第2章14話
第2章14話
水の里に着いて、水美が食べ物やビールを保存箱に移している。
前回のも有るから結構選んで食べれる。ビールもタップリなので安心だ。
どうせ水美が複製して出してくれるのだけど。
『風呂に入ろう』
水美が練習着をたたんでいる。俺は何時ものように、洗って貰って湯船に浸かった。
『此処の風呂は本当に気持ち良いな』
『活力と妖力が回復するし、浄化作用も有るからな』
『知世は若くなったと言われて喜んでいたが、そんなに老けていたのか?』
『初めて会った時は本音で22歳くらいと思っていた。とても美人と言うか清楚で可愛い人だけど、色黒でね。真っ黒だったよ』
『哲司は若く見えるからな。知世も気になるさ』
『風呂に入れてゴシゴシしたら、大分白くなったよ』
水美が大笑いしている。
『貧しかったので苦労したのだろう。哲司の嫁になれてホッとしたのも良かったと思うぞ』
『俺だって日本であんな良い嫁さんが貰えるとは思わない。こっちに来て良かったよ』
『知世とうんと仲良くした後は疲れないか?』
『身体が凄く重くなって動けなくなる時が多い。最初の頃は意識が無くなった』
『何故か分かるか?』
『俺の体力不足と思っている』
『知世が哲司の力を抜き取っているのだ。哲司は妖力でそれを補っている。知世もまだまだ不足しているのよ。あの年まで水郷城に入って無く水郷境からも離れていたからな』
『俺が与えないと知世さんは、また壊れて来るのか?』
『確実にそうなると思うぞ。今は身体が水郷城に慣れてないからな。哲司も同じだが栄養と体力と妖力が有るので何とかなったが、お前は迷い人だから順応しないとな』
『何ヶ月かかる?』
『最低で3年だな』
『3年!』
『当たり前だ。全て作り直しだからな。消滅したく無いだろう』
『絶対嫌だ!』
『だからな』
水美の美しい顔が目の前に現れた。
目を開けると、水美の膝枕だった。
『気が付いたか。動けるようになったら風呂に入ってから弁当を食べよう』
膝枕が心地良くて起きたくなかったが、風呂に行った。凄く力と妖力が漲っていた。
『天狗は来てないのだろう』
『風の精霊が解放された日から、全く見て無い』
『これは不味いぞ』
『また怒られるのかな』
『最悪、取り上げになる』
『そんな事になったら天狗さんおかしくなるよ』
『そうならないように、自分達で気を付けないとな。精霊を嫁には出来んのだから』
『天狗さんがメロメロなのかな』
『どっちもどっちだな。200年以上も一緒に居るのだから』
『奥さん居なくなったからヒマなんだと思うよ』
『100年以上別居状態でか?』
『それもそれだね』
『光の精霊の前に水神様の調停が入るかもな』
『水神様は、精霊が付いているのを知っているの』
『知っている。哲司が妾を所有しているのも知っているぞ』
『水美は会ってるの?』
『会わん。必要も無いし、世界が違う。前も言ったように哲司にしか見えない。実体化すれば会えるがな』
『水神は精霊に命令出来るの』
『出来ん。水神様が出て来る時は光の精霊の要請で行われる。水神様も駄目天狗になられると困るだろう』
『駄目天狗と駄目風の精霊か、どっちも使い物にならないな』
『風の精霊は消滅させられるだろう』
『それは酷くない?』
『どうしてだ? あの状態で他の者の担当には出来んだろう。記憶を消しても天狗は覚えている。間違って何か起きたら困る。自分を律せれ無い精霊は要らんのだ』
『天狗さんの奥さん探しが良さそうだね』
『だな』
部屋に行って食事にした。今日は水美が大きめの脚付き食膳を出して来た。
『今日は並んで食べようよ』
『良いぞ』
おかずを取り替えっこしたり、水美の横顔を見たり出来る。向かい合うと胸と顔ばかり見ていて、食事がおろそかになってしまう。
『此処の弁当は美味いな』
『水郷城一の弁当屋らしいよ』
『内容が入れ替わったらまた欲しいぞ』
『ウナギと寿司も揃えたいな』
『ウナギか?』
『日本風の蒲焼き屋が在るのよ。白焼きも有るし』
『今度食べさせてくれ』
『水美に食べさせたくてウズウズしている』
『嬉しいぞ』
御飯を食べ終えて水美から、飛行の特訓を受けていると天狗さんから連絡が入った。
『我が家の居間に居るみたい』
『哲司、服を着て行くぞ』
居間に着くと天狗さんが座っていた。
「哲司、スマンな勝手に上がり込んでいる」
「構いませんよ。随分と久し振りですね」
「5人くらいの陰陽師に狙われて、変な世界に飛ばされていた」
「狙われたの!」
「やっと戻れたのだが、天狗の里は見張られているようだし、水郷城は通じているのが居るので、此処に逃げ込んだ」
天狗さんが疲れ切っている。
「とりあえず、薄汚れているから風呂に入りなよ。着代えは俺ので良い?」
「カラス天狗に届けさせる。哲司のでは俺には小さい」
兎に角、天狗さんを風呂に追いやった。匂っている程だ。本人も辛いだろう。
『水美、周りに陰陽師は居る?』
『屋敷の周りにはおらんな。安全だ』
『風の精霊が付いていて、何処かに飛ばされるとは』
水神様に連絡を入れた。
『水神様、少しよろしいです?』
『哲司からとは珍しいな。何か起きたか?』
天狗さんの状況を説明した。
『飛ばされていたのか? 哲司は天狗殿の話を聞いて保護して欲しい。確かに水郷城は現在、怪しいのが居るのだ』
水神様と話し終えると、女のカラス天狗が来て窓に降りた。
「天狗様は?」
「廊下の先に大浴場が在る。自分で行って指示を仰げ」
女カラス天狗は草履を懐に入れて風呂に行った。
『女のカラス天狗は初めて見た』
『少数だが居るぞ』
『でも俺と水美は人間と精霊だから陰陽師は怖くないけど、天狗さんは祓われる可能性が有るから大変だよね』
『変だな、風の精霊は何をしていたんだ?』
『俺、何回も天狗さんを陰陽師から守っているよ』
ヤヤさんがビールと餡掛け揚げ出し豆腐を持って来てくれた。
『水美、食べよう』
『ヤヤさんは本当に気が利くな』
水美が美味しそうに食べている。
『これもビールに合うな。これは良いぞ』
『天狗さん、ゆっくりだね』
『放っておけ。今は忙しそうだ』
『……』
1時間くらいして天狗さんは風呂から出て来た。カラス天狗さんは飛翔で帰ったらしい。
「カラス天狗さんは安全なの?」
「あれには、世界を越えれる数珠を渡してあるので大丈夫だ」
ヤヤさんが天狗さんにビールと餡掛け揚げ出し揚げ豆腐を持って来た。凄い勢いで両方とも無くしたので、ヤヤさんが次を取りに行った。
「まともな物を食べるのは久し振りだ」
「何処に飛ばされてたの?」
「分からぬのだ」
天狗さんが白和えと大根の煮物に飛びついていた。
『哲司、少し落ち着くまで待て』
それしか無いなと思った。




