第3章11話
第3章11話
明け方に水神様に起こされた。
「哲司殿、すぐ来てくれ! 大型妖怪達の来襲だ」
慌てて水郷城に行くと水神様が待っていた。
「哲司殿は完全な移転を持っていたな?」
「ハイ」
頭がおかしくなりそうな思いで耐えて、水美から貰ったのだ。胸を張って肯定する。
「裂け目修復の弱い所から大型妖怪各種を送り込まれた。全部裂け目に戻してやろうと思ってな。
私だけで出来る数では無い。手伝ってくれ」
返事をする前に現地に居た。相変わらず短気な神様だ。
幸い街から少し離れた山の麓で、天狗の里の入口に近い。
種類が、牛鬼、大蜘蛛、大黒カッパ、知らない種類も居る。全部で50匹以上だと思う。
「牛鬼から行くぞ」
「ハイ」
牛鬼だけで10匹はいる。水神様と水美と俺で、出て来た大きな裂け目に移転で放り込んでゆく。
『哲司。裂け目の少し奥を狙うのだ』
水美が優しく教えてくれて、やって見せてくれた。
『水美、有り難う』
失敗無く牛鬼を終え、他の妖怪が逃げて街に向かわないように水球で牽制する。
「次に危険なのは大蜘蛛だな」
大蜘蛛の方が牛鬼より数が多い。蜘蛛の糸を吐いたり毒を飛ばして来るが、こっちは空中で透明になっているので全く怖ろしく無い。
「哲司殿の移転操作が上手いな」
水神様に誉められながらポンポン裂け目に放り込んでゆく。
「ヤマコに場所を読まれているぞ!」
大きなサルみたいな生き物だった。善姫さんは見たくも無い奴等だ。絵とは大分違う。
「残りはドンドン叩き込め」
水神様の許可が出たので片端から裂け目に叩き込んで行った。
「すぐに裂け目を修復してしまいましょう」
「少しだけ笹美城を見て来て良いか?」
誰が敵か知りたいようだ。
「良いですよ。俺は修復してますよ」
「済まんな」
水神様が消えて、直ぐに帰って来た。
「矢張り妖怪達は笹美城に帰っているようだ。大混乱だったぞ」
とても嬉しそうに話している。
「また送られる前に閉じてしまいましょうよ」
「そうだな」
また水神様と2人で裂け目の両端から修復を始めた。朝とともにギャラリーが増えて来た。 念の為に間違ってもギャラリーに聞かれないように水神様との連絡会話に切り替えた。
『透明でやっていれば良かったな』
『水神様は時折、領民の前に出ないと駄目ですよ』
『そうかな』
俺と同じで余り目立ちたく無いようだ。
『城に戻ってました?』
『城の内庭と隣の屋敷の庭に、そっくりそのままウジャウジャしておった』
楽しそうに水神様が話している。
『お礼に雨を減らしてあげたら?』
『今でも減らしているぞ』
『月に一度降れば十分ですよ』
『哲司殿も厳しいな』
『今はどの位降らしています』
『月に2度かな』
大きな裂け目を修復し終わった途端に、少し離れた場所から大蜘蛛が顔を出して来た。
水神様が直ぐに大蜘蛛を押し戻して修復を始めている。俺も直ぐに応援に行って、完全に修復した。
『本当に月に一度で十分な気がして来た。神に喧嘩を売るとどうなるか思い知るが良い』
笑ってしまった。
『水郷境からは連絡が来ているか?』
『調べに走らせてますが、問題は無さそうですよ。先日、徹底的に調べて修復して有りますから』
『危ないのは天狗の里かな』
『そう言えば出て来ませんよね』
『全ての修復が終わったら連絡してみるか』
小さな空間修復まで終わらすのに後、1時間以上かかってしまった。
水神様が疲れたので帰りたそうにしていたのだが、諦めて連絡をさせた。放って置いて後で困るのは水郷城なのだから。
『返事が来ないぞ』
怪しい。何か有るような気がする。
『天狗の里の裂け目修復以来見て無いような気がします』
『私もだ』
困った事になってなければ良いが。
『返事が来た! 自主的に助けを求めるそうだ。但し天狗の用意が出来しだい連絡が来るそうだ』
『待ちましょうよ』
『そうだな……だが天狗は何をやっているのだ?』
『知らないですよ』
『哲司殿は知らない方が良いような気がして来た』
水神様と俺は天狗の館の最上階に着いた。テラスのようになった出窓の少し先に大きな裂け目が出来ていた。
天狗さんがサボって女の人と遊んでいた時に、天狗さんが自分で直した場所だ。
「何匹出て来た?」
「牛鬼が3匹」
「退治したのか?」
「まだだ。真下に居る」
水神様と水美と俺で裂け目に片端から牛鬼を叩き込んで、両端から少しずつ直して行く。
「出て来ようとしたら押し返すぞ」
「了解です」
慣れて来ているので、仕事は早い。修復が終わったら水神様が少し大きめに再生をかけて終わった。
「歪みも無い。完璧だ」
「水神様、左下の空間が歪んで光り始めてますよ」
2人で慌てて飛んで行き、水神様が再生をかけると普通に戻った。
「哲司殿、沢山光っている場所が出て来た。2人で手分けして対処するぞ。最大出力で再生を使え」
「ハイ」
「天狗は手を出すな!」
完全に怒っている。
『水美、あの2人は無視して直そう』
水美がウンザリしている。
『何故水神様があんなに怒っているの』
『哲司は分からないだろうが、天狗が精霊の女臭さをプンプンさせているのだ』
そうなんだ。
『じゃ俺だってバレている事が有るのかな?』
『絶対に無い。水の里だと直ぐに浄化されてしまう。妾も必ず浄化している』
『風の精霊さんはどうしてバレるの』
『風の里には、浄化力の高い風呂が無いのだ。風の精霊が浄化しようにも、出来ない状態に置かれているのもあるのだろう』
ナンだ、それはと思ったが聞かないでおいた。
我々が5ヶ所くらい修復していると、話し合いが済んだようだ。
天狗さんが、うなだれているので水神様の完全勝利みたいに見える。
「済まなかった。哲司殿は天狗の部屋に近づかないようにな」
「はーい」
水美が大笑いしている。
水神様は俺の修復をチェックしながら、修復場所に向かって行った。
黒カッパが見えたので表面だけ凍らせると、水神様が裂け目修復のだらしない所を開いて突っ込んでいる。
俺は他を探してみると、もう3匹見付けた。水神様が次々と始末して行く。
カラス天狗達が再捜査を丁寧に始めている。牛鬼にばかり注意が行っていたみたいだ。
2人で天狗の里をチェックして、サッサと水郷境に行って再チェック。
水郷城に戻って問題が無かったので、お仕舞いとなった。
「哲司殿はどうする」
「もう昼ですから肉鍋屋にでも行ってビールと思ってます」
水神様が羨ましそうな顔をしている。
「水神様も行きます? 結構美味しいですよ」
「行くぞ」
肉鍋屋で水神様に食べ方を教えて食べさせる。
「これは美味い!」
気に入ったようだ。面倒な話しを食べながら終わらす。
「善姫とスミも呼んで良いか?」
「そう言えば食べたがってましたね。呼びましょう」
暫くすると善姫さんとスミさん、宣姫と知世さんと我が家の妖怪が飛んで来た。
結論から言うと善姫さんの肉の食べっぷりは凄いものだった。




