夢の転生
異世界転生キター!
って、お約束的に叫ぼうとしたのに、声にならなかった。
しかも、人じゃなくね?
視線低いし。地面近いし。
どこかの帰り道、何かがぶつかってきて、あ、これ逝ったな。って思った。
気がついたら野っ原だし。
痛い所が無いのは良かったけど、どっかに鏡無いかね?
前から巨人が来たよ。
うわーまじか。俺が相当小さいのか。
言葉わからんのは種族差か?世界差か?
巨人だと思ったのは人間のようで、俺に興味があるようだ。
頭撫でられた。
ま、そんなに不愉快じゃない。
何か手を振って居なくなった。
気になることを言っていた。
「またねー」
最初は言葉わかんなかったのに、最後だけなんでわかったんだ?
何か色々頭が冴えてきた。
とりあえず、水辺を探そう。
ふと、自分の前足が目に入った。
まえあし?
俺、四つ足動物らしい!
湖が見えた。もしかしたら池かもしれないが。
水辺まで行って姿を見た。
水に揺れながら映るのは青い目の黒猫だった。
うーん。
俺は猫らしい。
どうやって生きていけば良いんだ?
猫なんか飼ったこと無いから生態もわからん。
湖の生魚食う気にはならんな。
お、木苺?
地面に木苺がある?
ぱくっと食べてみると、見た目は木苺だが、甘味の無い木苺もどきだった。
それでも、何か食べなくてはと本能的に思ったのだろう。
夢中で食べた。
頭が冴え、色々思い出した。
そう、これはへびいちご、毒はないけど味もない。
他に食べられるものを探そう。
渋!苦!不味!酸っぱ!ろくなもんがない。
甘いのとか、こってりしたの食いたいな。
猫じゃ無理か。
ある時、人間が落としたらしいクッキーがそこにあった。
人として落ちているものを食うのは・・・と考えたあげく、あ、俺、今、人じゃねぇし。と気づいて食ってみた。
むむ、なんか力がみなぎる!!
自身が発光したと思ったら、人の子供くらいになった。
なんだこれ?
3分くらいで元に戻り、俺は○○マンかよ?と1人ツッコミした。
その後も木の実など甘いものを食べると力が沸く感じがした。
ある時、大きな川を見つけた。
魚がいっぱい見える。
生魚はなぁ。食えないよなぁ。
お、あれは鮭かな?
へぇ、遡上する川なんだなぁ。
なんて、ボケッと歩いていたら馬車に轢かれた。
転生人生短けー!って思ってうずくまってたらイケメンに拾われた。
そのイケメンは魔法か何かで俺を治し、ドライフルーツの入ったパウンドケーキをくれた。
こいつ、猫飼ったこと無いのか?
いや、俺もないけど。
でも、そのパウンドケーキが、めちゃくちゃうまかった。
この世にこんなにもうまいものがあって良いのか!!!ってくらい。
しかも、ものすごく力がみなぎる。
イケメン兄ちゃんは俺に色々話してくれた。
俺をにゃんこと呼んだり、くろにゃんこと呼んだり、名前が安定しない。
まあ、猫だと思って話してるからだろうけど、赤裸々な思いとか、どれだけ可愛いかとか、ユリという人の話ばかりで、イケメンでも苦労するんだな。としみじみ思ったさ。
今日こそユリに会えるぞ!と意気込むイケメン兄ちゃんをほほえましく思い まどろんでいると、グラッときた。なにした?この兄ちゃん。
どうやら転移したらしい。
俺を腕に抱っこしたまま部屋を出て階段をおりた。
イケメン兄ちゃんが声をかけた。
「ユリどうしたの?」
薄茶のロングヘアーを後ろで三つ編みにした姉ちゃんが振り返った。
「ソウ!帰ってきたのね。おかえりなさい」
そうか、このイケメン兄ちゃんはソウっていうのか。
なんか二人で色々話したあと、姉ちゃんが俺に気がついたらしい。
「ソウ、それはなあに?」
「こいつ、馬車に轢かれたみたいで怪我しててさ、手当てしたら懐いたんで連れてきたんだけど、ここで飼っても良い?」
俺が姉ちゃんを見るとにっこり笑ってた。
「かわいいー!」
「黒猫っぽいけど、どうもただの猫ではないみたいで凄く頭が良いんだよ」
「へぇ、名前は何て言うの?」
「な、名前な、にゃんことか呼んでたけど、ちゃんとつけた方が良いよな、なんか有る?」
「私がつけて良いの?なら、夢、ユメちゃんが良いな」
「ナーゴ!」
俺は返事した。猫語で。
「お!気に入ったのか?」
この姉ちゃんがお菓子の主のユリだよな。挨拶しとくか。
腕から飛び降り人形になった。
「名前をありがとにゃ。これからよろしくにゃ!」
ちょ、ちょ、俺、幼女だった!!!
しかも、語尾が自動的に「にゃ」になる。
恥ずかしくなってさっさと元に戻った。
イケメン兄ちゃんコト、ソウは、項垂れて何か後悔しているので、何も言わんがなと返事しておいた。猫語で。
もう寝る。
次回は6月19日13時の予定です。