第3章09話
第3章09話
林の開墾をやっていると、村長さんが走って来た。
「御屋形様。村の川辺でカッパが御屋形様に話しが有ると待ってますだ」
「何だろう? すぐに行くよ」
切り倒した分は水美が枝を落として、移転で村に移動してから、村長さんを連れて川辺に飛んだ。
「カッパさーん」
カッパさんが現れた。
「御屋形様に、大ナマズ、用事」
「大ナマズさんは滝の落ち口?」
「そうだ」
村長さんとカッパさんに礼を言って、滝の落ち口に飛んだ。
滝の落ち口に近い中洲のような小島のような所に肉塊が積んである。
何か嫌な予感がする。
「大ナマズさーん」
直ぐに出て来た。ナンカ怒っている。
「ナンダ、御屋形様か。水神殿を呼べよ」
「俺じゃ駄目?」
「構わないけど……今回の原因は水神殿なのだ」
「水神様が?」
「余りに仕事がいい加減で、それが理由で村の子供とカッパが死にかかったのだ!」
そりゃあ苦情も言いたいよな。
「そこの肉塊は?」
「儂が退治した黒カッパだ」
「すぐ呼ぶよ」
水神様に連絡すると、しぶしぶ現れた。
「自分で何故呼ばれたか分かっておるのだろうな?」
「ま、待て大ナマズ。そんなに怒るで無い」
「3年前の手抜き空間裂け目修復の為に今日6匹の大黒カッパが現れ、村の子供と助けに入ったカッパが死にかかったのだぞ」
「……」
「儂がたまたま近くに居たので問題が無かったが、今回は真面目に仕事をする気は有るのか?」
水神様が肉塊の山を見ている。大ナマズさんが如何に強いか良く分かる。
「分かった。済まなんだ。今回は哲司に手伝って貰い、完全にする」
「御屋形様も一緒なら信用しよう」
「すぐに取り掛かる」
「その前に、そこの肉塊をどうにかして欲しいな。臭くてかなわん」
水神様が肉塊を消去したが、それだけだったので俺が浄化すると大ナマズさんが満足したようだった。
『哲司。済まないな。大ナマズは沼と川の生神だからな。下手に怒らす訳にも行かんのだ』
大ナマズさんは、既に神様だったんだ。水神様も気苦労が多い。
「さあ早くやって仕舞いましょう」
大ナマズさんが滝の水をカーテンのように左右に開いてくれた。
「デカい裂け目ですね!」
空間が斜めに裂けている。
「一気に壊れて、より広がったみたいだ。端から丁寧に修復するしかあるまい」
「大ナマズさんの言う通りですね。裂け目が深いモン」
「私が上から修復する。哲司殿は下からお願いする」
水神様は中腰になりたくないようだ。
「良いですよ」
水美と一緒に丁寧に修復を始めると、水神様も空中に浮きながら割れ目の端から修復している。真面目にやっているみたいだ。
大ナマズさんが監視している。
「大ナマズさんの祠は何処に有るの?」
修復しながら話しかける。
「その割れ目が出来て、出て来た黒カッパ達に壊されてな、そのままよ」
「分家がだらしなくて済みません。すぐに再建するよ」
タマ次郎さんを呼ぶと、すっ飛んで来た。
「御屋形様、お呼びで?」
「大ナマズさんの祠が破壊されたままだから、相談してすぐに再建して。費用は俺が出すから立派なやつを頼みます」
タマ次郎さんと大ナマズさんがゴニョゴニョ相談を始めた。
『哲司殿の部下は有能で良いな。水郷城は駄目だ』
『育てないと、いけませんね。何でも水神様じゃ疲れますよ』
『そうしたいのだが、良い人材がおらんのだ』
『幹部会でさえアレですもんね』
『……言葉も無い』
1時間半くらいで半分終わった。裂け目が大きいので、とても疲れる。
大ナマズさんの所に宮大工が来て、何か相談している。それを囲んで村人やカッパ達、小者達が野次をしている。
「休んでビールでも飲みません。疲れました」
「残り半分だ。休もう」
水神様に貰った皮袋からビールを取り出して、水神様と一杯ずつ飲む。
「水辺のビールは美味いな」
水神様が嬉しそうに飲んでいる。大ナマズさんが苦笑いして見ていた。
一杯飲み終えて作業を再開する。
「前は水神様だけでやっていたの?」
「殆どな。天狗は何時もあんな調子で当てにならん」
「大変だったんだ」
「そんな事を言うのは哲司殿だけだ」
「古い修復場所を再点検しましょうか?」
「自分で言うのもナンだが、その方が良さそうだな」
水神様は美しい顔で苦笑いしていた。
修復が終わったので、修復カ所の再生をすると歪みが全く無くなった。
滝裏の洞窟に川が流れていて奥まで続いている。
「大ナマズ殿の住処が奥に有る。点検に行ってみよう」
俺と水神様が進んで行くと、山の中に沼が有った。光球を3つくらい出すと、微かに歪んだ空間が二カ所程見えた。
「あれも古い修復場所?」
「そうだ。再生で治らんかな」
水神様が空間に再生を掛けると、歪みが無くなった。俺はもう一カ所の方の空間を再生する。
「全く歪みが無くなったな」
沼の水が緑色で濁っている。藻の発生が進んでいるみたいだ。
「大ナマズさん。水も綺麗にする?」
「やって貰えるなら嬉しいな」
俺と水神様で浄化すると、沼の水が透き通った。小魚が泳いでいるのが空中から透き通って見える。
「これは助かった。礼を言うぞ」
「また見に来るよ」
「済まないな。助かる」
タマ次郎さんが走って来た。
「御屋形様。宮大工と60金貨で話しが付きました。タマ左右衛門と話して移住予算から出せますので、気になさらぬよう」
「足らない時は言ってね」
大ナマズさんとの挨拶を済まし、水神様と遅い昼食で寿司屋に行く事にした。
「働いた後のビールと寿司は美味いな」
水神様がゴキゲンで居ると、働いて無い2人と2妖怪が寿司屋の入口から顔を出した。
こいつ等の察知能力は凄い物だ。
「入って食べなよ」
即座に入って来て注文を始める。
「旦那様。仕事は終わりですか?」
「大ナマズさんの分が終わったの。午後は開拓に戻るよ」
「城は善姫とスミだけか?」
水神様が気にしている。
「可哀想だから2人を連れておいでよ。生魚が嫌でなければだけど」
「哲司殿、済まないな。2人とも寿司を食べた事が無くて来たがっていたのだ」
宣姫が城に飛んで行った。
「善姫とは助け出した日から会って無いですね」
「善姫も気にしておった」
礼を言われたり、謙遜したりが得意で無いので、簡単に終われば良いな。
一眼寿司のオヤジが、また貸し切りにしてくれていた。




