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第2章15話

第2章15話


 天狗さんが、少し落ち着いて話し始めた。


「城の会議の後、外に出るといきなり空間が歪み違う場所に居たのだ」


「水郷城内でやられたの」


「そうなのだ。水郷城は入り込まれている」


『哲司よ、先に言っておく。何処かに飛ばされたら、即座に水の里に飛べ』


『水の里に?』


『そうだ。水の有る場所なら、必ず水の里に通じている。出来るだけ早くだぞ。引きずり込まれている最中でも構わん。悪影響を食らう前に水の里に行け』


『分かった』


「どんな所に飛ばされたの」


「俺の見た限り妖怪と獸人ばかりで人族は見なかった。何ヶ月も出口を探していたが無くてな、大きな黒カッパが居たのでヒョツトしてと思って監視していたら空間が歪んだので飛び込んだら帰れた」


 黒カッパの里か。


「天狗の里も監視されているの?」


「カラス天狗が2人行方不明で、現在里の門を閉じている」


『里の門は妾が知っている』


「俺がチョット見て来るよ」


 水美が窓から出たので俺も飛び出した。


『目の前に有る三角の山の麓が門だ』


 2人で飛んでいると人気の無い山の麓に大きな鳥居が有った。


『4人発見』


『俺は右の2人を』


『了解だ』


 刀を抜いて妖力を流してから、移動で2人の目の前に現れた。


「氷球」


「氷球」


 氷球を連射して1人を即座に倒し、もう1人には切り込んだ。

 陰陽師は刀を避ける為に詠唱を中断され、逃げようとした所を俺に斬られた。


「ギャー!」


 左手が肩から切り落とされ、手にしていた札が舞い散った。


『水神様、1人確保』


『済まない』


 陰陽師が消えた。


『水美、後1人は?』


『とっくに逃げているわ』


 水美が財布と数珠を集めてくれた。刀を収めて財布と数珠をしまっていると、門が開いてカラス天狗が飛び出して来た。


『天狗さん片付けたよ』


『何時も済まないな』


『カラス天狗達が飛び出して来ている。一度、里に戻ったら?』


『そうする、後でまた行くよ』


『そうしよう』


 俺と水美は屋敷に戻った。


「旦那様!」


 知世さんが帰って来ていた。宣姫も来ている。2人供手に槍と薙刀を持っている。


「もう片付いたから心配は要らないよ」


「哲司殿だけで片付けてしまう」


 宣姫が不満そうだ。


「今度、手伝いを頼むよ」


 皆で楽にするように言って、武器を仕舞わせた。


「天狗様はこの10日近く放浪していたのですか?」


「本人には10日どころか、何ヶ月も掛かって帰って来たようだよ」


「違った世界に?」


「そうみたいだね」


「所で、宣姫は他の城の幹部って見た事有る?」


「普段は用事も無いのにウロウロしてますから見ますよ」


「そうなの? 俺、会った事無い」


「哲司殿が登城すると皆、逃げてしまうのですよ」


「だから幹部会は、俺と天狗さんだけなんだ。まるで小物の群れだな」


「はい、小者ばかりです。大妖怪は悪事を働いて討伐されて、良い妖怪は気軽に過ごしてます。まとまりが無いのです。だから、最近は知世さんが城に来ても逃げ出す騒ぎです。知世さんが来ると母は凄く喜びます」


「獸人の長とかは?」


「獸人と言っても皆が6感を持つ訳では無いので。獸人の長は力の強い者がなりますので。母も困ってますよ」


 本当に困ったものだ。水神様が勝手に運営すれば良いのに。


「天狗の里は、あの三角山なの?」


「あれは門が在るだけです。里は何処か違った場所ですよ」


『哲司、少し実態が分かったか?』


『分かって来たみたいな気がする』


 天狗さんが帰って来た。よりスッキリした顔をしている。


『あのカラス天狗さんが可哀想な気がして来た』


『まあ、何ヶ月も1人だったのならな……だが、風の精霊は何をしていたのだ?』


『光の精霊さんに聞いてみたら』


「哲司済まないな。飯でも食いながら話そう。何処に行く?」


「ウナギが良いな」


「美味そうだ。行くぞ」


 知世さん達がションボリしている。


「全員で行こう」


「良いのですか?」


「仕事の邪魔になりませんか」


 知世さんと宣姫が遠慮がちだ。


「構わん行くぞ」


 水郷城のウナギ屋は堀のそばに在る。


「良い臭いだな入るぞ」


「天狗の旦那に御屋形様、いらっしゃいませ」


 丸坊主に鉢巻きの店主が上機嫌で迎えてくれた。俺は三眼が鉢巻きをしていると睨んでいる。


「特上鰻重を6人前と、う巻き4人前、全員に鰻ざく。ビールも。肝焼き出来るなら出来るだけ」


「御屋形様、俺一人しか居ないんだよ」


 怒られてしまった。


「オヤジ、そう言うな。白焼きも食べたいぞ」


「天狗様、当分後になりますぜ」


 肝焼きを食べながら天狗さんの話を聞く。


「行った所では言葉が通じないんだよ。全く別の言葉だった」


『哲司、この肝焼きは美味いな』


『山椒を沢山かけるのがコツ』


 知世さんと宣姫達は《う巻き》をキャーキャー言って食べている。


「獸人達は狩りの他に農業もやっていた。それなりに文化は有ったな」


『鰻ざくも良いな』


『奥様達は、う巻き専門ですけど』


『言ったら悪いが、お子様には分からぬと思う』


「ビールね」


 オヤジに睨まれる。忙しいのは分かるけどさ。


「何ヶ月もどうやって食べていたの」


「狩りだ」


「妖怪は沢山居た?」


「居た。こっちでは絶滅しているようなのも沢山居た」


「そんなの送られると面倒だね」


「ああ、鬼も健在だったからな」


「鬼は此処にもまだ居るんでしょう?」


「大きさが違う。あっちのは、兎に角大きい」


 特上鰻重が来た。


「良い臭いです!」


「山椒を沢山かけて食べなよ」


 皆が俺を真似てから食べ始めた。


「美味しいです!」


「こんなの始めて」


 一眼姫とピョコリ瓢箪は無言でガツガツ食べている。誰も天狗さんの話を聞いて無い。


『これは美味いな。ビールに合うし。全部の料理が気に入った。哲司、感謝するぞ』


『水美が喜んでくれて嬉しいよ』


『持ち帰りたいな』


『明日、買いに来よう』


 水美が嬉しそうに笑った。


「オヤジ、ところで白焼きは?」


「これから焼く!」


『風の精霊の気配は在る?』


『全く感じない』


『何が起きているんだろう?』


『妾が知りたい』


『ケンカしたとか』


『あり得るな。風の精霊が付いていれば、もっと早くに帰れている』


『風の里に飛ぶの?』


『風の里は全てに繋がって無いが、風の精霊が居れば空気の臭いで割れ目を探せる』


『水の里は凄いんだ』


『とても特殊な場所だ』


 久し振りの水郷城に安心したのか、天狗さんは楽しそうにしていた。




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