夢の防犯
カエンが少し動揺していたけれど、まあ、確かに青いご飯は驚いた。客のを見ていて知っていたから改めて驚きはしなかったけれど、食べるときに始めて見たカエンは相当驚いたのだろう。
味は、ユリが言った通り普通だった。ピンク色のシチューは少し甘くて、白いのよりも美味しく感じた。
ユリがカエンに学校の話を聞いていた。どうやらカエンも学校に行かなかったらしい。私と同じなのかな? でもカエンは自由に出歩いているようだから私とは違うのかな。ぼんやり昔の事を考えていると、ソウがユリに予定を聞いていた。
「ユリ、午後はどうするの?」
「そうなのよねー。作るものもないし、予定ないのよね」
「献上するお菓子を作ったら良いにゃ!」
そうだ、魔力の補充のためにも、黒糖フルーツパウンドケーキを作ってもらおう!
「え、黒猫クッキーの他に、何を献上するの?」
「黒糖フルーツパウンドケーキにゃ!」
「わかったわ。リラちゃんの復習もかねてもう一度作りましょう。あとね、冷蔵庫の黒蜜が残ってるのどうしようかしら」
黒蜜ならくずきりだ!
「くずきり食べるにゃ!」
「ユリ御姉様、葛切りが作れるのですか!?」
「作れるわよー。食べる?」
「はい!是非お願い致します!」
カエンはくずきりが好きらしい。今まで落ち着いた感じに見えていたのに、すごく年相応に見えた。いや、初めて会ったときも変だった。いきなり抱き締められて驚いたことを思い出した。
普段は、無理して大人に見せているのかもしれない。
ユリが全員休憩に入ってくださいというので、部屋で休むことにした。
カエンの事を考えていて思い出した。カエンが会わせてくれた清子は元気だろうか。もう一度清子に会って、お礼を言う機会はあるのだろうか。
ぐるんぐるんと考えても仕方のない考えで、まったく休んだ気がしなかったので、早めに厨房へ戻った。
「ユメちゃん大丈夫ですか?」
「なんにゃ?」
「なんか、嫌なことでもありましたか? 少し辛そうに見えました」
「ありがとにゃ! 少し考え事をしたにゃ、大丈夫にゃ」
リラに心配をかけてしまった。気持ちを切り替えて、頑張ろう。
「こんなに簡単なのですか!?」
カエンが、ユリに何か教わっているようだった。
聞こえる話で、くずきりを作っているのがわかった。私の分もあるのかな? あると良いなぁ。
おやつタイムが始まる前に、ユリが出すものを説明していた。午前中の残りは、全部売り切る予定らしい。そりゃ残しても仕方ないし、当然だろう。
「マーレイ、イリス、リラ、ちょっと来てくれ」
ソウが、防犯システムを説明すると言うので、興味があったので一緒に聞くことにした。
この家にはソウの結界の他、科学的な力での防犯システムがあるらしい。どんだけ強固に守ってるんだろうと少し驚いたけど、説明を聞いて納得した。
万が一ソウが魔力切れを起こしたら、ソウが張った結界は切れることになる。万が一電気に異常が起こったら科学による防犯システムが解除される。そのどちらも対応できるように、一時的に、マーレイを管理者にして、再設定や強化が出来るようにするらしい。
「万が一俺の結界が切れると、2階に上がる階段が通れるようになる。マーレイたちを信用しているから興味本意で見に行っても構わないが、何かを持ち出したりすることだけはしないでくれ」
「かしこまりました」「はい」「はい」
上がれるようになってもマーレイは決して階段を上がったりはしないだろう。
倉庫側からの出入りはできなくして、店側のみ出入り可能にし、認証されないものは厨房側への立ち入りができないように更に強化するらしい。
ソウが追加可能としたのは、グランとレギュムのみで、それも万が一の事があった場合に限り有効と説明していた。
なれば、私も魔道具による結界を張っておこうかなと思った。あとでソウに話そう。
おやつ開始時間より前に戻ったはずなのに、もう店には客がいて、ユリと話をしていた。慌ててイリスと他の客の注文を聞いて回った。
「持ち帰り分先に注文します。ポテロン10個、生チョコ、コーヒー2つ、抹茶1つ、ローズ1つ、リラの華10枚、パウンドケーキ10枚。今食べるのは、ピザトーストユメスペシャルをお願いします」
「わかったにゃ。用意しておくにゃ。ポテロンはまとめて箱にいれるにゃ?」
「4個、4個、1個、1個で、箱にいれてもらえますか?」
「わかったにゃ。他のは紙袋で良いにゃ?」
「はい。お願いします」
いつもなら隣の人の注文も一緒に聞くけど、わからなくなりそうだったので、先に注文を通してから用意する分は紙に書いた。
「ユメ様、こちら用意しますか?」
「一人の注文にゃ。頼むにゃ」
マーレイが用意してくれるらしいので頼んで、他の人の注文を聞きに回った。
今日は持ち帰りの先注文が多い。帰りに言われるより助かるけど、持って帰れるのその量? と思うような大量注文ばかりだ。まあ、客側にしてみれば1か月も休みなのだから仕方ない。
なんかユリが新しいものを出していた。なんだろう?
「あのー、それなんですか?」
「凍った苺と牛乳を混ぜた、冷たい甘い飲み物です」
あー、ユリと客の会話を聞いてわかった。イチゴの飲み物を作ってくれたようだ。どうやって作るのかな? そう思って厨房に行くとユリはいなかった。2階に行って作っているらしい。
今作ってきたそれを出して戻ってくると、ユリは2階からジューサーミキサーを持ってきて、厨房で作り始めた。
「ユリ、それ良いのにゃ?」
「踏み台昇降は疲れるのよ」
あー、階段の上り下りが嫌になったのか。
「いっそ、リラに使い方教えたら良いよ」
ソウが言ったので、ユリはリラに教えていた。洗うときや、空の時に、刃がとても危険だと何度も説明していた。
リラは、これの動力が電気であることを聞くと、自分でも使えることに喜んでいた。
イチゴミルクの注文は、全部リラが作ったらしい。
店に戻り、追加や持ち帰りの注文を聞いていると、ユリが呼びに来た。
「カエンちゃんが作った葛切りがあるから食べてきてください」
「ありがとにゃ!」
「いただきます」
やったー! 私の分もあったらしい。
急いで厨房に戻ると、リラがカエンに話していた。
「ユメちゃんも葛切り大好きなので、多めにしてください」
「リラちゃんはそれだけで良いのですか?」
「はい。私は一人前くらいで」
リラはニコッと笑い、お店に行った。イリスと交代するのだと思う。
「ユメちゃん、10人前くらい召し上がりますか?」
「5人前くらいで良いにゃ。カエンは10人前食べたのにゃ?」
「えーと、そこまでは食べておりません」
よくよく聞くと、7~8人前食べたらしい。人目を憚らず食べてみたかったと話していた。
あとから来たイリスが、私たちの話を聞いて驚いていた。
「お二人とも、葛切りがとってもお好きなのですね」
「美味しいのにゃ」
「出来立ては素晴らしく美味でございました」




