第4章10話
第4章10話
サンリン町の大通りに人が流れ日本風の建物や石造りの建物、レンガの建物やらで商店街が形成されている。
「食べ物の匂いと人を呼び込む声だけで大きな町という感じがします」
「言葉は3種類みたいですね」
日本語とシグさんが話していた言葉と先程の食堂のお姉さんが話していた西洋的な人達が話す言葉だ。
「団子を売ってますね。食べましょう」
みたらし団子を食べながらプラプラ始めた。
「団子屋さんは私達と同じ言葉ですね」
「3種類の言葉は面倒ですよ」
「品書きが3種類有るので便利で良いですけどね」
団子を食べ終えてカフェテラスみたいな店に座って鳥唐揚げとビールを頼んだ。
「ここはビールでエールではないのですね」
善姫さんがニコニコ話していると、男達が眺めて行く。これだけ美人だと人目を引いてしまう。
善姫さんは実年齢は40歳くらいで俺の母親に近いのだが、13年のヤマコ村生活で年を取らなかったのと水郷城に来て健康的になったのか、少し若くなって25~6歳に見えるし此処に来て時折俺が妖力を足しているせいか、より若くなったような気がする。
色々な人達が歩いて行く。皮鎧に剣を持つ人、商人風、陰陽師風まで居る。
『今の陰陽師風が善姫を睨むように見ていたぞ』
水美が教えてくれた。
『気を付けないと駄目だね』
店の鳥唐揚げもビールもとても美味しかった。疲れが取れる気がする。善姫さんも弱っているようなので妖力を足してあげれば良いのだが、人目が有るので回復を掛けておいた。
「ビールを追加で」
お姉さんに注文していて気が付いた。ビールと呼ぶ店は日本語なのだ。他の客が居なくなったのでお姉さんにここの話しを聞いてみた。
「此処はそもそも人間の居ない地だったと聞いています。そこに人間が流されて来てこのような状態になったらしいですね」
「お姉さんも飛ばされて来たの?」
「私は此処の生まれですが、お爺ちゃんとお婆ちゃんは美嶺の国という所から飛ばされて来たそうです」
善姫さんの母上の国だ。善姫さんが何かを聞こうとした時、お客さんが入って来てお姉さんが行ってしまった。
「他でも聞けますよ。宿でも探しましょうか」
「そうですね」
善姫さんが俺を見てニッコリしている。
「私は出来るだけ日本語の通じる宿屋にして貰えると嬉しいです」
俺が我々の言葉を日本語と言うので、善姫さんも合わせてくれている。
「では日本語が通じて日本風の風呂が有る宿屋を探しましょう」
意見が一致したので宿屋を探しに出掛けた。
『宿に入ったら妖力を足さないと不味いぞ。善姫は此処では歩いているだけで妖力を失っている』
『もう一度治療しようか』
『呪いみたいな気がする。浄化と治療の両方が良いだろう』
『ヤマコか山賊に掛けられたのかな』
『誰か知らん。笹美城の陰陽師かもしらんしな。とにかく善姫が妖術が使えなくなって、自分の足で逃げることも出来ないようにしていたのは確かだ』
善姫さんが酷い扱いに耐えて来たのを改めて認識した。
この世界に来て何かしっくり来ない理由に気が付いた。妖怪さんが店をやっていないのだ。水郷城や水郷境が特殊なのだが慣れきってしまった俺には何か物足りない。
水美に聞いてみる。
『他の町でも人間に見せ掛けて妖怪が店をやっているのが時折有るが、此処では無いな』
残念に思いながら歩いていると、大きな和風旅館が有った。
「哲司様、あそこで聞いてみましょう」
善姫さんも限界に近いので、早速寄る事にした。
善姫さんが番頭と話して決めてしまったようだ。
「部屋は一泊8銀貨。風呂は家族風呂で2銀貨でした。早速3時に入れるように注文しておきました」
テキパキした姫様だ。銅貨を山積みにして先払いしている。少しでも早く部屋で休みたいのもあるのだろう。
「哲司様。晩御飯は6時で宜しいですか?」
「はい」
懐中時計を見ながら24時間換算している善姫さんがとても可愛らしかった。
部屋に行くと10畳くらいの綺麗な部屋だった。
「お風呂は帳場の右通路の突き当たりです。3時になりましたら使えますので」
女中さんが出て行った。すぐに善姫さんに妖力を足してあげてから、水美と内臓の治療をする。
『美人に触れられて、役得だなぁ』
『からかうなよ』
『最低でも一週間は治療しないとな。哲司と妾が二人で一週間掛かるのは、相当重体だぞ』
『笹美城の連中が10年間も放置したからね』
治療の後で水美と一緒に浄化をすると、何かが身体から水蒸気みたいに上がって行った。
『やはり呪い系もやられていたようだな』
『今日で取れたかな?』
『明日もやってみれば分かる』
水美らしい解決方法だなと思う。
善姫さんは浄化の後、気を失っていたので脱いだ着物をかけておいてあげた。
20分くらいで気が付き襦袢も付けずに直接着物を着た。
「見苦しい物をお見せして申し訳御座いません」
見苦しいなんて飛んでも無い。俺が独身で水美の監視が無かったら襲っていたかも知れないくらい魅力的でした。
「そろそろ3時ですので、風呂の用意をしましょう」
『安全を考えて善姫も連れて行け。体力の問題も有る』
役得で、また美人と一緒に風呂に入れることになった。
2人で着替えを持って家族風呂に行くと風呂は結構広く、湯船も大きかった。
「良い風呂ですね。清潔な感じがするし広いです」
6畳くらいのスペースが湯船と洗い場に別れている。
今日も善姫さんが洗ってくれたが、危機一髪で気が遠くならずに済んだ。これから水美に読み書きも出来る能力を渡して貰うので、此処で消耗は出来ない。
善姫さんの背中を流して、俺が湯船に浸かっていると善姫さんも入って来た。
『水美。善姫さんが湯船に入る時、内股に黒い印のような物が見えたのだけど』
水美がすぐに飛んで来た。俺は善姫さんに事情を話して洗い場で仰向けになって貰った。
『これが呪いの本体臭いな』
『水美に消せる?』
『任せろ』
印は右内股の付け根に押してある。
「それは山賊に入れられた刺青です」
「これから消しますので」
善姫さんは体毛が全く無いので刺青がやけに目立つ。
『哲司も違う場所ばかり見てないで手伝え』
水美が印に手を当てているので手を重ねる。徐々に手が熱くなり、光を放ち始めた。どんどん光が強くなり最後に強く光って消えた。
刺青が消えていた。
『他所の世界の妖術だな。取るのに苦労した』
『ご苦労様です』
「善姫さん、取れましたよ」
善姫さんが消えた刺青を確認している。
「醜い物ばかり、お見せして申し訳御座いません」
場所的に、まさか美しかったとも言えないので黙っていた。
「御飯が来ますので部屋に帰りましょう」
さっさと話題を変えて風呂場を出た。
食事中から善姫さんの顔色が良くなってきて、とても明るい感じに変わって来た。
『印の効果が消えて来たのだろう』
食欲も出たらしく沢山食べている。これで健康になってくれると良いのだが。
食後は疲れと満腹から善姫さんがさっさと寝てしまったので我々は水の里に移動した。
『さて、能力の譲渡をしないとな。覚悟は良いか?』
『任せろ!』
詳しく話すと惨めになるので結論から言うと、カッコ良いことを言ったが一度失敗して2度目に、やっと成功した。
水美は精霊だから仕方無いのだが、体力も妖力も能力も全て負けている上に、恥ずかしいところを見られ過ぎている。
それでも優しい水美は俺が主人としてくれているので、俺も頑張らないといけないと考える今日この頃なのであります。




