第3章08話
第3章08話
暫くサボっていたので水郷境の視察が増えている。領主は見て歩かない主義だったらしく、とても喜ばれる。
「御屋形様、開拓が大分進みました」
お爺さんに言われて見ると、確かに開拓が進んでいる。大きな切り株が所々に残っている。
「あれは数年掛けて無くすだよ」
ナンカ見栄えが悪いので全部、土に返してやった。
「御屋形様、有り難うごぜえます。これで二男も百姓で食べれますだ」
切り株が大きいので、1株無くすのに1ヶ月位かかるのだそうだ。そういう話しを聞くと俄然張り切ってしまう。
「これから先は豆を植えてな、来年の春からは田になる。切り株が有ると田にならん」
そういう物なんだ。
「右の林が開拓終われば収穫量も相当増えるのだが、隣りの五作が腰を壊して開拓が進まんのじゃ」
確かにお爺さんの開拓地に比べて70メートルくらい遅れている。
「収穫量がそんなに変わるの?」
「そりゃあお天道様の恵みが違うだよ」
確かに隣の林で日照時間が変わる。
「俺が木を切ったら、木は木材業者が持って行く?」
「そんな、村の皆で使うだよ。家も建てなきゃならないし、薪だって必要ですだ」
「じゃ、俺がお爺さんの所まで揃えて切り株無くすよ」
「御屋形様がですか?」
「簡単だと思う。先はお爺さんの所までだけど幅は何処に合わせる?」
お爺さんが、開拓地の区切りを教えてくれた。30メートルは有る。言わなきゃ良かった、結構な量だ。
言ってしまったので始めることにした。
『良い事をするのだ。諦めて頑張れ』
『水美も手伝ってよ』
『哲司が切り倒せ。妾が切り株を土に戻す』
『だから水美が大好きさ』
横に一例ずつ木を倒して行く事にした。普段使わない風の妖術でスパッと斜めに切って、風で押し倒した。
『結構上手く行くぞ』
『哲司の風関係の妖術を上げる良い機会になったな』
単純作業を水美とイチャイチャしながらやって2列目が終わる頃、村の人達に止められた。
「御屋形様、木を運ぶ時間を下せー」
それもそうだなと思って作業を中止して、他の開拓地に行って切り株の処理をしていると知世さんが来た。
「旦那様。このような単純な事なら知世も」
「無理だよ、簡単に妖力不足になるよ。結構力を使うから」
「ですが旦那様」
「知世さんは、まだ身体が本調子じゃ無いし、また日焼けするから城のお風呂で湯治をしてなよ」
知世さんが不満顔だが、身体を大事にして欲しいのは本心だ。それに一緒だと自由に休めない。
『上手くやったな。また体力不足になる所だ』
『カッパさんの時は皆が手伝ってくれた分、かえって疲れたからね』
時間が中途半端になるので、もう一カ所開墾を違う村で引き受けて、2時間くらい休んでも誰も怪しまない状況を作った。
水の里で御飯を食べて風呂に入り、水美に抱きついて寝ていると体力と妖力が戻って来た。
『百姓の言う事を聞いていると、仕事が終わらんな。哲司にも《移転》をやろう』
『移転て?』
『妾や一眼姫が物を一カ所に集めたり、運んだりしてるだろう。あれだ』
『貰えるの! 嬉しいな』
『哲司に体力は有るのか?』
『バッチリ。任せて』
『本当か? 楽な生き物は移転出来ないのと、生き物や妖怪まで移転出来るのと有るぞ」
『そりゃ生き物も移転出来るのが良いよ』
『哲司の妖能力ギリギリなのだ。最悪でも終えるまで気を失うなよ』
何時ものように仰向けに寝ている俺の顔の前に、水美の美しい顔がどアップに現れ始まった。
『哲司。覚悟しろよ。自分で選んだ道だ』
体力はギリギリだった。スカスカになった頃、移転が俺の物になった。
『良く耐えたな。水郷境と水郷城でも移転出来るぞ』
水美の声を聞いたら気が遠くなった。後で水美に聞いたら一時間以上昏睡状態だったらしい。
二時間くらい掛けて体力を回復させて、開墾中の林に戻った。
「御屋形様、木の移動にまだまだ掛かりますだ」
「運んで積んでおく場所を教えて」
村の隣りの空き地に運んでいるようだ。
「薪用の潅木は?」
「村に近い所に」
村長と話していても頭がまだクラクラしている。水美に笑われてしまった。
俺と水美で協力して、枝まで切り払い移転させた。処理能力を超えるので、1日に5列くらいが限界のようだ。
俺と水美が働いていると、小者達が隣りの森から興味津々で見ている。
「人間。何で木を切る?」
「畑や田んぼにするんだよ」
「俺達の場所が狭くなるのか?」
「お前等も説明されているだろう。森には手を出さないよ」
「そうか。良かった」
また住む場所を奪われるかと心配だったようだ。
「水田が出来れば、水も小魚や小動物も豊かになるぞ」
「昔に戻ったみたいだな」
小者達が嬉しそうだった。
開墾地で働いていると、近所の神様達なんかも顔を見に来てくれる。わざわざ来てくれるのも嬉しいものだ。
「神様、お詣りの人達は増えました?」
「お陰さんでな。前に居た場所の何倍もの人達が来てくれるぞ」
とても嬉しそうな神様を見るのは楽しいものだ。
知世さんも日に何回か見に来てくれる。
「旦那様、一寸だけ邪魔しますね」
10分くらい話して帰って行く。矢張り来てくれると、とても嬉しい。
『今晩はヤヤの御飯か?』
『うん、外食ばかりは飽きるし身体に悪いからね』
『妾もヤヤの作る食事が好きだぞ』
ヤヤさんの御飯は豪華でも質素でも無く、とても美味しい。
『ヤヤさんの御飯と水美の御飯で過ごしていると、体調が良いんだよ』
『矢張り手作りが一番なのかな』
『知世さんも早く体調を整えて、ヤヤさんに習わないと駄目なんだろうけど』
『もう少し掛かるな』
『宣姫もヤヤさんに習いたいみたいだしね』
『始まったら、暫くは怖ろしい食事になりそうだな』
『城で善姫とスミさんに時折習っているみたいだよ』
『暇潰しには良いのだろう』
次の村に行って開墾していると、村の人が芋をくれた。
「御屋形様、こんな物しか無いですが奥様と食べて下せー」
自分達の食べ物だろうに。
「どうも有り難う。とても嬉しいよ」
ヤヤさんに届けたら、早速今晩のおかずにするそうだ。領民と付き合っていると楽しい事が多い。
夕刻まで働いて、知世さんや宣姫達と甘味屋で少し休んで屋敷に皆で帰った。
宣姫は殆ど我々と御飯を食べている。
その日の晩御飯に肉と芋の煮付けが出た。とても美味かった。




