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クロネコのユメ  作者: 葉山麻代
◇女王ユメ◇

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夢の海産

「ユリ、海あったよ!」


ソウが言い出した。

この国のどこかに海があるらしい。国土の事で、私が知らない情報があるとは思わなかった。


明日起きたら行くそうだ。

早起きせねば。



頑張って早く起きると、ユリはすでに全ての掃除を終わらせていた。

自分の部屋に掃除機だけかけ、布団のシーツなどは、私が起きてすぐ、ユリが取りに来た。


全員出かける用意が整い、ソウの部屋に集合した。


「馬車でいけない距離なの?」

「いつもの馬車だと片道10日以上かかるかな」

「確かにそれは無理ね」

「ユメ、自力で来られるか?」

「わからないにゃ。行きは連れていってほしいにゃ」

「了解」


「ユリ、しっかりつかまって」

「うん」


ソウはユリを連れて転移していった。

すぐに戻ってくると、私に言った。


「ユメの部屋の結界を解いたから、出入りできるよ」

「ありがとにゃ!」

「つかまって!」


ソウにつかまり、北へと転移した。


「覚えたにゃ。帰りは大丈夫にゃ」

「そうか」


ユリは、少しボーッとしているようだった。


「ユリ、大丈夫か?」「ユリ、大丈夫にゃ?」


ソウと二人で声をかけると、こちらに気付いて話し出した。


「・・・だ、いじょうぶ。少しクラっとしただけ・・・」

「転移酔いにゃ?」

「そう、なの、かな?」

「ユリ、ごめん・・・」


ソウが謝ると、ユリはハッと気づいた顔をしたあと、元気になった。


「ソウは悪くないよ!もう大丈夫!もう平気!さぁ、行きましょ!」


二人で気を使いあっていて、いつでもお似合いで微笑ましいなぁ。

ユリは、ソウがいれば大丈夫だな・・・。


少し考え込みながら二人のあとをついていった。

ふと気づく景色は、カワイツバサとして暮らしていた頃の町並みより、更に昔を思わせる。

いや、下町の家はこんな感じだったかもしれない。


「うわ、なんか懐かしい!小さい頃に行った、おばあちゃんの家みたい!」

「確かに、昔の日本家屋風だな」


ユリとソウには懐かしく感じる景色らしい。


「ここは来たことがなかったにゃ」


全ての領地を回ったわけではないけど、全く知らない地域があるとは思わなかった。

ウルトラマリンブルー領らしいけど、昔はなかったと思う。


漁港らしき場所で、ユリは作業をしている人に色々訪ねていた。


組合を紹介され、そこに行くようだ。

石造りの、この国らしい建物のなかに、組合はあるらしい。


受付らしき場所で、案内をしてくれる人を探していると告げていた。


「私を呼んだのはどなたさん?」


メガネをかけた男性が出てきた。30代くらいだろうか?

ユリが名乗り出て、交渉していた。

あまり乗り気ではない男性は、少し怪訝な感じでユリと話していた。


ユリは何か本を持ってきていた。

その本を広げ魚の説明をすると、本の文字を見た相手が、そのまま文字を読んでいた。

するとユリが突然名乗りだした。


「あの、関係ないことかとは思いますが、私の名前は、花野 百合と申します」

「家名持ち!貴族様なのか?」

「貴族ではないのですが、この国に最近来ました。料理屋を営んでおります」

「そうか、そうか、先祖を同じとする民族だな、日()ずる国のヒノモト人であるな」


あー。お酒の名前とか柚子の名前についていた「ヒノモト」って、ここか。


ユリが名乗ったあと、急に機嫌がよくなった男性は、自分の家族自慢までしだした。

サクラという美人妻がいるらしい。サクラは桜か。


養殖場を案内され、冬来れば牡蠣もあると言っていた。

ユリは、大喜びで小さい蒸した帆立貝を買っていた。

海草や鰹節や練り物もあって、ユリはどんどん買っていき、持ちきれなくなったソウに止められていた。


「又連れてくるから、 持ちきれる量にして」

「あ、ごめん」


ソウは笑っていたけど、ユリは謝っていた。


「ソウ、少し持つにゃ」

「じゃあ、この軽いけど、かさ張るの頼んで良い?」


持参した風呂敷と、吾妻袋(あづまぶくろ)に入れた乾燥昆布とワカメを預かった。


ユリは、イクラ丼の話で盛り上がっていた。

ソウも話に加わり、美味しい魚の見分け方を教わっていた。

男性は、横を歩いていた人を捕まえて、竹の子を分けるように頼んでいた。


最初の建物に戻ってくると、高齢の女性から声をかけられた。

手にミカンを持っていてニコニコして渡してきた。

ユリは受け取り、お礼を言って、パウンドケーキと交換していた。

パウンドケーキは、物々交換用だったらしい。


最後に、案内してくれた男性に、持っていたパウンドケーキを全部渡したようで、代わりに魚や大根を貰っていた。


ユリは上機嫌で手にいっぱいの荷物を持って帰ることになった。


ソウが先に荷物を置いてくると言うので、荷物はソウに渡し、ソウが戻って来てから自力で戻った。


ソウと二人で、疲れてぐったりしていたが、ユリは元気で、昼ご飯の希望を聞いてきた。


「サンマ、塩焼きにする?」

「ユリに任せるよ」

「任せるにゃー」


少し部屋で休み、ウトウトした頃に呼ばれた。


ご飯と焼きサンマと、煮物ときんぴらと、味噌汁が出来上がっていた。


焼きサンマ、久しぶりだった。

やはりユリが作ると焼いたサンマも味が違うように感じる。とても美味しかった。


夕飯には、念願だったシュウマイを作ると言っていた。

ユリが楽しそうでなりよりだ。


ソウのところに話にいくことにした。

部屋を訪ね、用件を告げる。


「やっぱり、ユリには言えないにゃ。ユリはソウがいれば大丈夫にゃ」

「ユリ、泣くだけじゃなく、ショックを受けるぞ? 置いていくにしても話した方が良いぞ? あと、俺はついていくから。カエンも来るって言ってたし」

「カエンにゃ? 未来視で見たのにゃ?」

「俺もいて、カエンは俺のせいで居るようなことを言ってたな」

「カエンに会わせてにゃ」

「今行ってみるか」


ソウに腕を捕まれ転移した。

知らない場所だ。ソウはスタスタ歩いて、祭壇のような部屋の戸を開けた。


そこには、巫女装束のカエンがいた。


「お待ちしておりました」


カエンは、ユメにお菓子を要求した。

よくわからず、黒猫クッキーとパウンドケーキを出すと、にっこり笑ってこう告げたのだった。


「相応の鑑定料を頂きました」


なんだろう?と思ったら、今は仕事中らしく、無料で見ると立場上色々あるらしい。


「ソウも来るのにゃ?」

「はい。お兄様も、(わたくし)も、ユリお姉さまもご一緒でございます」

「ユリもなのにゃ!?」

「ユリお姉さまをお連れするのが、成功の鍵になります」

「・・・わかったにゃ・・・ありがとにゃ」

「いえ、次回は大きいパウンドケーキをよろしくお願いします」

「にゃ!?」


カエンの支払いは、パウンドケーキなのか?

ソウは少し笑っていたので、パウンドケーキを請求されることを知っていたのかもしれない。


戻ってきてからソウに聞くと、普段予言を出すには1週間の充填が必要で、パウンドケーキを食べると、12時間早く回復するので重宝しているそうだ。朝、夕の2回食べて、24時間分回復させ、倍の予言が出来るようになり、とてもありがたいのだとか。

以前なら、予言後に動けない時間があったが、それがなくなるので、もう手放せない!と話していたらしい。


そういえば、以前あちらに行ったとき、魔力がなかなか回復しなくて驚いたんだった。


「ご飯、出来たわよー」


ユリが呼んでいた。

顔が見たくて、急いで行った。


テーブルには、焼売、玉子スープ、ごはん、黒い何かがあった。聞くと、海苔の佃煮らしい。

早速、焼売を食べてみた。ものすごく美味しい!


「今まで食べたことがあるどの焼売よりも美味しいにゃ!」

「うふふ。そうでしょ。自信作なのよ」

「お店に来るお客さんのために開発したんだっけ?」

「そうなのよ。焼売大好きなのに、売ってる焼売は海老や蟹入りばかりで、海老蟹がダメな甲殻類アレルギーだって嘆いていた常連さんのためにね」


なんだかユリは昔からユリだったんだなぁって思った。

食べられなくなって嘆く人のために、レシピを開発したり、困っている人を助けたり。


ソウとユリが、昔作ったらしい焼売の種類を話していた。

海老蟹が入らない焼売の他、竹の子が入らないブロッコリー焼売や、グリンピースが入らないコーン焼売も作ったらしい。


「ユリ、色々やってるのにゃ」

「だって、美味しく食べたいじゃない」

「ユリのご飯はいつも美味しいにゃ」

「ユメちゃん、ありがとう」

「俺も思ってるぞ!一口ごとに美味しいなって思ってるぞ!」

「ソウもありがとう。うふふ」


ユリはニコニコしながらお礼を言っていた。

美味しいご飯にお礼を言いたいのは、こちらである。


「美味しいって言って一緒に食べてくれる人がいるのって、幸せだわ」


ユリの言った一言は、良くも悪くも、ユメの心を抉ったのだった。

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