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第4章11話

第4章11話


 サンリン町の日本式旅館に拠点を置いて活動してから2週間程経つが善姫さんの母上の情報が全く無い。

 毎日ヤマコや山賊を襲っているので貯金が増えるばかりだった。

 サンリン町には買い取り屋が沢山居て争うようにして獲物を買ってくれる。我々もヤマコの集団を襲う合間に妖獣を狩っているので換金が楽なのが有り難い。

 ヤマコは光る物が好きらしく、金貨と銀貨を結構所持している。山賊を襲って得られる金とお宝で我々はどんどん金持ちになっていた。


「前に知世さんに聞いた通りです」


「何がです?」


「敵や獲物を倒して毎日お金持ちになって行くと話してました」


 こっちに来たばかりの事を思い出してしまった。俺にしてみれば知世さんに会えて幸運だった。


 善姫さんの体力と健康も良くなってきており、異常な妖力消費も無くなって来ている。

 俺と水美で毎日治療しているのが効いているらしく、妖力の回復スピードも上がって来ている。


『役得が減って来て残念だな』


『水美がもっとキスしてくれれば何でも無いよ』


『そう言って貰えると嬉しいぞ』


 こっちに来て、俺も善姫さんも慣れて来たせいか雑談が弾むようになった。朝ご飯が終わってからダラダラとしているとどんどん時間が経ってしまうので、自重して話しを打ち切り今日も善姫さんの母上探しに出掛ける。

 町から10分くらい飛んでいると水美が15体くらいの集団を見付けた。


『妖獣の狼の群れだな』


 水美が降雹で片付けてしまった。降りて狼を回収していると声が聞こえる。


「乱暴だよ。当たるところだったぞ!」


 小物が日本語で怒っている。


「済まんかったな。だが、お前が食われるより良かっただろう?」


「人間。見えて話せるのか?」


「そうだよ。水郷城から来ているからな」


「そうか。此処では珍しい」


「ヤマコの村か群れを見てないか?」


「あんな物探してどうする?」


「そこの姫様の母上が攫われていてな」


「それは大変だな。3年以上経っているなら死んでいるか人間の世界で生きられない身体になっているぞ」


 話しが逸れて善姫さんが暗くなっている。


「お前が気にするな。教えてくれたら、これをやるぞ」


 おにぎりを見せると小物の目の色が変わった。


「2里くらい北に8匹くらいの若い集団が居る。人間の女も2人連れていた」


 おにぎりを与えるとサッサと居なくなった。


「おにぎりの賄賂は効きますね」


「小物は何故か、おにぎりが好きですね」


 我々は空からヤマコの探索を始めた。林や森では中々見つからない。

 探索に掛かっても妖獣鹿の群れだったり妖獣狼だったりする事が多い。それだけ獲物が増えて儲かるのだが。


 3回目の探索に掛かったのが小物が話していたヤマコの群れだった。

 ヤマコは村が大きくなると若いのを独立させて血が濃くなるのを避けるらしい。だから小さな群れが多いのはヤマコが大量発生している証拠なのだそうだ。


 哲司、片付けるぞ!

 水美と一緒に氷撃で女に当たらないように片付けた。

 女は自分の前のヤマコの死体とまだ行為を続けている。


「完全に逝っているようですね」


 40歳過ぎの女を見て善姫さんが悲しそうに話している。


「女は浄化と治療して、また最初のヤマコの村に置きに行きましょう」


 善姫さんが悲しそうに頷いた。

 我々は責任を取れないので、精神的に駄目な女はヤマコ村に渡し、気が確かに近い女は金を与えて遠くで解放していた。


『このヤマコの群れは金貨だけで20枚以上持っていたぞ』


 女を最初の村に連れて行ってみると、新しい女ばかりになっていた。女はヤマコの元に戻って喜んでいるようにも見える。

 見ていると気分が悪くなるので町の近くの丘に移動して、ビールを飲みながら一休みした。


『ヤマコは他の村や群れと女を交換して血を濃くしないと聞いた事があるな』


『中々、知恵が有るではないか』


『日本に昔居たヤマコは農作業の手伝いをしたという伝承も有るよ』


 水美がフーンという顔をしていた。


「実は私も頭がおかしくなっていたそうです……帰って来てから人間の殿方を襲ったそうで、4年くらい座敷牢に入ってました」


『俺なら喜んで襲われるという顔をしているぞ』


『そんなにイジメるなよ』


 水美が冗談で間を取ってくれて助かる。


「そんな事は思い出さないで。今はとても美人で素敵な善姫さんですよ」


 こんな事しか言えなかった。でも善姫さんが信頼してくれて来たのがとても嬉しかった。


「哲司様には話しておきたかったので」


 善姫さんが真剣な顔で話している。


「善姫さん。そのような信頼して貰って、とても嬉しいのですが過去の暗い事に捕らわれてばかりだと気が滅入ってしまいます。

 自分の中の楽しかった過去に捕らわれて、元に戻ろうとばかり考えていると頭のおかしい人になります。

 今の現実の中で楽しくやりましょうよ」


「……そうですね」


『哲司。珍しく説得力が有ったぞ』


『そりゃそうだよ。俺だって飛ばされて来た人間だもの、過去が最高と思ったら帰る事ばかり考えてしまうよ』


『帰りたければ何時でも帰れるのに何故帰らない?』


『知世さんも水美も大好きだからね』


『妾は何処でも付いて行くし、知世は連れて行けば良いではないか』


『知世さんがまた体調崩したら大変だよ』


 水美が俺を見て笑っていた。


 近くの林から小物が10体くらいこちらに向かって来た。


「おい人間。助けろ」


「何が起きた?」


「狼が追って来ている」


「バカヤロー! 早く言え!」


 既に林から狼型の妖獣が飛び出して来ている。水美が降雹をで片付けている。俺も続いて出て来た狼に降雹を使って片付けた。


「済まんな。最近増えて、よく襲われる」


 今片付けただけで結構な数だ。


「大分片付けたから。この縄張りにはもう居ないだろう」


「済まんな。仲間が大分食われてな」


 疲れきっているようなので、小物全員におにぎりを配ってやった。

 俺と善姫さんで妖獣を回収しているところを、座っておにぎりを食べながら見ていた。


「私は12頭回収しました」


「俺は22頭だから随分大きな群れだったな」


「明日から気を付けて間引きしてあげましょうか?」


 善姫さんは小物にも優しい。


「そうですね。お金にもなるし」


 善姫さんに妖力を足してあげてから、我々は小物と別れてサンリン町に帰り獲物を換金した。


『哲司の役得時間も終わったしどうする?』


 大して働いて無いが疲れたような気がして小料理屋に入りビールと刺身で一休みにした。


「私達、休んでばかりですわ」


 善姫さんがビールを飲みながら笑って話している。明るくなって良かった。


「100金貨近く稼いでますし、ヤマコの群れも見付けましたから遊んでばかりでは無いですよ」


『殆ど水美が倒してくれたんだけどね』


『気にするな』


「哲司様が強いので、苦労無く終わる癖が付いてしまいます」


 強いのは水美ですとも言えないので、黙っていた。



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