第7章05話
第7章05話
正月も4日となり休みも丁度半分が過ぎた。 ヤマコの村の探索もそこそこにはやっているが、それ程に積極的とは言えない。
女達を助けて責任を持つ事が出来ないのだ。
「私も獣みたいな存在から、人間らしさが出るのに3年以上掛かりました。あれだけの数の女に正義感だけで手を差し伸べるのは不可能だと思います」
善姫さんからの発言は正しく重い物だった。
「実際に母上を見つけても、正常になるかと問われれば……無理なような気がするのです。ましてやヤマコに捕まっていたのを助けたという理由だけで、全責任を問われる理由は無いと思うのです」
と言う訳で、最近は低空飛行で顔確認するだけで終わらせている。
その代わり増え過ぎた魔獸の退治と、山賊狩りに時間を割いている。
「山賊に捕らわれていた女性は町や村で表向きは引き受けてくれるので、まだやりやすいですよね」
依能さんも余り積極的では無い。
「余り捗って無いですよね。まだ200頭くらいしか狩ってません」
ブリュネちゃんも反省気味だ。
「正月休みだし、新しく買った家の改造とかもやっていたからね。仕方無いよ」
「ドタバタしているけど、家も住みやすくなって良い休みだと思いますよ」
「林弧ちゃんは、あの家が好きだね」
「はい、落ち着きますから。別宅を買ってから敷地が広くなって呼吸も楽ですよ」
「哲司さん、家と別宅の間の土地に池を作りません? 凄く空気が良くなりますよ」
依能さんの提案は魅力的だった。景観も良くなる。
「本宅の裏側の小山から湧き水が出ているので、水には苦労しないですよ。作りましょう!」
ブリュネちゃんがやる気満々のようだ。
「庄屋さんに言って裏山も買おうか?」
「売って貰えるなら是非買いましょう」
善姫さんまで乗り気なので、早速家に帰って準備をする事にした。
「俺は庄屋さんの所に行って来るよ」
庄屋さんに裏山の話をすると、待ってましたとばかりに売ってくれた。どうやら使い道の無い村有の山だったらしく金貨2000枚だった。
「裏山は買って来た。土塀で囲ってしまおう」
金貨2000枚しただけあって相当広い土地だ。土塀で囲うのも結構苦労する。
「哲司さん、あの緑色の石は砂の混じり物入りなら人口湖の対岸に沢山有るので、池の底にビッシリひきませんか? 舞花さんに良いし、知世さんも来れるようになるかも知れないですよ」
「やろう!」
皆さんに土塀を任せてブリュネちゃんと鉱石を採りに行った。
「ここなんです」
凄い量の緑色の小さい石が水中や水辺にビッシリみたいに有り、湖の水がエメラルドグリーンに見えるくらいだった。
「確かに小さくて砂混じりだね」
「ブレスレットなんかには完全に不向きですけど、池に敷き詰めて敷地内の空気浄化には最適ですよ」
「風呂に敷き詰めても良い?」
「浴槽の床にするには最適ですよ。疲れが取れて妖力も回復します」
水美が収集で鉱石をかき集めている。
『皮袋に2つ集めたぞ。十分だろう』
どれだけ有るのだろう。目の前の景色から鉱石が減ったようには全く見えない。
「近くから浄化石も採れますので池用に集めましょう」
「風呂には要らないの」
「池の底が汚れないようにひく石ですから、風呂には不向きですね」
ブリュネちゃんの指示に従って浄化石も集めて家に戻った。
「早速風呂を改造するよ」
俺は1階の風呂に行き、鉱石を用意する。
『浴槽の内側、全部に貼り付けてみるか』
水美がそう言うと浴槽内全てが鉱石でエメラルドグリーンに見える。
『硝子質の物と混ぜて、見易いように少し着色した』
『凄く綺麗だよ』
『そうか。では洗い場にも』
洗い場は紺色みたいな色に着色されとても綺麗だ。近くで見ると鉱石がしっかりと見える。
『これだけで息がし易いよ』
『本当だな。これは良い』
ブリュネちゃんが見に来て、全員を呼びに行った。
『2階もやってしまおう』
結局、2階は壁と天井まで鉱石入りの硝子質コーティングをしてしまった。発光石が混ぜてあるので、妖力を通すと明るくなる。壁は取り敢えず青にしておいた。
『格好良い風呂だね』
『1階も後で発光石を入れてやろう』
水美と眺めていると騒がしい。1階の風呂は早速皆で使っているようだ。
「素敵な風呂になりましたね」
善姫さんが俺の隣りでニコニコしている。
「1階の風呂は舞花さんまで来て、大騒ぎですよ。こちらも湯を張りましょう」
善姫さんと一番風呂に入っていると疲れが取れてくる。
『なかなか良い風呂だな』
水の精霊が誉める水質になったようだ。
水神様からまた呼び出しが来た。
「水郷城時間で毎日だな」
「無視する訳にも行きませんでしょう」
善姫さんが笑っている
「チョット行って来ますね」
「私は1階で皆さんと居ますね」
俺は水郷城の謁見の間に飛んだ。
「済まんな、正月休みに毎日で」
水神様も疲れたような顔をしている。
天狗さんも来ていた。舞花さんはサピカ村別宅で風呂だから行動がバラバラのようだ。
『風の精霊の体調がまだ完全では無いのだろう』
水美の言うのが当たり臭い。
「旦火の国と吾蔵の国の国境で大規模な武力衝突らしい」
「我々に関係無いでしょう」
「……一応耳に入れとこうと思ってな」
「一方的にどちらかが簡単に負けると面倒ですけど」
「旦火の国が劣勢らしいぞ」
天狗さんが渋い顔をしている。
「5年くらい揉めていて貰いたいな」
「この合戦で、旦火の国が負けると早そうだ」
「……俺、チョット見て来ます」
透明化して旦火の国と吾蔵の国の国境に飛んだ。
『哲司、不味いぞ。旦火の国の総崩れ寸前だ!』
国境から旦火の国側に何千もの兵士が入り込んでいる。旦火の国の兵士が浮き足立って吾蔵の国側が相当優勢だ。
もろに加勢する訳にも行かない。
『水美。吾蔵の国側の兵士から妖刀類と数珠と金貨、銀貨を吸い上げるぞ!』
『良い手かも知れないな。やろう!』
俺と水美で上空から収集で丁寧に吾蔵の国側の兵士からお宝集めを始めた。
自分の手からいきなり刀や槍が消えた武士が間抜けな顔をしているのが見える。
『哲司。妾は一度置いて来る』
『俺も行くよ』
水の里で満杯になりかかった皮袋を置いて、戦場に戻った。
また丁寧に収集して飛んでいるうちに旦火の国側が押し戻し始めた。
『思ったより妖刀を使っている奴が多いな』
『武器無しだと逃げるしか無いだろうから、効果てきめんだね』
軍師らしき陣地で収集して、皮袋が一杯になったので帰る事にした。
『旦火の国は負ける寸前で助かったようだな』
『そんなに簡単に戦争終わると、笹美の国に攻めて来るからね。これで時間稼ぎが丁度良いよ』
水の里で戦利品を見ると凄い量だった。妖刀と数珠の多さに驚いてしまった。
『金持ちの国の装備品は凄いね』
『哲司、ちゃんと整理しろよ』
金貨と銀貨以外は皮袋1つにまとめて、後で調べる事で水美に納得して貰った。
『戦場なのに、皆金を持ち歩いているのだね』
『自分の雑兵に配る為ではないのか』
『なるほど』
水郷城に戻って旦火の国が押し戻したことを伝え、風呂を見せる為に知世さんを連れてサピカ村別宅に帰った。




