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第4章15話

第4章15話


 善姫さんが嫁に来て1ヶ月程経った。知世さんと善姫さんが仲良しなのでとても助かる。


「旦那様、今日はまた開拓地の視察ですか?」


 知世さんと善姫さんが朝御飯の時に聞いて来た。


「そうだよ。何か?」


「手伝いましょうか」


「いいよ。どうせ視察に行くと木の切り出しか切り株処理の手伝いだもん。午後は水神様の手伝いか何か有るんでしょう?」


「はい。神様会議の用意とか言ってました」


 10月は神無月だからと思ったら、こっちには無いらしく逆に日本の話しを聞いて始めるらしい。8月の時と違って大物の神様が集まるらしい。

 1ヶ月くらい先なのに予行演習とか、衣装合わせとか大騒ぎしている。


「今日はヤヤさんも水郷城に貸し出しだから、2人で料理でも習うと良いよ」


「旦那様のお昼は?」


 2人で心配そうに俺を見ている。


「気にしないで。何処かで食べるから」


「でも、それでは……」


「午前中に水神様と着物を見に行ったら? 全員で一着ずつ仕立てると良いよ。大物神様が集まるんだろう?」


 目の色が変わった。


「よろしいのですか?」


「良いよ。ヤヤさんとスミさんは他に、お揃いの仕事着も作ると良いよ。水神様と相談して決めて」


 一眼姫がニコニコしている。


「綺麗なのを選んで貰えよ」


「分かった。済まんな」


 妖怪まで着道楽になっている。


 2人と2妖怪は朝食を切り上げて飛んで行った。


『甘いのう』


『水美には何も出来ないので、申し訳無いよ』


『妾は哲司と楽しんでいるのが一番だ』


 俺も水郷境の開拓地に行って農民の話しを聞いてあげる。宣姫さんと1ヶ月居なかったので仕事も貯まっていた。


「この切り株を土に戻せば良いの?」


「へえ。頼めますか」


「良いよ」


 この手伝いで土系の妖術が凄く上がっている。


「ここは何を植えるの?」


「冬に向かって芋ですだ」


「じゃ急ぐね」


 水美と端からどんどん片付けて行く。小物達も集まって見学している。


『水美が手伝ってくれるから、すぐに終わるな』


 お百姓が切り株が無くなった所から肥料を入れて耕し出した。


『急いでいるようだから終わらせてしまおう』


『良いぞ』


 終わらせて休んでいると、若い男女が来た。女性は二十歳くらいかもう少し若いくらい。黒さまで会ったばかりの頃の知世さんを思い出させる。


「あの、御屋形様でしょうか?」


「はい」


「御屋形様にお願いすると切り株を処理して貰えると聞いたので……」


 まだ昼まで大分有るので引き受ける。


「何処です?」


 連れて行って貰うと、切り株が10株くらい有る。貧相な小屋が建っていて、畑が全く無い。


「来たばかりなの?」


「はい。3ヶ月くらいです」


「誰も手伝ってくれないの」


「兄が身体を悪くしていたもので、村との付き合いも無くて」


 妹さんだったんだ。


「チョット待っててね」


 タマ四郎さんを呼び出して説明をする。思いがけない状況にタマ四郎さんも愕然としている。


「俺は切り株処理と伐採するから、誰か連れて来て食べ物と小屋の建て直しを頼みますね」


 本来なら新しい小屋が付いている筈なのだ。

 10本は自分で倒したようだ。切り株を無くすとそれなりのスペースが出来た。

 木を伐採して枝を落としてから、出来たスペースに積み上げていく。風の妖術を上げるチャンスなので頑張ってしまう。


 30本くらい木を切り出したところにタマ四郎さんが大工さんと人夫さんを連れて来て、小屋を建て始めた。


「ここは新しい人が多いので世話役が居ないらしいのですよ」


 タマ四郎さんが頭を抱えている。


「俺は昼頃まで木を切り出して、切り株と岩を土にするから。丸太を運び出して。これじゃ仕事にならないから」


「手配済みです」


『哲司。終わったらビーフシチューに行かないか』


『行こう!』


 サンリン町から少し離れたサピカ村で良い食堂を見付けたのだ、ハヤシライスとビーフシチューの中間みたいのが食べれる。

 善姫さんには悪いけど水美と時々、遊びに行っている。


 張り切って50本くらい切り出しところでストップがかかってしまった。木の処理が出来ないらしい。


「御屋形様。後は私達でやりますので」


「切り出した分の切り株は無くしてあるから」


 タマ四郎さん達に任せて呉服屋に行ってみる。

 水神様が先頭に立つて生地選びをしていた。丸く収まっているようなので放置して、水の里に行ってからサピカ村に行った。


 サピカ村は白人系が3分の1くらいの村で25000人程の規模らしい。石造りの家が少し多く西洋人くさい人達の食堂が多い。

 露天商が多く、大して魅力の無い物を売っている。

 目的の食堂に向かって歩いていると声をかけられた。


「旦那。私を覚えているかい?」


 ヤマコから助けたシグさんだった。


「別人になれたの?」


「今はリブズと言うんだ。商人登録手形も手に入れたんだ」


「良かったね」


「今日は何でこの村に?」


「そこの食堂のビーフシチューを食べに来た。良かったら一緒にどうだ? 奢るよ」


 この食堂は林東村のシチューを出してくれる食堂の親戚がやっている。14歳の青い髪に緑色の眼の可愛い娘がウエイトレスで言葉も3種類話せる。


 雑貨屋のシグ改めリブズは店を畳んで付いて来た。


「あれから良い事が続いてね。山賊の武器や防具を売って、その金で行商人になれたんだ」


「ヤマコの所に居たのに身体は大丈夫なの」


「小さい群れで祈祷師に遣られる前だったから普通さ」


「祈祷師?」


「村なんかに行くとヤマコには祈祷師が居るんだよ。これが術を掛けると人間の女は、おかしくなってアレの道具になってしまい治らないんだよ」


 ヤマコには祈祷師が居たんだ。


『善姫の謎が解けたな』


 リブズはエールとステーキでご機嫌なので口が軽かった。


「最近はこの村に住んでいるので、声を掛けてくれよ」


「そうするよ。ここの事を色々教えて貰えると嬉しいな」


「任せてくれ。そう言えば嫁は一緒じゃないのか」


「今日は留守番だよ」


 リブズの腕が傷跡だらけだったので、つい癖で治してやったらとても喜ばれた。


「旦那の妖術で入れ墨とか、焼き印の跡を消せるかい?」


「出来るよ」


「消しておくれよ」


「山賊にやられたの?」


「そうだよ。半年も山賊と暮らしていると傷跡だらけさ」


 善姫さんと同じだなと思った。


 ビーフシチューをたらふく食べ終わったので、宿のリブズの部屋で傷跡と刺青を消してあげてた。


「御武家さん、醜い身体見せて悪かったね」


「これで綺麗になっただろう。良い男でも見付けなよ」


「今度はサンリン町に家を買うんだよ。来たら寄っておくれよ」


「凄いね。幾らくらいするの?」


「小さい家だから1000金貨しないよ」


「そんな物なんだ」


「小さい家ならそんな物だよ。宿に3年住んでいるくらいが相場さ」


 そんな値段なら買おうかなと思ってしまう。俺はこの世界でも結構金持ちになっている。

 リブズとは話していて、また少し仲良くなった。捜査を続けるなら、良い事だ。


 水の里に帰って風呂に入って朝からの疲れを取る。


『やはり違った世界の術だったんだね』


『ヤマコに祈祷師が居たのが驚きだ』


 少し昼寝してから水郷城に戻った。4時近いので呉服屋に払いに行くと、水神様達がまだ騒いでいる。


「まだ選んでいるの」


「全員、候補を二つくらいまでに絞ったのだがな……」


 水神様が真剣な顔で応える。仕事もそのくらい真剣にやって欲しいものだ。


「面倒だから両方買いなよ」


「旦那様、宜しいのですか!」


「良いよ」


 知世さんも善姫さんも秋物は持って無いから買ってあげないと。


「秋冬の帯も2本くらい買うと良いよ」


 呉服屋はまた大騒ぎになってしまった。


『全員、余り衣装を持ってなかったからな』


『年末にまた買ってあげないとね』


『また、何処かの城を狙うか』


 水美と笑ってしまった。



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