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第7章06話

第7章06話


 風呂は知世さんにも大好評だった。


「息がし易いです!」


「池が出来たらもっと空気が良くなるよ」


「私も少し長い時間、こちらに居れるようになりますね!」


 と散々騒いで風呂に入ってから帰って行った。


「知世さんはやはり、ここが余り得意では無いようですね」


 善姫さんが少し寂しそうだった。



 次の日は1階の風呂を2階と同じ仕様に改造してから、土塀建設に集中した。敷地内の安全を確保してしまわないと、安心してダラダラ出来ない。


「今日中に少なくとも土塀は終わらそうよ」


「舞花さんと天狗さんがが手伝ってくれるので終わりますよ。ブリュネちゃんと哲司さんは池の設計をしてて下さい」


 依能さんは、そう告げると土塀建設に戻って行った。

 子供の秘密基地造りみたいなノリで全員楽しんで作業をしているように見える。


「哲司さん、これが基本案なんですけど」


 図面を見せて貰うと、母屋と新居の間の空き地に結構大きな池を造る計画だった。


「今回購入した小山にもう1つ湧き水が有りましたので、池から溢れ出した水は家の前の小川に素直に流そうと思ってます」


「湧き水が2つ在るんだ」


「はい。池で浄化され妖力を蓄えた水が流されますので、村の環境改善にもなりますよ」


「ブリュネちゃんの計画で良いよ。土木工事はするから指示して」


 ブリュネちゃんの指示に従って地面を下げてゆく。水美も居るので仕事が早い。1メートル50センチくらいの深さでドンドン広げてゆくと、だんだん池の格好が分かるようになって来た。


「実物になると結構大きな池だね」


「敷地が広いですからね。このくらいの大きさが有った方が見栄えしますよ」


 ブリュネちゃんが池に丸みを与えたりして修正している。


「こんな物でしょうか。排水溝も作ってしまいますね」


 ブリュネちゃんが手慣れているので土塀の下を通して排水溝を作ってしまった。


「緑色の石を敷いてみる?」


「はい、出来れば3分くらいの厚さで敷けると良いのですが」


 約1センチメートルか。水美が大量に集めて来ているので、そのくらいは問題無く出来た。

 ブリュネちゃんが浄化石を適当な間隔で敷いて行きながら、圧縮硬化させて定着させている。


「蛍光石を少量含んでいますので、夜に少しだけ池が明るく見える筈です。余り明るくしても美しく無いですから」


 ブリュネちゃんが池の底の工事をしていると、依能さんと林弧ちゃんも手伝い始めた。土塀が終わったようだ。


「格好良い池だな」


 天狗さんも見物に来ている。


 ただ見ているのも時間の無駄なので、別宅の風呂も改造してしまう事にした。


『水美。頼むね』


『任せろ』


 水美が本宅と同じ仕様で、簡単に終わらせてしまった。


 池に戻ると依能さんと林弧ちゃんがブリュネちゃんの指示で池の底に起伏を付けたりしている。

 どうやら水の流れを一定にするらしい。


「開拓村の湖に使った技術をそのまま使ってみます。此処で上手く行けば開拓村の湖もそのままで行けますので」


 趣味で造ろうと考えた池で実験出来るのは嬉しい事だ。此処の池で駄目でも修正は簡単だ。


 1時間くらい掛けて修正している。


「では水を入れます」


 ブリュネちゃんが宣言して、依能さんと林弧ちゃんが湧き水の水路を池への水路に切り替えた。


「少しずつ貯まって行きますよ。大体3~4時間くらいでしょうか」


「ビールでも飲んで待とうよ」


 俺が誘うと皆さん賛成でビーフシチューを食べに行く事になった。


「御屋形様、池を造っているんですって?」


 サネリちゃんが聞いて来た。


「そうだよ。どうして知っているの?」


「さっき庄屋さんが食べに来て話して行ったよ」


 田舎は情報が早い。


「哲司さんが裏山も買ったから結構大きな池になるよ。魔力から妖力に変える石を敷くから、村の人間環境も良くなると思うよ」


 ブリュネちゃんが説明している。


「あの緑色の石のブレスレットと同じ?」


「そう、同じ石を使っているし浄化石も敷くから相当効果が高いと思うよ。この村で魔力が必要な人はいない筈だから」


 この世界では魔法使いは居ない。魔素の質が違うのか魔法使いには不向きらしい。


「確かに、ここいらには魔法使いはいないものね」


 サネリちゃんがそう言ってから、ハッと気がついたように注文を聞いて来た。


「ハンバーグがお薦めです。昨日とれたイノシシで作ってるよ」


 全員でハンバーグのビーフシチューかけを頼んだ。


「不思議ですよね。魔法使いの話は聞きますけど、見た事が無いですよね」


「ここなんかは白人系が居るのに存在しないよね」


「白人系に居るのですか?」


「俺が居た日本は妖術の世界だったけど、大陸の白人世界は魔法の世界だったよ。どちらも今では絶滅寸前みたいだけど」


「水郷境の世界でも、もっと昔は妖術使いが沢山居たらしいですよ。今は少数の人達しか強い妖術は使えませんけど」


 皆で、そんな話をしながらビールを飲みながら食べている。


「水郷境の世界には神様も精霊も身近に居るのに、何で妖術が衰退したんだろう?」


 誰も答えを知らなかった。



 グダグダ話しながら飲んでいるうちに、3時間以上経っていた。


「そろそろ池を見に行こう」


 俺が代金を支払っていると、依能さん、林弧ちゃん、ブリュネちゃんが先に飛んで行った。


「今、慌てて行ったと言う事は話しに夢中になって池を忘れていた臭いな」


 天狗さんの予想は、ほぼ当たっていると思う。


「沢山の人達で話すのが楽しくて仕方無いのですよ。全員、結構孤独な経歴ですから」


 舞花さんが笑って言っていた。


 我々も家に着くと濃い目のエメラルドグリーンの池が出来上がっていた。


「今の所上手く行ってます。もう少しで排水も始まるので、すぐに結果が分かりますよ」


 30分くらいで自然にゆっくりと排水が始まった。

 排水と共に空気も動くのか、水の良い匂いがする。

 皆で黙ったまま暫く池を見ていた。



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