夢の泡泡
「焼売何個食べたい?」
ユリに聞かれた。
「何個が候補なのにゃ?」
「5個か10個ね」
午後も売らないといけないのに、たくさん食べたら困らないのかなぁ。
「大丈夫なのにゃ?」
「みんなが10個ずつ食べても、充分余るわよ?」
「なら、10個食べるにゃ!」
「私も10個食べたいです!」
「なら、もう聞かずに、全員10個にしましょう!」
それが良いと思う。イリスやマーレイは、少なく言いそうだ。
お昼ご飯には、焼売が10個ついていた。
ユリだけ8個なので、なぜか聞いたら、「半端だったのよ」と言っていた。
ひとつ分けようと思ったら、先に、「要らないわよ?食べたかったらまだあるからね」と言われてしまった。
スープもあり、お昼ご飯は豪華だった。
「焼売どうだった?」
ソウが心配だったらしく聞いてきた。
「よく売れたわよー」
「追加しろって我が儘言うのが居たにゃ!他にも横暴な客が居てイリスが大変だったにゃ」
ソウに伝えたかったのだけど、思いの外、ユリを心配させてしまった。
「え、大変だったの? イリスさん、無理しないで言いに来てね」
「はい、ありがとうございます。次回からはよく確認して最善を尽くします」
「イリスさん違うわ。あなたは本当によくやっているわ。不必要な我が儘は、客だからって許されるものじゃないのよ。立場的に言えないなら、言える人が言うだけだから、私でも、ユメちゃんでも、何ならソウに言っても良いから教えてね」
「あ、ありがとうございます」
結果、イリスが感激しているようなので、良かったのかもしれない。
私がホッとしていると、リラがユリに呼び掛けられていた。
「あら?リラちゃんどうしたの?」
「あの、ホシミ様って、とても偉い方なんですか?」
ユリではなく、ソウが答えた。
「別に偉くないよ。なんでそう思った?」
マーレイとイリスが青い顔をして困っていた。
これは誤魔化すべきかな。
「ソウがいつもエラソウだからにゃ!」
「ユメ酷いなぁ。俺偉そうにした覚えないけどなぁ?」
ソウは、顔立ちが整っているから少し怖く見えることがあることを自覚していない節がある。
「リラ、ソウが偉いとすれば、転移ができるからにゃ。だから、私も偉いのにゃ!にゃはは」
「そもそも、ユメが一番偉いよな?」
そういうことじゃないのだ。
「黒猫様のユメちゃんと同じ魔法ができるから、ホシミ様は偉いんですね!」
でも、リラはリラなりに納得したらしい。
「偉いとすれば、そんなところだよ」
ユリもホッとしたように見えた。
マーレイはわかっているだろうし、おそらくイリスもわかっているのだと思う。
でも、リラとぎくしゃくしたら寂しいからまだこのままでいられたらなと思う。
「あ、午後から出す、サーターアンダギー、食べてみない?」
ユリが話題を変えてきた。
「食べる食べる!」
珍しく、ソウが一番先に反応した。
「食べたいです!」
リラも明るい感じに戻った。
「食べるにゃ!」
うん。このままが良いなぁ。
「頂きます!」
「頂きます」
イリスとマーレイも頂くと言った。
ユリはサーターアンダギーを取りに行き、みんなの分を持ってきた。
5個ずつ? どうやら自分の分はないらしい。
「サーターアンダギーは、プレーン、黒糖、紫芋よ」
「あ!酸っぱいの入れたんですね!」
「あら、リラちゃん凄いじゃない」
リラだけ何かを、わかったらしい。
なんだろう?
「紫芋にレモン果汁を少し混ぜてあるから、紫ではなく、赤紫なのよ」
「あ、成る程」「なるほどにゃー」
ソウと同時に理解した。酸性に色変えしたのか。
「ユリ様、なぜ赤紫にするのですか?」
イリスはわからないらしい。
「赤紫にする必要はないわ。でも、する方向に調整しないと、ベーキングパウダーが入るので、失敗すると灰緑色っぽくなることがあるのよ。その予防ね」
「かいりょくしょく?」
リラが聞き返していた。
「灰色がかった緑色ね」
「あー!シフォンケーキの時の色!」
「そう、それよ」
そういえば、アルストロメリア会で変な色のケーキを作ってる人がいた。
「不思議なこともあるのですね」
イリスは、まだよくわかりませんと言う顔をしていた。
「あー、ついでだから実験しましょう」
ユリが何かするらしい。
「なにするにゃ?」
「バタフライピーティーの色変え実験よ」
色変え実験?
ユリは色々用意して、青いお茶を作っていた。
たくさんのガラスの器に注ぎ、小皿を並べていた。
小皿には、白い粉2つ、レモンの輪切り、何か白っぽいジュース、こんにゃく?、卵白?など変なものが揃っていた。
「分かりやすい例で、酸性のクエン酸、アルカリ性の重曹、これを加え、色の違いを見てみましょう」
あ、その白い粉は、クエン酸と、重曹なのか。
リラにクエン酸を渡し、私が重曹を加えた。
最初、翡翠のような緑色になり、すぐに透明感の有る緑色になった。リラを見ると、青かったお茶はきれいなピンク色だった。
「凄ーい!」
「凄いにゃ!」
「凄いですね!」
「見ると面白いな」
「驚きました・・・」
「他の物も入れてみると良いわよ」
ユリが良いと言ったので、リラと一緒に、色々足してみた。
レモンの輪切りは、青紫色になったあとまぜると、紫色になっていった。
ジュースは、青紫色止まりだった。
これは、リンゴジュースらしい。
卵白は、青緑色だった。古いとより緑に近くなるそうだ。
こんにゃくは、黒っぽいのでよくわからなかった。
ユリがこんにゃくを取り除くと、水が緑色で驚いた。
あとでソウが説明してくれたけど、こんにゃくは、石灰水に入っているからアルカリ性らしい。
「混ぜる量にもよるけど、たくさん足せばそれだけ色が変わったりもします。では、最初に作ったクエン酸の桃色の水と、重曹の緑色の水を混ぜるとどうなると思いますか?」
「もとの青色に戻るんですか?」
「バランスがよければ色は戻ります」
色以外の変化があると言うこと?
「色は・・・にゃ?」
「混ぜてみると良いわ」
ユリに言われて、リラと混ぜてみた。
泡泡になって、ビックリした。
ソウは知っていたらしく、ユリと一緒に笑っていた。
「正解は、しょっぱい炭酸ができます」
そう言われて気がついた。
重曹とクエン酸、それは、炭酸水の作り方だ!
「あ!前にユリが言ってたにゃ。色がついてるから忘れてたにゃ!」
「さあ、少し休んでください。午後からサーターアンダギーを売りますよ」
ユリに促されて、全員休憩に入った。




