第4章07話
第4章07話
村に帰って庄屋さんの所に寄らされた。
「本日は大変お世話になりました」
30金貨のお礼を貰った。
「助けて貰って少ないのですが、村にもそれ程の余裕が無いので……刀まで頂いて」
刀も倒した俺の権利なので30金貨ならば村の方が得をしている。
「あの刀で武装は進むでしょうが、刀を使うには技術が要りますので気をつけて下さい」
「何せ殆どが百姓ですから」
「槍をお持ちですか?」
庄屋さんが中々良い槍を1本持って来た。俺は槍を再生してから100本に増やしてあげた。
「100本有ります。槍が有れば相手が侍くらいなら一人を3人くらいで囲めば勝てますよ」
「頂いて宜しいのですか?」
「どうぞ」
現在2500人くらいの村だそうで足らないくらいだが、庄屋さんと蕎麦屋さんが凄く喜んでいた。
中途半端な時間になってしまったので善姫さんと宿に戻って休む事にした。
部屋に入って水美から渡された財布を見ると金貨だけで100枚以上有る。銀貨はその3倍以上。銅貨は相変わらず数える気も起きないくらいだ。
「支払いは銅貨を減らす事を考えませんと」
善姫さんの言葉に、こちらに来たばかりの頃の知世さんの努力を思い出した。
「何を笑っているのです?」
善姫さんに、ここに来たばかりの頃の知世さんの努力を話すと大笑いしている。
「では今回は私がその役目をしましょう」
金貨を数枚に銀貨と銅貨を全て善姫さんに渡した。
「では、支払い係を御願いします」
「はいはい」
笑いながら渡した財布の皮袋を懐にしまっている。
「あの侍達は村を乗っ取り、何をするつもりだったのでしょう?」
「目的は金ですよ。村を手に入れれば税金を取って、また侍が出来るでしょう」
善姫さんが、なる程という顔をしている。
「御武家様。ご苦労様でした。早めに汗を流せるように昼七つには風呂に入れるようにしました」
宿の店主が伝えに来た。宿の店主も村の幹部だった。
外に出るのも面倒なので晩御飯も注文した。善姫さんが料金を銅貨で払っている。
「晩御飯は夜五つ頃にお持ちしますので」
風呂は昼の3時くらいで晩御飯は夜の7時くらいらしい。
「お風呂まで1時間くらいありますから、少し休むます?」
「はい。ところで1時間とは?」
懐中時計を出して、西洋式の時間の講義をする事になった。
「便利な機械ですね」
「俺の世界では大分前からこの時間だけ使ってますね」
善姫さんが納得しながら時計を眺めている。
「前の世界では何をしていたのですか」
「高校を卒業するところでした」
「高校とはは武芸を学ぶ場ですか?」
仕方無いので説明していると風呂が沸いた。
「哲司様、風呂へ」
この世界で女性に勧めても納得しないので、着替えを持って風呂へ向かった。
風呂は家族風呂のようで、それなりに大きさが有った。薪代を考えると安い。
掛け湯をしていると善姫さんが入って来た。
「お体を流しましょう」
当たり前のように言う。
「あの善姫さん……」
「気にしなくても宜しいのですよ。裸で13年も暮らしてましたから慣れてます」
論点が違うし常識が違うようだ。逆らっても無駄なようなので水美が増えたと思うことにした。
「本日は汗をかく事が多かったですから」
こっちが緊張しているのに、美人のお姉さんは気にせずに話している。
テキパキと俺の全身を洗ってくれて、俺は一度気が遠くなる思いをした。
「ヤマコの手付き女に、このような。嬉しいです」
風呂の中では善姫さんの異世界体験談を聞いて可哀想で涙が出てしまった。
「山賊に一時的に奪われ、大変な思いをしました」
天狗さんのような趣味の山賊だったらしく、1年程辛かったそうだ。
「何でも出来るようになりましたけどね」
屈託無く笑顔で話している。
風呂から上がって部屋に帰ると、水美が居た。
『明日からも一緒に風呂に入れ。族が来た』
『この部屋に?』
『そうだ。善姫狙いだろう。3人だった』
『どうしたの?』
『片付けた。金は5金貨くらいだ。身体は消去した』
『ご苦労様』
『汚らしい奴等だったので、昼の集落の生き残りだろう』
『じゃ、当分安全だね』
水美と話している間、善姫さんは髪に櫛を入れていた。浴衣の似合う人だ。知世さんと全くタイプが違う。
俺の練習着を浄化して畳んでいる。お姫様なのに器用な人だ。
『善姫の妖力回復が凄く遅い。体調が悪いのでは無いか?』
本当に遅い。透視して見ると肝臓も少し腫れている。
『治療するから水美も手伝って』
『良いぞ』
「善姫さんうつ伏せになって寝て下さい」
善姫さんが素直にうつ伏せになった。
「少し背中に触れますよ」
水美と力を合わせて治療してから再生する。外見からは完全では無いが、相当良くなった。
「凄く楽になりました!」
座って喜んでいる。
口を開けて貰って歯と歯茎も治療しておいた。
「外見ばかり治療したようですね。中身が少し壊れてますので、毎日少しずつ治しますね」
「帰って来てから、誰も私に触れないし関わらないようにしてましたから」
何て酷い扱いだ。
『怒るな。この世界では当たり前の事だ。お姫様だから良い方なのだ』
気まずい感じを残しながら、晩御飯を食べた。美味くも不味くも無い食事だった。
「この世界では、これで良い方なのかも知れないですね」
善姫さんの言う通りなのだろう。適当に終わらせると、女中さんが来て布団を引いていった。
「明日も朝から母君捜索と、資金作りに妖獣狩りですから早く寝ましょう」
「そうですね」
善姫さんは疲れているのか、サッサと裸になって布団に入って寝てしました。知世さんもそうだし、こっちでは裸で寝るのが当たり前のようだ。
水美が結界を張ったりしている。
『今は夜の10時だから6時間は稼げるぞ』
水美は俺を連れて水の里に飛んだ。
『妖力は大丈夫?』
『水の里との往復は、どの世界とも殆ど等距離だ』
『本当に?』
『自分で試してみると良い』
面白いから宿に飛ぶと、俺のダミーと善姫さんが寝ている。妖力は殆ど消費して無い。水の里に帰っても妖力消費は殆ど無かった。
『これは凄いね』
『妾と哲司しか利用出来ないがな』
『俺が寝ていたのだけど』
『空蝉を哲司に使っただけだ。善姫は余程の事が無いと起きないようにしてあるし、変なのが近づいたらすぐに分かるようになっている』
『完璧だね』
水美と風呂に入っていると疲れが取れて来た。
『あの晩御飯には参ったな』
水美が鰻の白焼きとビールを出してくれた。二人でダラダラして2時間くらい経った頃、水美が宿に行って来た。
『向こうは、まだ20分くらいしか経つてない。水郷城と同じに考えて良いから30時間くらい使えるぞ』
『凄い! これは助かる』
気を抜ける時間を作れるのは大歓迎だ。
『水郷城とあの世界は、ほぼ同じ時間の進み方かな?』
『そうなるのかな? 善姫の行方不明時間を考えると同じみたいだが、当時と位置関係が変わっていると時間差が生じる。朝に直接飛んだ時は妖力を大量に使ったので、善姫が居た時より相当離れている気もするが』
難しい事を考えていたら水美に寄りかかって寝てしまった。




