夢の余命
「そなた、あまり幸せな生ではなかったようであるな」
「あなたは?」
「ルレーブ?」
「あ、世界樹様、失礼いたしました。意識が過去に飛んでおりました」
「ルレーブの記憶を消し、ユメとして生きるか?」
「他の者への負担は無しでしょうか?」
「負担はあるが、奪うものはない」
「負担の内容は教えていただけますか?」
「幼木の養育である」
「私はどのくらい生きられるのですか?」
「1か月であるな」
「お受けいたします」
「そなたの母の話をしておこう」
「ありがとうございます」
「そなたの母は、そなたが生まれるときに占いをしてもらったそうだ」
話の内容は、母上が占ってもらった結果、子供とは長く居られないこと、子供はかなり苦労すること、そのために、自分の命が尽きるとき、対価を払い子供の幸せを願ったらしい。私が3歳になる前に亡くなった。
産後の肥立ちが悪かったと聞いていたが、実際は、他の后に毒殺されたそうだ。初めて知った。
母上の対価は、自身の知識と記憶で、転生しても前世を思い出せないのだそうだ。それは普通ではないのかと問えば、偉大な魔法使いだった母上は何度転生しても記憶を保持していたそうで、その知識は膨大な量だったらしい。
子供の幸せを願い、その子供が困ったときに助ける約束で、そして世界樹様は、私が願った魂の分霊と結界を張ることになったのだそうだ。私は大分 親不孝な子供だったようだ。母上の願いを自分の幸せには使えなかった。
そして一番の疑問の答えを知った。
その母上は、ユリの前世らしい。私はユリの前世の子供なのだそうだ。記憶をなくしても、私を子供のように慈しんで大切にしてくれた。
おかあさま。幼い私がそう呼んだから、おかあさまでありたいと言ったそうだ。
ルレーブの記憶がなくなっても、ユリと一緒に居られるユメでいたい。
たとえそれが1か月しかなくても。
「戻るが良い。結界も張り終えた」
「世界樹様、ありがとうございました」
私はルレーブの記憶があるままユリたちの元に戻された。世界樹の森を出たら私の中からルレーブが居なくなるのだろうか。
脱いだドレスは杖の鞄にしまった。初代としての遺品になるのかもしれない。
ユリの戴冠式には出られるだろうか。緊急の事態の結果とはいえ、ユリを新女王にしてしまって、本当によかったのだろうか。ああするしかなかったのではあるけど、これからユリの負担になる事は確かなのだ。
少し歩くと、折り重なるように倒れているユリが起き上がり、ソウとカエンの口に何か突っ込んでいるのが見えた。
「あー、黒蜜の方が良かったかしら?」
「ユリ、黒蜜は飲み物じゃないにゃ」
「ユメちゃん!!!」
まだあまり動けないはずのユリが、抱きついてきて離れなかった。
先に12時間分の回復が終了したソウとカエンが、手にパウンドケーキと黒猫クッキーをもって待ち構えていた。
「ユリ、先に回復するのにゃ。横にいるのにゃ」
ユリは聖女本人なので、自分の聖女の癒しは効かないようで、あまり回復しなかった。
「新女王よ。そなたに祝いをやろう」
世界樹様は、ユリに何かをくれたらしい。
そのとたんユリが倒れた。どうやら、容積だけを倍に増やしたようで、折角ギリギリ1割あった魔力が、値として5%になってしまったようだ。
「これを食べるが良い」
世界樹様は、ユリに何か小さなものを渡した。ユリはすぐに食べ、魔力が上限まで回復したみたいだった。
「ユリ、帰るにゃ。おうちに帰るのにゃ」
出口を目指して歩き、振り返った森は、一面の芝生だった。




