夢の紙型
ユリとリラは集中して何かを作るらしい。
とりあえずタマゴサンドは作ってくれるけど、お店にはたぶんこられないと言っていた。
イリスと注文を聞いて回り、今日もシフォンケーキはよく売れていた。
三種盛りがあるのに、大きいシフォンケーキを三種類頼む人はあとをたたなかった。
みんなそんなにもシフォンケーキが食べたいのか?
そういう人は、マンゴープリンももれなく注文する。
注文されたものを取りに厨房へいったら、ものすごく玉ねぎ臭かった。よくこの中でユリやリラは平気だなぁと思いながら、シフォンケーキに生クリームをかけていたけど、そのうち目が痛くなってきた。
「目に染みるにゃー」
生クリームをかけ終わったので、急いで退避した。
これ以上あそこにいたら泣いてしまう。
他のものは取りに行くだけですむけど、シフォンケーキは生クリームをかけないといけないので、厨房に居る時間が長くかかる。
店に戻ると質問された。
「黒猫様、どのケーキがおすすめですか?」
「マンゴープリンがおすすめにゃ! シフォンケーキは、レモンがおすすめにゃ」
「それなら、マンゴープリンを二つお願いします」
「持ってくるにゃ」
急いで取りに行った。
「ユメ様、シフォンケーキは他の味もあるのですか?」
「他の味にゃ?」
「先日は野菜味だったと聞きました」
「ユリ言ってたにゃ。思い付くものなら大体ケーキにできるのにゃ」
「成る程!素晴らしいですね」
次々と質問されるけど、答えられるものは答えておこう。
「黒猫様、先日の、コーンクリームコロッケはいつ食べられそうですか?」
「ユリからは予定を聞いてないにゃ」
「ユリ・ハナノ様に直接伺わないとわからないのですね・・・」
「そのうち作るって言ってたにゃ」
「それがいつになるかわからないと、なかなか毎日は来られないのです」
「ユリ呼んでくるにゃ?今日は忙しいって言ってたのにゃ無理だったらごめんなのにゃ」
「はい。お願いします」
とりあえずユリに聞きに行ってみた。
「ユリ、何作ってるにゃ?」
「明日出す、クリームコロッケ各種よ」
「忙しいにゃ?」
「割りと忙しいわね。何かあった?」
「ユリが暇だったら話したい客が居るにゃ」
「世間話なら忙しいと断りたいけど」
「聞いておくにゃ」
店に戻って説明した。
「ユリ、やっぱり忙しそうにゃ。クリームコロッケを作ってたにゃ。明日売るのにゃ」
「おおー!」「明日なのか!?」「絶対来るぞ!」
「黒猫様、ありがとうございます!明日楽しみにしてます!」
気がすんだらしい。
数人から笑顔でお礼を言われた。
「黒猫様、鶏と野菜の炊き込みごはん、筑前煮、野菜スープをください」
「甘いものは要らないのにゃ?」
「あとで注文します!」
「炊き込みご飯と、筑前煮と、スープ持ってくるにゃ」
取りに行くと、野菜スープは朝飲んだスープだった。
これだったのか!
今日はホットサンドやポットパイを頼まれることなく、持ってくれば良いものばかり注文された。
午前中に残ったグラタンは、開始早々にイリスが注文されていたので、既に無い。
筑前煮もほとんど売り切れ、軽食は残らなかった。
お店が終わり厨房へ行ってもまだユリたちはクリームコロッケを作っていた。
いつのまにか、ソウとマーレイも手伝っていて、それでも終わらないみたいだった。
「私も手伝えるかしら?」
「形作るのは手伝えると思うにゃ」
イリスが手伝いたいみたいなので、洗い物を片付けたあと一緒にコロッケを手伝った。
形作りはほとんど終わっていて、衣をつける段階だったらしく、小麦粉、溶き卵、パン粉を用意したらユリに誉められた。
ユリはそれを二つに分け、少し作ったあと、片方のパン粉に刻んだパセリを加えていた。
そういえば、ユリの書いていたメモにそんなことが書いてあった。
ソウが粉をつけて、ユリが卵をつけて、私がパン粉をつけて、冷蔵庫にしまった。
リラが粉をつけて、マーレイが卵をつけて、イリスがパン粉をつけて冷蔵庫にしまっていた。
リラとマーレイは途中交代していたけど、他の人は交代しなかった。
みんなで作ったのでなんとか終わり、冷蔵庫がクリームコロッケでいっぱいになった。
夕飯はチキンカレーで、鶏肉が柔らかくてビックリした。骨がついてるのにどうやって食べるのかな?と心配したけど、要らない心配だった。
「今日はお疲れさまでした。クリームコロッケをみんなに手伝ってもらって本当に助かりました」
「面白かったにゃ!」
「あのプルプルを油で揚げると、トロッとするのですね。リラはもう作れるの?」
イリスはリラにきいていた。
「たぶん作れると思うよ、お母さん。でも家では油の温度が難しいかな」
イリスが、えー。といいながらショックを受けていて少し笑ってしまった。
「5種類も作るなんて、ユリは凄いよなー。2~3種類を複数作ると思ってたよ」
「え、・・・」
ソウがうっかり余計なことを言って、ユリが言葉に詰まっていた。気が付いたらしいソウが慌ててお弁当の話を始めた。
「ユリ、今日のお弁当、ものすごく美味しかった!仲間にもすごく好評だったよ!」
「それは良かったわ。店でも売れ過ぎて大変だったのよ」
「3分の1を沢山売ったのにゃ」
「1/3?」
「大きいココットに入れてでも持って帰りたいと言われたのにゃ」
「へぇー。それで1/3なのか」
「何か、持ち帰りに適した容器ってないかしらね」
「紙製のどんぶり買ってこようか?」
「それ使っても良いの?」
「構わないよ。受け取った方も燃やして処分できるし、害にはならないよ」
「そう?」
「プラの蓋さえなければオーパーツにはならないだろう?」
大分無理がある気がするけど、ユリが納得したなら良いや。
それより明日のデザートはどうするんだろう?
「ユリ、明日のデザートはどうするにゃ?」
「馬拉糕と、肉まんを作ろうと思ってるわ」
「まーらーかお?」
リラが聞き返していた。
「んー、麻婆豆腐とか、九龍球とか、杏仁豆腐と同じ国の蒸しパンかしら」
「パンなんですか?」
「蒸しケーキかな。金額的に少し足りないからクルミでも乗せようかしらね」
「美味しそうにゃ!」
干しブドウが乗ったものは食べたことがある気がするけど、クルミはないと思う。
「食べ終わったら今日は解散しましょう。遅くまでありがとうございます」
ユリがみんなにお礼を言って、笑顔で解散した。
マーレイ一たちが帰ったあと、ソウがユリにシフォンケーキの型が届いたと話していた。
この後ナイフも揃えるらしい。
ソウは話すと2階に行った。
ユリはまだ何かするみたいなので、手伝えることはあるかな?と見ていた。
「ユメちゃんは戻らないの?」
「ユリはまだ何かするにゃ?」
「明日の用意を少し・・・」
「手伝うにゃ」
ユリは一瞬迷ったような顔をしたけど、すぐに笑顔になってお礼を言われた。
「ユメちゃん、ありがとう」
「ユリはもう少し人に頼るのにゃ」
「うん、頑張る」
頑張りすぎるのが問題なのに。
「頑張らない方向に、頑張るのにゃ」
「難しそうね。ふふふ」
やっと頼ってくれるようになったみたいだ。
「それで、何をするにゃ?」
「マーラーカオの型をね、作ろうかと思って」
「型を作るのにゃ?」
型って作れるの?
「昔マーラーカオを作っていたときは、ケーキの型を使ったり、ステンレスの裏ごし網を使ったり、大きい型で作っていたのよ。お店で出すのはそれでも良いけど、持ち帰る人が多そうだから、一人前サイズで作った方が良いと思ってね」
「どうやって作るにゃ?」
「ソウが買ってくる牛乳やジュースの紙パックを切って丸めて、ホッチキスで止めて輪にするだけよ」
一つ先に作ってもらい、真似して沢山作った。
本当にただの輪っかだった。
「これをどうするにゃ?」
「このまま蒸し器において、中に、食品用の剥離紙カップ入れて使うわ」
この大きさなら、大きいココットとあまり変わらないと思った。
「大きいココットはダメだったのにゃ?」
「作れなくはないけど、底が有る型だと蒸し上がりが軽くならないのよ」
「成る程にゃー」
「小さいものなら底があっても大丈夫なんだけどね。500☆相当だからね。上にクルミも乗せるの」
値段の兼ね合いは難しいなぁ。
「明日楽しみにしてるにゃ」
「ユメちゃん、どうもありがとう」
ユリと一緒に階段を上がった。




