夢と希望
ユリから、ゲートの使い方を聞かれた。
私は実践したことはないので、ソウに聞いたままを説明したが、ユリは上手に使えたようで、ゲートと転移を使って、元の国にソウを探しに行った。
早く無事に帰ってくるように祈っておこう。
ユリは朝作ったと言う黒糖フルーツパウンドケーキを大量に魔道具のリュックにしまい込んで出掛けていった。カエンへの報酬なのかな?
私が使っている杖になる魔道具の鞄もユリが使えるように登録しよう。そもそもこれは、女王の持ち物だから、ユリが持つべきなのだ。
ソウも鞄を持ったままカエンを送りにいった。
ユリとソウは、今日中に帰ってくるのかな?
ちゃんと仲直りしてくれるかな。喧嘩したわけではないけれど、責任を感じる。
誰かが呼んでいる気がした。
なんだろう?
少しすると、さらに大きな声で、ルレーブー、ルレーブーと呼んでいるのがはっきり聞こえた。
以心伝心ではなく、テレパシーみたいな頭に直接響く声だ。
そもそも、私をルレーブと呼び捨てるのは母上か、世界樹様くらいなので、心当たりがない。
すると、目の前に転移してきた。
頭が緑色の子供が。
あ、幼木。
「ルレーブー、おいてくなんてひどいよー」
「私は連れていけとは頼まれていないにゃ」
「『おかあさま』はー?」
「ユリは出掛けてるにゃ。ユリのことは、『ユリ』と呼ぶのにゃ。『おかあさま』だとユリが困るのにゃ」
「わかったー」
「私のことも、ルレーブではなく、ユメと呼ぶのにゃ」
「わかったー」
「名前はなんにゃ?」
「キボー」
「木棒?」
「ユメとキボー」
「希望にゃ。良い名前にゃ」
「ユリがつけたー」
「良かったにゃ」
天然パーマが緑色の子供って、目立ちそう。
「キボウは、髪の色を変えられるにゃ?」
「なにいろー?」
「黒髪、茶髪、金髪とか、人間ぽい色にゃ」
「むりー。『き』だからー」
「なんで聞いたにゃ!」
「ユメー、くろねこいろー」
これ、面倒みるの? 私にはやはり小さい子の面倒は無理だ。
「キボウ、城に行ってみるにゃ?」
「いってみるー」
「つかまるのにゃ」
「わかったー」
ソウの部屋に転移し、メイプルかアネモネを探した。
「メイプル、良いところにいたにゃ!」
「ユメ様、どうされま、し、・・・誰ですか?」
王族エリアに連れてきたためか、髪が緑のためか、メイプルが怪訝な顔で聞いてきた。
「世界樹様からの預り子にゃ。今ユリがいなくて私では面倒みれないにゃ」
「キボーだよー」
「希望という意味にゃ。名前はキボウにゃ」
「え、世界樹様の? 世界樹様から? 」
メイプルは混乱してか、要領を得ない。
「養育係を貸してにゃ」
「お待ち下さい。すぐ手配します」
メイプルは理解すると、すぐにプラタナスの養育係を呼んでくれた。
「助かったにゃ。話が通じなくて困ってたにゃ」
「まともに会話しようとなさったんですか?」
「にゃー。そうだにゃ! 話があるにゃ。呼べるだけ呼んでにゃ」
「母上とアネモネは、今不在ですが」
「なら、メイプルから話しておいてにゃ」
「かしこまりました」
自分の記憶が1か月しか持たないこと、その後、ユメとしても1年の猶予しかないこと、それらをメイプルに話した。
「ちょ、ちょっと持ってください、それを私から母上とアネモネに話すのは、」
コンコンコン
「王妃様とアネモネ様をお連れいたしました」
「入ってー」
入ってくるなり、ハイドランジアとアネモネは同時に捲し立てた。
「メイプル様、聞いてくださいませ、初代様が、」「メイプル、聞いてちょうだい、初代様が、」
「二人とも、初代様ならこちらに」
「お邪魔してるにゃ!」
「初代様!」「初代様!」
「どうしたのにゃ?」
「今、ローズマリーのところで聞きましたが、記憶が続かないとは本当でございますか?」
「本当にゃ。ルレーブの記憶は今月いっぱいにゃ。ユメの命は来年いっぱいにゃ。何か聞くことがあったら早めに頼むにゃ」
「ユリ様は、どちらに?」
「ユリは、ソウを連れ戻しに行ったにゃ」
「連れ戻しとは?」
「ソウ、戻ってきてないのにゃ。向こうで拘束されてるらしいのにゃ」
「え、ソウが捕まることがあるの!?」
「それで、私だけでは面倒みられないからここに来たのにゃ」
「面倒とは、何かございましたか?」
「世界樹様からの預り子を連れてきたにゃ」
「え?」「子供?」
帰ってくるのに5年かかった理由は、私の命を長らえさせるためだったと話し、ユリたちが負った対価を理解してくれた。
幼木の養育と5年の消失、それをもってしても、記憶の1か月と余命の1年なので、これ以上は望めないし、望まないでほしいと説明した。
キボウの様子を見に行くと、プラタナスと仲良く積み木のようなもので遊んでいた。
「キボウ、帰るにゃ? ここで遊んでるにゃ?」
「ユリがきたらかえるー」
「メイプル、ユリが戻ってくるまで預かってもらえるかにゃ?」
「構いませんが、ソウは大丈夫なのですか?」
「今のユリは最強だから大丈夫だと思うにゃ」
ユリの正体が国民にばれている今、私はどうなのか聞いてみた。
ユメと言う名の黒猫様は、新女王が連れている黒猫様という認識で、初代様と同一であることを知っている人は特に増えてはいないと言われた。
リラは自分で気づいたそうで、ハイドランジアが話す機会があったときに、確信した上で、口外しない姿勢だったと話してくれた。
「一度家に帰るにゃ。ユリが居なかったらまた来るにゃ」
「ユリ様がご不在でしたら、お食事にいらしてくださいませ」
「わかったにゃ」




