第4章09話
第4章09話
ヤマコを回収して、そこら中浄化して臭いを無くしてから洞窟で見つけた着物を女に被せた。
我々は皮袋から出したビールと料理屋の茄子の煮びたしや揚げ出し豆腐を出して軽く食事を取る。
「周りを片付けると心地良い環境ですね」
善姫さんがビールを飲みながらボンヤリしている。
善姫さんの妖力を足してあげたりして、女をどうするか考えていると水美が話し掛けて来た。
『その女は意識が戻っているし、混乱してないようだ。この洞窟の山賊の一員みたいだな』
水美が女の心を読んだようだ。俺は人の心は基本的に嫌いなので読まないようにしている。
「女。気が付いているのだろう。芝居は止めろ」
自分が聞いた事の無い言葉を話している。
「すみません。少しボンヤリしてまして」
水神様のくれた能力が役立っている。
「違うだろう、山賊さん」
女は観念したようだった。
「あんた心が読めるんだ」
「読めるよ。正直に話しなよ」
女は山賊の親分の女房で、もう1人女が居たがヤマコに捕らえられて気が触れ暴れてヤマコに殺されたようだ。
「村に連れて行かれると捕まるかも知れないんだよ」
女が正直に話し出したようだ。
「他にヤマコの集落を知っているか?」
「ここから東に半日くらいの所に15体くらいの集落が有ると言っていた」
「笹美村以外の村を知っているか」
見逃してくれるなら連れて行ってくれるそうだ。歩いて3時間くらいらしい。
「行きましょう。もっと情報が手に入るかも知れません」」
善姫さんが乗り気だ。
女にも食事を与えるとガツガツ食べている。
「美味い。こんなのは初めてだ」
日本食は初めてらしい。女の名前はシグというそうだ。年齢は32歳。ヤマコに捕まって3ケ月で相当老けたようだ。
食べ終わってから出発となった。女が武装を希望したので認めると防具と中剣を装備して、手に槍を持って来た。
「全部取らないのか?」
「興味が無い。お前が使え」
女は嬉しそうな顔をして礼を言うと宝の中から運搬用の皮袋を捜し出して、洞窟の中の物全てを回収して戻って来た。
「この借りは何時か返す」
林東村という所に向かって出発した。
「最近のヤマコは増え過ぎて、ある程度の年齢で集落から出される者が多い。そのような者が集まり人の女を攫ってまたヤマコを増やす」
人の女にとって悪夢の連鎖みたいなものだ。
「妖力の有る人は稼げるけど、百姓は作物を荒らされ女は攫われさんざんさ」
女の言う通りだと思った。女は商人の嫁だったが山賊に襲われ頭目の女になり、手伝わされていたらヤマコに襲われたそうだ。
「帰る場所は無いのか?」
「無いと思う。ヤマコの女だしな」
話しが嘘か本当か知らないが可哀相な女だ。
「この道をほんの少し行くと林東村の正門だ。人も多いし商人も沢山居る。私は離れた場所に行って違う人間になるよ」
「そうか、気を付けて行けよ」
女が何処に行くのか知らないが、そこで別れた。
「他の村で住人になれると良いですね」
善姫さんが心配そうだった。
「我々みたいに違う世界から来た事にすれば大丈夫でしょう」
善姫さんと正門に向かった。
門番の人に手形を見せる。
「用件は?」
シグさんと同じ言葉だった。
「獲物を売りに来ました」
皮袋からヤマコや狼を少し出して見せると、急に愛想が良くなった。
「良く来てくれた。商人登録手形をあげるよ。これで多くの町や村で通行税を取られない筈だ。通りの真ん中辺に大きな店が有るから、そこで換金すると良いよ」
通行手形と一緒に商人登録手形をくれた。門番さんに礼を言って村に入ると、石造りの家や木造の家が並んでいた。
「言葉が違うだけあって、文化も違うみたいですね」
善姫さんの言う通りだった。西洋的でも無く、アジア風でも無い。
真ん中の通りは色々な店が並んでいた。服装は着物にズボンを履いたような感じで、ゆったりしている。
「とにかく売りに行きましょう」
善姫さんと通りを歩いて行くと大きな店が見えて来た。
「いらっしゃい。今日はどのような御用で?」
店の中を見ると色々な品物を扱っている。
「獲物を売りに来たのですが」
「では、こちらへどうぞ」
広い土間に通してくれた。皮袋の中を全部出すと調べ始めた。
「肉不足なので助かりますよ」
3人がかりで獲物を値付けしている。
「全部で22金貨で如何でしょう?」
笹美村より高く売れたようだ。村の規模は7000人以上有るらしく商業も活発なようだ。
お金は笹美村と同じ物で何処に行っても、これ以外の通貨は無いようだ。
「誰が発行しているのでしょうかね?」
「何処かにお殿様が居るのでしょう」
善姫さんは気楽なものだ。
番頭さんに礼を言って通りに出ると食堂らしい看板が有る。
「昼飯にしましょうか?」
「はい」
店に入るとテーブルと椅子が並んでいる西な店だった。
コックさんが女の娘を呼んで指示をしている。2人とも黄色い髪に緑色の眼をしている。娘さんは15歳くらいだろうか。
「今出来るのはシチューと、鹿のステーキくらいだ。ちゃんと説明しろ」
「お父さん、そんな事言っても服装から見て言葉が通じないと思うよ」
この村の人達と全く違う言葉を話している。
「シチューと鹿のステーキ、両方くださいな」
俺が話すと2人が驚いて見ている。
「お客さん私達の言葉が分かるんだ!」
2人共、白人系の顔をしている。最初のヤマコの村にも白人系の女が居た事を思い出した。
「ビールは有る?」
「エールの事ね。有るよ」
エールを注文して、女の娘から情報収集する。
「私達は20年くらい前に村ごと飛ばされて来たの。7000人くらいの村で人間だけね。全員あちこちの村や町に引き取って貰って住んでいるのよ」
「この村にも沢山居るの?」
「ここは200人くらいかな」
コックさんがシチューを持って来た。パンは無くインドのチャパティみたいなのが付いている。
「コッテリしていて美味しいです」
善姫さんが喜んで食べている。とろみの付いたポトフみたいな料理で水美もニコニコして食べている。とっくに皮袋に仕舞われてテーブルのシチューは複製品だろう。
シチューは本当に美味かった。鹿のステーキも包丁で切れ目を細かく入れて、柔らかく食べ易くなっていた。
エールのおかわりを注文して、お姉さんと話しを続ける。
「ヤマコ狩りをしているなら、女を村に連れて来ない方が良いよ。殺されるだけだから」
「殺すの」
「誰も面倒を見たくないもの。一度ヤマコの女になったら見向きもされないよ。家族が望んでいる以外はヤマコの元に置いておくのが一番だよ」
なんか救われない話しだった。善姫さんも表情が暗くなっている。シグさんが逃げた筈だ。
「お姉さん、風呂付きの宿屋を知らない?」
「三軒向こうの宿に有るよ」
お姉さんの話しでは我々の世界の洋風部屋で、バスタブらしい。洗い場の無い風呂は使い辛いのでパス。
「食事はこの村だけど、宿屋は笹美村が良さそうですね」
善姫さんには西洋的な部屋も風呂も想像がつかないようだ。
善姫さんと通りに出て林東村の見物をする事にした。
石造りの家と少し毛色の違った人達が居るだけで、それ程特徴は無い。
『哲司あれは面白そうだぞ』
水美が見付けた店が飛翔で離れた場所に連れて行ってくれるらしい。
看板に《サンリン町》 金貨1枚と書いてあると水美が教えてくれた。
『水美は字が読めるの?』
『読めるし書ける。水神が哲司と善姫に渡した能力より上の能力を持っている』
『いいな』
『今晩にでも渡すが体力が持つかな』
水美が美しい顔でニヤリと笑った。
「サンリン町に金貨1枚で行けるらしいです」
「行きましょう!」
善姫さんが積極的だ。我々は店に入ってサンリン町に行く事を告げる。
「1人につき1金貨です」
勿体ないので善姫さんに店で待って貰う事にする。
1金貨を払うと、店の人が飛翔枝でサンリン町まで飛んでくれた。
「その列が入町手続きの列です」
正門の前に結構な行列が出来ている。
「人口150000の町ですから、人の出入りが多いのです」
飛翔枝の人が俺と話しているのは妖力の回復を待っているようだ。善姫さんが心配なので失礼して林東村に戻って善姫さんを連れて帰って来た。
「凄い能力ですね。羨ましいです」
帰って来た途端に褒められてしまった。
俺と善姫さんは町に入る手続きの為に並んでいると、水美が偵察に行って戻って来た。
『商人用の出入り口が有るぞ。こっちだ』
水美に連れられて人の少ない正門の、もう一つの出入り口に行き通行手形と商人登録手形を出すとすぐに入れた。
「大きな町ですね」
「母上捜査の情報収集も進むと良いのですが」
善姫さんの母上捜査2日間で、こんなに大きな町に来れるとは思っていなかった。
情報収集が進まなくても活動拠点には良い町のような気がした。




