第1章04話
第1章04話
知世さんの笑顔に見惚れていると大八車から声がした。
「儂にも白湯をくれぬかな?」
大八車の上に一つ眼の座敷童みたいのが立っている。
「やるぞ。こっちに来い」
一つ眼がピョンピョンと俺の足元に来た。体長50センチくらいかな? 一つ眼だが結構カワイイ。
「これに入れてくれ」
一つ眼は自分用の茶碗を何処からか出して俺に突き出している。白湯を注いでやると美味そうに飲んで息をつき、また大八車に戻った。
「白湯なぞ飲むのは何年ぶりだろうか? 感謝するぞ」
「どう致しまして」
俺が笑って応えると、一つ眼が頷いた。俺はコートのポケットに入っていた朝ご飯で残った一角ウサギの焼き肉をあげた。
一つ眼が葉の包みを開き必死に食べている。食べ終わったので、また白湯を出してあげた。
知世さんも面白そうに見ている。白湯を飲み終えて一つ眼が話し出した。
「礼に良い事を教えてやろう」
「何だ」
「半時も行くと御主等を狙って敗残兵が襲って来る。7人くらいかな。その首領の刀を奪え。必ず良い事が有るぞ」
「そうか……避けられないのか?」
「無理だろう。運命じゃ」
「わかった。ところで、お前の名は?」
「……一眼姫とでも呼んでくれ」
一眼姫に言われて俺は背中の木刀袋から木刀を引き出し腰に差した。知世さんは荷物から包丁を出して懐に入れた。良く見ると知世さんの包丁は布をニカワか何かで固めた鞘に入っていた。
「そんなに慌てなくて良い。半時後じゃ」
半時って……一時は日本では2時間だけどこっちも同じなんだろうか?
二人で緊張しながらもダラダラと歩いて先を急ぐ。知世さんの力と体力は驚くべきものだった。妖獣のオオカミ5匹を載せた大八車を楽々と引き俺より余裕が有る。
「哲司様、よろしかったら後ろに載りますか?」
などと聞いて来る。当然断ったが感心してしまった。
暫く歩いているといきなり俺に槍が飛んで来た。俺がそれを掴み取って投げ返すと悲鳴とともに兵士が山から転げ落ちて来た。自分でもビックリした。飛んで来た槍に気が付き飛んで来る槍がゆっくりと見える。知世さんを大八車の下に入れ、自分の持っている槍を山側に隠れている兵士に投げ付けるとまた1人槍に突かれて転げ落ちて来る。
やたらゆっくりと飛んで来る矢を木刀で叩き落とし、弓兵を確認した。
「氷球」
氷の球が弓兵の顔面に当たり、後ろに倒れた。兵士が倒れる度に俺に力が流れ込んで来る。
正面に4人の兵士。1人は武士らしい格好をしている。
少し離れていたので両側の兵士を氷球で倒し、妖力が無くなると嫌なので木刀で突進して行った。
右側の兵士が近いので木刀で叩こうと降り下ろすと武士らしいのに木刀を切られてしまった。
武士らしいのが返す刀で俺に袈裟懸けで切り込んで来た。
「氷球」
「氷球」
「氷球」
俺は氷球を3発連続して撃つと全部武士に当たり、後ろに倒れた。顔が無くなっている。
「ギャー」
男の悲鳴が聞こえた方を見ると、大八車の近くでうつ伏せになって知世さんに乗っている兵士が見えた。下敷きになっている知世さんの足がバタバタしていて、兵士がピクリとも動かない。
慌てて大八車に走って行く。
「大丈夫じゃ。知世の勝ちじゃ。怪我も無い」
一眼姫の声が聞こえ、知世さんが呻いている。
「ウーウー」
蹴飛ばして兵士を除けると血だらけの知世さんが折れた包丁を両手で持って現れた。
「健気じゃぞ。知世はお前の加勢をしたのじゃ」
「知世さん出て来たら駄目だよ。死ぬよ」
「だって木刀が切られて……」
あれを見て出て来たのか……
「知世さんアリガトね」
顔も頭も血だらけの知世さんが笑い顔で俺の礼に応えていた。
知世さんに倒された兵士は喉に包丁の刃が刺さった状態で死んでいた。
「知世さん血を流そう」
お座りした血だらけ知世さんにお湯を頭からかけてあげると知世さんがゲーゲー言いながらオタマジャクシの紐を解きながら血を流している。
血を全部流して美人の知世さんが復活するのに凄い時間がかかった。
「変えの着物は有るんでしょう? 着がえておいでよ。村で新しいのを買うから、血だらけのは捨てようね」
知世さんが頷いて大きな木の裏側に行った。
俺は死んでいる武士の所に行き、刀を手にしてみる。不思議な刀だった。そんなに長く無く、直刀。刃は厚めでバランス悪く見えるのだが凄くバランスが良い。日本刀では無いデザインだがこの世界では日本刀に近い。
「妖力を通してみい」
一眼姫が俺に言った。言われた通り妖力を通してみると青く光り出した。
「まだ誰も妖力を通して無いようだ。暫くそのままでいると、お前の物となる」
一眼姫に言われてそのままにしていると、知世さんがよりボロい着物で現れた。数枚買わないと駄目なようだ。
突然光が強くなって消えた。
「哲司。お前専用の刀だ。妖力を通していると折れもしないし切れは最高だ。大切に使え」
一眼姫に頷いて武士の腰から鞘を取り、刀を収めて腰に帯刀した。
武士の腰にもう一振り刀が見えた。取ってみると小刀だった。小振りで俺の刀に似た感じだった。
「知世さん。これ使いなよ」
包丁を折ってしまったので代わりの護身用だ。右手に持って知世さんに差し出した。
「わ、私などにこのような……」
「これでは嫌か?」
知世さんは少し考えてから、両膝をついて震える両手で小刀を受け取った。
「知世は命を懸けてこの刀に誓います」
小刀の一振りくらいで大袈裟な人だ。
一眼姫が妖術で大八車に7体の敗残兵を積んでいる。俺は武士の槍に目を付け、手に入れた。先程まで持っていた槍と雲泥の差が有る。素晴らしい槍だった。
大八車に戻ると知世さんがまだ小刀を抱えて赤い顔をしている。
「行きましょう。昼御飯が無くなりますよ」
「ハイ!」
知世さんが兵士7体、オオカミ5匹の乗った大八車を軽々と引き出した。
「さっき1人倒したから強くなったのじゃ」
一眼姫が俺に言った。成る程なと思った。