第4章13話
第4章13話
昼前に水郷城に俺の飛翔で移動した。妖力の4分の1程で付いていた。行きは善姫さんの妖力ダダ漏れが原因で浪費していた事が分かる。
今ならそんなに使わないで移動出来るのではないだろうか。
時間の進みは4倍くらいだった。我々があちらで過ごした2ヶ月が水郷城では15日くらいだったようだ。
『随分変わったね』
『空間は移動するからな。これ以上離れる事は無いだろう』
『水の里と比べると不安定だね』
『当たり前だ。比べるな』
「哲司殿、忙しいのに済まんな」
「いえ、知世さんにも会いたかったので丁度良いです」
水神様が呼んだのか、知世さんが飛んで来た。
「旦那様!」
知世さんが飛びついて来た。2ヶ月近く会ってなかったので、とても嬉しかった。2人と2妖怪の家族は俺の宝物だった。
一眼姫とピョコリ瓢箪も現れてニコニコしている。
「進展具合はどうだ?」
「毎日ヤマコの群れか村を襲ってますが。善姫さんの母上は見付からないですね」
「そうか」
「何か起きましたか?」
「実は美嶺城が急に善姫の引き渡しを要求して来たのだ」
「あれ程、関わりたく無いという態度だったのに?」
「昨日、老中が来ていきなり要求して来た」
善姫さんが心配していた通りになっている。
「水神様はどのように返答しました?」
「保留中だ。断るにしてもそれなりの理由が必要でな」
「ただ引き渡したら面子丸潰れですよ」
「分かっておる。笹美城に献上でもされれば馬鹿みたいだ」
「老中はその気でしょう?」
「私もそう思う。善姫の叔父上には子が居ないからな。善姫に死んで貰うのが美嶺の国を手に入れる安上がりの方法だろう」
「そんなの酷いです!」
知世さんが怒りまくっている。
「ただ引き渡しを拒否するなら、笹美の国と美嶺の国を大っぴらに敵に回す覚悟が必要だ」
「笹美城とは喧嘩の最中ですし美嶺城は腰が引けている状態ですよ。怖くは無いですね」
「美嶺城は老中に牛耳られているようだしな」
「今度は美嶺城を乾かしますか?」
「そう思って昨日3分の1にしておいた」
水神様が嬉しそうに話している。
「そこで哲司殿と知世に相談なのだが……哲司殿が善姫を第2夫人に迎えぬか?」
「私は賛成です!」
知世さんがいきなり賛成して来た。
「知世さん」
「善姫様は行き場が有りません。格式から言っても旦那様が善姫様を嫁に迎えれば、誰も文句を言えないでしょう。
それで父と私で格式を下げてしまった河瀬の家の格式は飛躍的に上がります。
家の為と思って認めて下されば有り難く存じます。父が武家を捨てて開拓民になってしまい、旦那様のお陰で武家に戻れたので感謝しておりますが、もう一度河瀬の家の為に尽力願えませんでしょうか」
知世さんが涙を浮かべて訴えている。
「私もそれが一番良い方法だと思うぞ」
水神様がいつもの無責任モードで俺を説得している。
「善姫さんの気持ちだって有るじゃないですか」
「善姫は文句無しだろう」
善姫さんが赤くなって頷いている。
『役得どころでは無くなったな。嫁推薦の第2夫人だ、覚悟するしか無いだろう』
水美が笑い転げている。
『笑い所じゃ無いだろう』
『掘りは埋まっているぞ。逃げれるのか?』
丸く収めるには了承するしか無かった。
『だから、この世界の常識を勉強しろと言ったのだ』
『水美は見捨て無いでね』
『妾が哲司を見捨てる事は無い。安心せい』
水神様と宣姫さんを連れて寿司屋で祝いとなった。天狗さんも現れて帰還慰労会と婚姻祝いが内輪で行われ、我が家は3人と2妖怪の家族となった。
「暫くは、どこにも言わんでおく」
水神様は政治ゴッコを楽しむつもりらしい。
寿司屋での騒ぎは夕刻まで続き、俺と善姫さんが眠そうにしているのでお開きとなった。
今晩は知世さんと仲良くして、善姫さんは明日から屋敷に住む事となったらしい。知世さんが全部仕切っている。
知世さんと3階に行き話しをする。
「旦那様。知世の我が侭を聞いていただいてすみません」
「知世さんは本当に良いの? 俺はこんな事で知世さんと仲が悪くなったりしたく無いですよ」
「御屋形様である旦那様が第2夫人を貰うなど当たり前の事です」
その後は久し振りなものでスカスカになって水美に救助を求める事になってしまった。
知世さんには寝て貰って水の里に緊急避難となった。
『しかし知世は強いな。哲司が主導権を握れれば、まだ救いが有るのだが……明日以降大丈夫か?』
知世さんとの時みたいに妖力と体力をまとめて持っていかなければ。
『やってみなければ分からないけど、大丈夫だと思うよ』
水美がお前など当てにならんと言った感じで俺を見ている。
『少し寝ろ』
水美に寄り添っていたら、すぐに寝てしまった。
『哲司。少し休んで結婚祝い金を美嶺城から貰いに行くぞ』
『また天守閣の屋根から?』
『当然だ。下さいなで寄越す訳が無いだろう』
起きてお茶を飲んでいると水美が張り切っている。
確かに、この馬鹿な争いに手を出すのなら祝い金を貰っても良いような気がする。
休んで身体が楽になったし、妖力も貯まったので行く事にした。
『また無防備だと良いね』
『大丈夫臭いぞ』
いつものように透明化のまま屋根に降りた。美嶺城は小振りの城だった。
水美と手を繋いで集中する。
『『術解除』』
たいして妖力も使わずに結界が壊れた。
『『収集』』
水美の皮袋が一杯になって、俺の方にも流れ込んで来た。
水美が即座に水の里に飛んだ。
『結構有るぞ』
水美の皮袋が一つ満杯に5分の1くらい入った皮袋が一つだった。
水美が中途半端な皮袋をまとめて満杯皮袋を作っている。
床の間に満杯皮袋が9つと余りの金貨が入った皮袋が1つが並んだ。
『これで当分平和だろう』
『自分の姪を道具に使うから、飛んでもない出費だよね』
『そうだ。女は大事にしないとな』
1日半を水の里で過ごして体力を戻してから屋敷に帰り、知世さんを抱き枕にして寝ていると知世さんが起きたようだ。
知世さんのキスで起こされた。
「こんなに嫁として可愛がって頂いて有り難う御座います。今日から3日3晩、善姫さんとの婚姻となります。私は水郷城に泊めて貰い、食事は2階の居間に運ばれます。善姫さんと2人だけになりますので、ごゆるりと」
「3日も知世さんに会えないの?」
「旦那様。お願いしますね」
馬鹿だった。つい仲良くなりすぎて知世さんとまた盛り上がってしまった。
知世さんは気を失った俺を置いて水郷城へ行ってしまい、水美が必死に俺を回復していた。




