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第4章02話

第4章02話


「それでは、やはり我々が打ち取った鬼婆は笹美城の差し金だったんですか?」


「そうみたいだ」


 水神様は興味無さそうに応えている。ゴキゲンだけはすこぶる良い。先日、俺が全員に買ってあげた着物を着てニコニコしている。


「あいつら、まだそんな余裕が有ったんですね」


「しつこいものよのう」


 何時も白系の着物だったのだが、黄緑色の鮮やかな色を着ている。やはり着物を揃える余裕が無かったようだ。

 来月辺りに新品の着物が出来上がって来たら大騒ぎになりそうだ。

 全国的に不景気なので、間に合わせで買った古着でも新品みたいだ。


「これ以上治安を乱されるのにはウンザリですね」


「そうだの」


「樫の国の越境も難民を出していて、水郷境と水郷城に影響を与えてますし」


「そうだの。哲司殿、何とかしてくれぬか?」


 全くやる気が無い。


「越境する度に叩くのも出来ますが、笹美の国の国にかえって余裕を与える事になりますよ」


「それもそうだの」


 相談している価値が無い。


「来月の上旬過ぎにでも、近隣の神を集めて会議でもしてみるかの」


 来月の上旬過ぎに新しい着物が出来て来るので、御披露目したいだけに思える。


「……水郷城の帳簿検査はどうするのです?」


「天狗が哲司殿の勘定方が全部やってくれると言っておったが?」


 タマ左右衛門さんと相談しておかないと駄目なようだ。


 話しているだけ無駄なので水の里に帰って来た。


『水神様はすっかりやる気が無いな』


『着物を与えて裏目に出たようだな』


『そう笑うなよ。喜んで貰おうとしただけだよ』


『喜んでいる事は確かだ』


『水美。術解除って発動された妖術にも、効くのかな』


『どう言う意味だ?』


『例えば発動している結界を破るとか』


『それは簡単だぞ。哲司なら相当強い結界を破る事も出来る』


『水美と2人で同時にやったら?』


『たいがいの結界は破れると思うぞ』


 そうなんだ。


『収集を使ってね……例えば、金貨は全て水美の皮袋に集まれと考えれば来る?』


『来るだろう。何時も陰陽師を倒した後などに財布集めでやっているだろうが』


 水美が俺をジッと見ている。


『哲司。何をする気だ?』


『笹美の国がしつこく水郷城を狙うのも、余裕が有るからだと思うんだよね。だから少し余裕が無くなれば自国の事に必死になると思うんだよ』


『なる程な。樫の国との揉め事も有るし、水神様に水を絞られているので余裕は無くなるな』


『だから笹美城から少し金貨を吸い上げる事が出来れば、多少の効き目は有るかなと思ってね』


『良い考えかもしれないな』


『やってみようか?』


『2人の妖力を同時に使うから、両手を繋いで哲司は心を空っぽにしておけ。唱える時は自然に分かる』


『水美が主になってくれるの?』


『そういう事になる』


『なら安心だね』


 水美がニヤリと笑った。


『妾が指示するまで手を繋いだままで、心も預けておけ』


 水美が透明の数珠を持って来た。

 何処かで陰陽師ら取って、水の里に放ってあった数珠だ。


『哲司はこれを付けろ。少しでも妖力を分散したくない』


 俺は数珠を受け取って装着して透明化した。水美が俺の手を取って笹美城の屋根に移動した。


『凄いな。空間の亀裂だらけだ』


『間違っても吸い込まれないようにしないとね』


『城の防御に亀裂を使っているのかも知れないな』


 確かにその可能性は有る。亀裂が多過ぎる。


『構わん。始めるぞ』


 水美と俺は向き合って両手を繋いだ。俺は心を空っぽにしていると、水美との一体感を感じて来た。一体感がどんどん強くなって来て、俺と水美が同一化したような感じがした。


『『術解除』』


 自分で考えていないタイミングで、自然と唱えていた。身体から妖力がどっと流れ出してゆく。

 俺の意識は水美に預けたままだ。

 我々の足元で結界が消えた。


『『収集』』


 また妖力が、どっと流れ出して何かが懐に集まったような気がした途端に、水の里に戻っていた。


『哲司、顔色が悪い。風呂に入るぞ』


 確かに少しフラフラする。水美が俺の練習着を脱がして風呂に入れてくれた。


『哲司、済まないな。流石に城の結界だけあって思いがけない程、妖力を使ってしまった』


 水美は普段と変わらないので、俺との実力差は歴然としている。

 風呂に浸かっているうちに妖力が戻って来たので、今日の結果を見に部屋に行った。


『妾の皮袋は金貨で3袋満杯だぞ!』


 俺の皮袋は3分の2より少し多いくらいだった。


『水美の皮袋にこんなに入っているなんて……この金貨は何枚有るんだろう?』


『知らん。とにかく沢山の金貨だ』


 少なくても15メートル四方の空間に満杯の金貨が、ここに有る。


『笹美の国ってお金持ちなんだね』


『それは国だからな。以前、樫の国地方部隊を倒した時でさえ、確か3箱くらいの金貨が有っただろう』


 そう言われてみれば、なる程と思う。戦争って、凄くお金が掛かるんだと再認識した。


 水美に金貨を除けて貰って、寿司とビールで祝宴をあげた。


『大成功の後の寿司とビールは美味いな』


『祝いには寿司だよね』


 笹美城が今、大騒ぎになっていると思うと尚更美味く感じる。


 その後、水美と仲良くしたり、風呂に入ったり、寝たりしているうちに体力と妖力が回復した。


『やっと妖力が全回復したようだな』


『水美のお陰だよ』


 回復するのに10時間くらい掛かっている。


『樫の国はどうする?』


 すっかり忘れていた。


『やった方が良いよね』


 上手く行くと樫の国の越境が無くなる可能性が有る。あれのお陰で畑は荒れて、難民も出ている。

 水美が新しい皮袋を2枚くれた。


『樫の国の方が金持ちかも知れないからな』


 俺はまた透明数珠を付けて、水美と手を繋いだ。次の瞬間に樫園城の屋根にいた。


『笹美城より大きくない?』


『確かに大きいな。哲司、より妖力を使う覚悟は良いな』


 水美は俺をからかうように笑っている。

 早速両手を繋ぎ、一体感を感じるよう心を空っぽにしていると心が一つになってゆく。

 暫く掛かって同一化したように感じた。


『『術解除』』


 自然と水美のタイミングで妖術が発動された。凄い勢いで妖力が消費され、足元から結界が崩れ去ってゆく。


『『収集』』


 また妖術が発動され、より妖力が消費された。懐に入って来た感触がした途端に水の里に戻っていた。

 妖力不足で水美に風呂に入れて貰った。知世さんにゴツソリ取られた時より楽だというのが本心だった。


『今日はご苦労様だったな』


 水美に支えて貰って部屋に戻って結果を見ると、水美の皮袋が4つ満杯に3分の1くらい入った皮袋が一つだった。


『樫の国は金持ちだな』


『これで暫くは平和だね』


『資金が無ければ戦争は出来んからな』


 水美と2人で祝杯を上げた。




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