第5章03話
第5章03話
水神様や知世さんには、暫くは暇な時間に善姫さんの母上探索に行く事にしておいた。善姫さんは、まだ発作的におかしくなるので知世さんには見せたくなかったのだ。
ヤマコの里は4倍の時間が使えるので大きな問題は無い。
『一番辛いのは善姫だ。大事にしてやれ』
善姫さんが望む事は水美の協力で出来るだけする事にしている。
暫く毎日、ヤマコ村に行って観察していると風の精霊さんがおかしくなっているのが目に見えて分かる。壺振りのオバお姉さんは狂って来ているが、まだ放置してある。
4日目に壺振りさんが回収されていた。風の精霊さんはそのままだった。
先日見た時でボロボロ状態だった。
『精霊だ、死にはしない。本当に色狂いの精霊が出来上がったのかも知れんぞ』
『あんな美人を……もったいない』
『そこが天狗と哲司の考えの差だ。風の精霊も本当に嫌なら実体化を止めれば良い事だからな』
「妊娠用でないと寝る時間も惜しんで続きますからね」
何も言えない。でも現実を見て善姫さんとの信頼関係が強まったのは確かだ。
『哲司のやっている事は、この世界の男には考えられない事だからな』
『天狗さんの方が共感されるの?』
『言い辛いが、そうだと思う』
凄くショックだった。
「40歳にもなって旦那様に頼ってばかりで」
「そんな事無いですよ」
善姫さんがすぐに落ち込むので連れて来たく無いのだが、本人は現実と対峙したいらしい。
こんな日はサンリン町の宿で時間を使ってから帰る。
「すみません。着物だと押し潰されそうで」
俺は目の保養なので気にしない。善姫さんは風の精霊さんより遥かに美人だと思っている。
善姫さんが落ち着くまで少しイチャイチャしてから水郷城に帰ると水神様から召集がかかった。
「善姫も来たか。天狗の里でまた亀裂だ」
行くとまた3階の窓の前に大亀裂が出来ていた。
「この前しっかり直したのに」
「何かにこの亀裂を使っているのかも知れんな」
3階の居間に壺振りのオバお姉さんが大の字に鎖で吊されているのが見える。
「哲司も善姫も見るでない!」
水神様がいきなり切れた。
俺と善姫さんは亀裂の修理に掛かった。
「両端から少しずつ直します」
水美が善姫さんの手伝いを上手にしている。水神様が天狗さんに雷を落とした。土下座している天狗さんが情けない。
「ああいうのが好きなら母上が見つかったら天狗様が引き受けてくれませんかね」
「俺は止めた方が良いと思う」
「でも、私も山賊に捕まった1年で1度正気になりましたから」
「善姫さん、2人でここに来て息抜きしたり捜索したりしましょう。まだ知世さんに遠慮も有るでしょうが、ここなら誰に遠慮をする必要も無いのですから」
「はい。私は自分がまだ普通では無いと思いますから」
結局、何故空間の裂け目が出来たのか分からずに終わってしまった。
サピカ村に家を買った。この地域が冬でも20度くらいの暖かさが有るのが理由だ。村の中でポツンと残ってしまった百姓屋の1つで、とても広いがボロ家屋だった。
「田舎なので2500金貨しかしなかったので、つい買ってしまいました」
「私の為に……済みません」
善姫さんが自由に過ごせるのが買った理由だった。
水美と一緒に高い土壁を作り背の高い木を植え中が見えないようにして、家屋は再生して新築みたいになった。
水美の趣味で外観は日本風になっている。だが決して日本家屋では無い。
風呂も相当大きいのを2階建てで付けた、取りあえず不便が無いようにしてある。
誰か来ても自由に風呂が使えるのは重要。
妖術フル活用の安上がり屋敷が出来上がった。村長の家より大きく敷地も広い。
『冬は光球で温度を上げれば良いだろう』
2階は仕切りを無くし柱も無くして、凄く広い空間になっている。畳を敷いただけだ。水の里みたいで風呂と居間だけ。
善姫さんに凄く喜ばれた。
「日に2時間も作れば、ここで8時間過ごせますよ」
今の善姫さんに8時間の自由は大切だったようだ。一週間くらいで顔色まで良くなって来ている。
『平和で良いね』
『また風の精霊がヤマコの村に居たぞ』
水美が報告してきた。
『天狗さんは?』
『しっかり見物していた』
『風の精霊さんだけ?』
『そりゃそうだ。人と精霊では丈夫さが違う』
知世さんは全くこちらには来ない。最初、物見遊山で来てヤマコ村を襲った時に被害者の女性を見てトラウマになったようだ。
「旦那様と善姫さんは毎回あれを見ているのですか?」
「そうでないと探索にならないよ」
「私には無理です……」
善姫さんへの同情も深まり行動し易くなったのだけど、ヤマコアレルギーになったらしい。
『風の精霊さんを見せたら、どうなるのかな』
『あんな物は見せない方が良い』
俺もそう思った。
それに知世さんはこの地に身体が慣れないみたいだ。苦しそうに見える。
リブズが稼げるように、集まってしまった数珠を売らせてあげた。
こちらでは珍しいらしく最低でも水郷城の10倍くらいの値段で売れる。リブズが売上の半分を俺にくれる事になっている。
俺も陰陽師や山賊から剥いで来た物だから期待してなかったのだが、リブズがあっと言う間にサンリン町に店を出した。
「旦那、世話になってばかりで申し訳無い」
「俺も貯金が増えたから気にしないで」
リブズは飛翔枝であちこち飛んで商売繁盛のようだ。
俺もサンリン町に家を持ちたかったが、広い家が無いのでサピカ村で満足している。
善姫さんと一緒に来るとヤマコの群れか村を襲っているのだが、善姫さんの母上を発見出来て無い。
『見つかったらどうする?』
『一番困った問題だよね』
最近は善姫さんも自由な姿で透明化して出歩いたりして過ごす為にサピカ村の家に来ているみたいだ。
水美と俺は善姫さんの透明化を無視して見えているのだが、内緒にしている。
自由にさせる事で精神安定が良くなっているのだ。
母上探索の回数も減って来ているので、そのうち止めて家でダラダラする為に来るようになるだろうと思っている。




