作ったマント使うにゃ?。仕立て屋が、当日の靴がわからなくて、長いのも作ってきたから合うのがあると思うにゃ」
とりあえず見てみると言うので、メイドに持ってくるように頼んだ。
マントを見たソウは気に入ったようで、一番長いものを着用していた。
ソウのエスコートでユリは登場した。
ユリは少しだけかかとの高い靴を履いているので、足元が不安らしい。
あ、キボウつれていくの忘れた。
よし、このまま連れていって置いてこよう。
ユメのままキボウのクーファンを持ち、会場にいくと「黒猫様のユメ様だ!」と聞こえた。
さっさと退場し、戸の陰でさっと変身した。
再び入場し、席についた。
聖女出身のユリは、あまりしゃべらなくても不思議に思われないので、ほとんどの進行を私が行った。
ユリのお披露目式が無事終了し、私の話をする時間になったので、きちんと話をした。
「我が、黒猫のドリームに借りしこの体、約束の通り世界樹の森へと還そう」
私の宣言に、貴族たちはかなり動揺していたが、むしろ、私はいつまでいると思われていたんだろう?
その後、私に一言あると言う者たちが、列をなした。
「初代様、私たちを長くお見守りくださりありがとうございました」
「初代様、素敵な国を建国してくださりありがとうございました」
「初代様、過ごしやすい国をお作りくださり感謝しております」
みんな感謝の言葉だった。
私の苦労が報われた思いだった。
国を治めていた頃は、感謝の言葉なんてなかった。
戦争を知らない国になったんだなと実感した。
人垣が少し減ってきた頃、ユリの方が騒がしくなった。
なにやったんだろう? と心配だったが、ソウがついているので、大丈夫だよね? と思っていたのに、なぜかユリはパウンドケーキを山ほど取りだし、給仕にカットしてくるように頼んでいた。
ソウは止められなかったらしく、愕然としていた。
それでも、パウンドケーキを配られた者たちの士気は上がったらしく、ユリは国民に愛される女王になることが予想される。
式が終了し、私の部屋に集まった。
「ユリ、登録するにゃ」
「何に?」
「城の隠し通路とか、結界とか色々にゃ」
「隠し通路とかあるの!?」
無かったら、緊急時にどうするつもりなんだろう?
「何でみんな同じ反応にゃ?」
有ると想定していないことの方が、私には驚きなのだ。
「どうすれば良いの?」
「こっちに来るのにゃ。ソウはちょっと待っててにゃ」
そんなに深い意味はなかったんだけど、ソウは少し違う意味でとらえたみたいだった。
「見ない方が良いか?」
「ソウなら見ても良いにゃ」
「そうか」
ソウが少し笑顔になった。
ユリに珠を触らせ、まずは城の中を行き来できるようにした。ソウにも教えなかったレベルで情報を開示する。
「この珠を起点に、結界を展開するにゃ」
「これで良い?」
ユリは簡単に結界を張って見せた。
私は最初苦労した覚えがあって、ユリとの魔力差を感じた。
「これでユリが意図しない者は入れないにゃ」
「ユメちゃん凄いのねー」
「作った人が凄いのにゃ。あとは、隠し部屋にゃ」
王妃の間の鏡の先の隠し小部屋に入った。
「ここから塔の隠し部屋に転移できるにゃ」
「凄いわねー!、もう、ずっと凄いしか言っていない気がするわー。うふふふふ」
ユリがなんだか楽しそうだ。
「ユリ、ゲート使えるのにゃ?」
「使えたわね。ソウを助けるときに、扉も結界も通り抜けてきたわ」
「なら、ここに直接も来られるかもしれないにゃ。私はできなかったから試してないにゃ」
ユリには全ての情報を開示したので、ソウに出来なかった城での転移も出きるだろう。
「うん。でも、私はあまりここには来ないわ。お家でユメちゃんと一緒に居たいから」
「ユリ、ありがとにゃ」
最後まで一緒に居てくれるユリに、感謝しかない。




