第5章02話
第5章02話
「俺が飛ばされていた所に行きたいんだって?」
水郷城から出て来た天狗さんが言って来た。
「善姫さんの母上探索の候補にしょうと思って」
「ヤマコなんて1度も見なかったがな」
「物騒な妖怪と妖獣だけ?」
「前も言ったけど獸人も居るよ。文化らしいものは発達してなかったな」
「とにかく水神がうるさいから連れて行くよ」
いきなり飛翔で飛んだ。森も有るけど赤土で冴えない感じの所だった。
「村なんか有るの?」
「有るよ、ショボイ村ばかり」
「美味しい物は?」
「無い!」
「妖力消費は」
「余りかかってないな。哲司を連れて来るのを条件に貰ったばかりの飛翔なので良く分からないが」
「村は近いの」
「連れて行くよ」
飛翔で飛んで来た村は本当にショボイ村だった。獸人の数は多いみたいだが、掘っ建て小屋ばかりだ。
「ナンカ睨まれてない?」
「危害は加えないよ」
男の狼耳が来た。
「何しに来た」
翻訳されている。
「ヤマコの村を知らないか?」
「昔は居たが絶滅している。少なくともこの付近では」
「皆で退治したの?」
「人族の女でないと妊娠し辛いのだ」
「人族は少ないの」
「少ない」
調べても無駄みたいなので、礼を言って天狗さんと水郷城に帰って来た。
俺の飛翔でも妖力消費は僅かだった。
「無駄足だったな」
「天狗さんにご迷惑を掛けスミマセンでした」
「哲司はヤマコの村の使える所を教えてくれないか?」
「良いけど祈祷師の居る所と居ない所と、どっちが良いの」
「何だそれは?」
ヤマコの祈祷師が女に術を掛ける話しをしてあげた。
「それは解けるのか?」
「解ける場合と解けない場合が有るみたい。しばらくは混乱が続くけど」
「両方教えてくれる?」
「良いよ」
「水神にはナイショで」
「俺も怒られるから言う訳無いよ」
天狗さんを、大きめの村と小さい村に連れて行った。
『相変わらず行動が怪しいな』
『風の精霊を実体化させてとか?』
『やりかねん』
「ビーフシチュー食べない?」
「それは美味いのか」
「絶対お勧め」
サピカ村に行く事になった。天狗さんの入村税を払って門を通して貰った。
前と同じ場所にシグ改めリブズが店を開いていた
「旦那、また来ているのかい」
「ビーフシチューを食べに来た。リブズも行く?」
リブズは店をすぐに片付けて一緒に来た。
「こちら天狗さんね」
「いい男だね」
天狗さんの翻訳能力は、ここでは有効らしくリブズと雑談している。
ひょっとしたら天狗さんの趣味のタイプかも知れない。
食堂に入って全員で鹿のステーキとビーフシチューを頼んだ。天狗さんは洋食が始めてらしい。
取りあえずエールで乾杯してから近況を聞いてみる。
「最近は笹美城の連中が、どの村からも追い出されているよ」
「相変わらず嫌われ者なんだ」
「笹美村で奴等絶滅されてから他の村もやり出したのさ。旦那は有名人だよ」
帰る頃には天狗さんもすっかり仲良しになっていた。
「ところで、買うのは店付きの家にすれば?」
「良いけど高いんだよ」
そう言えばサンリン町に買うと言っていたな。
リブズはそろそろ仕事に戻ると言って帰って行った。
俺も天狗さんと別れて、水の里に行った。
『天狗は帰らないで何をする気だ』
『あの人は最近、行動が怪しいから分からないよ』
2人で風呂に浸かって疲れを取る。違った世界に行くと少し疲れる。
居間で水美にすがり付くように寝てしまった。
起きて屋敷に行くと善姫さんだけ居た。俺を見ると思い切りキスして来た。トランス状態は治ったのだが、2人の時はヤマコ作法はそのままなのだ。
息が苦しくなって、こちらもその気になりかけて来たので、唇を離して聞いてみる。
「お城は?」
「少し疲れたので、私だけ先程帰って来ました。今ので疲れは治りましたが」
なる程、水の里で充電しておいて良かった。
「天狗さんに先日言っていた場所に連れて行って貰えました。ヤマコは絶滅状態らしいですけど」
それでも行ってみたそうだったので、赤土の里に飛んだ。
「本当に殺風景な場所ですね」
「でしょう」
「でもヤマコの排泄物の臭いがします」
凄い鼻だ。善姫さんに付いて20分くらい歩くとヤマコ村の跡があった。
「捨てられてそんなに経って無いですね」
やはり一度調査に来ないと駄目なようだ。善姫さんの顔が赤くなって来ている。
「旦那様、ここから離れましょう」
慌てて屋敷に帰って来た。
「時折使われる薬の臭いがしまして……女の頭がおかしくなるのです」
水美と慌てて治療すると落ち着いたようだった。
『御屋形様、お願いします』
タマ五郎さんからの救助依頼だった。
慌てて開拓村に飛んだ。善姫さんも薙刀を持って付いて来た。
開拓村の正門前に20人くらいの人集りが出来ている。
「開拓民の選抜に漏れた者達が騒いでおりまして」
「全く6感を持って無いのです」
いくら飛び地とは言え村人や商人に妖怪は居るので、全く無いと生活出来ない。
「6感が無いと無理ですので、お引き取り下さい」
聞く耳を持たずに騒いでいる。
「ただ騒いで問題化したい連中と思いますね。一度でも甘い顔をすると、より問題が大きくなります」
水美が全員を拘束してくれた。
「さっきのヤマコ村に捨てます。善姫さんも手伝って貰えます?」
水美と3人で手分けして赤土の里に飛んだ。ヤマコ村の跡地に抗議団体を置き、拘束を外してやった。
「ここでお前達の好きに生きて行くが良いぞ」
我々は開墾村に帰って来た。
「今度からこの手を使いますので、呼んで下さい」
『哲司、天狗が気にならんか?』
『なる!』
「善姫さん透明化して」
透明になった善姫さんを連れて、さっき行ったヤマコ村に飛んだ。
『あれは!』
いつもの壺振りのオバお姉さんが村でヤマコに挟まれて騒いでいる。相変わらず服を着て会ったことが無い。
『哲司、見ろ』
天狗さんが少し離れた枝に座って酒を飲んでいた。
『壺振りの隣の綺麗な人は?』
『実体化した風の精霊だ』
やはりヤマコに挟まれて狂っている。天狗さんの趣味には付いて行けない。凄い顔になっているが美人なのは分かる。
『光の精霊が見たらエラい事になるぞ』
水美がニヤニヤしている。
『200年経つても、水美にあんな事させたくないな』
『だから哲司が大好きだ』
善姫さんが俺に抱き付いて言った。
「母上ではありません……」
善姫さんだけは真面目だった。透明化した善姫さんが熱っぽく、いきなりキスして来た。
「御屋敷でない場所へ」
善姫さんの言う事を聞いて、取りあえずサンリン町のいつもの宿に入り込んだ。
意識が戻ったら5時間経つていた。
「あの薬の香が漂ってました。申し訳ありません」
「いえ、こちらは儲かったと言うか……」
「初めて話すのですが……言い辛かったので……ヤマコ村では子作りは20台くらいからで50台でも何故か妊娠して生むのです。私のような10台の女は楽しむ専用の相手になります。
母上が生きている確率は度重なる妊娠で凄く低いと思ってます」
「そうでしたか」
「先程の綺麗な人達も一週間しないうちに人間では無いような存在になってしまいます。あの香を1日嗅いでいるとおしまいなんです」
『風の精霊さん大丈夫かな?』
『一度、色狂いの精霊を見てみたいな』
水美が冷たい。
「例え母上が回収出来ても、旦那様のように面倒を見てくれる殿方が居ないと……ですから諦めましょう」
酷い話しだと思った。可哀想で涙が出てくる。
知世さんが帰って来る前に屋敷に戻って2人で風呂に入った。




