第1章03話
第1章03話
食後は知世さんに、この世界の一般常識を教えて貰う事になった。
「ここは笹美の国で都は笹美城と言い、歩いて8~9日の所に在ります。ここは辺境の地で先週まで隣の『樫の国』と戦っておりました」
「勝ったんですよね?」
「追い返すのに成功したくらいでしょうか」
現在、領主の間で賠償金の交渉をしているらしい。
「貨幣はどのようになっているのです?」
「金貨1枚が大銀貨2枚、または銀貨10枚となります。銅貨100枚で銀貨1枚、中銅貨1個で銅貨10枚、粒銅10粒で銅貨1枚といった所でしょうか」
10進法で整った貨幣制度が有るなら、それなりの文化は有るようだ。
金貨が1万円、大銀貨が5000円、銀貨が1000円、中銅貨が100円、銅貨が10円、粒銅1個が1円と考えれば良いようだ。
物価は相当違うようで庶民が銀貨以上を見る事は余り無いようだ。
知世さんと話しているうちに炉端で寝てしまった。途中で少し目を覚ますと知世さんも炉端で寝ている。また直ぐに睡魔に襲われ、知世さんにコートを掛けてあげてまた寝てしまった。
「ドーン」
「グシャ」
凄い音で目を醒ますと大きな牙を持ったオオカミが小屋の戸を突き破って、中に入ろうとしているところだった。
「水球」
とりあえず妖術で対抗して叩こうと小屋が燃えたりしない水球を撃ち、木刀を木刀袋から出すとオオカミが倒れている。また俺に何かが流れ込んで来た。
外の仲間らしいのが小屋に入ろうとしていたので木刀でオオカミの眉間に一撃を与えると1発で倒してしまった。
外に飛び出してみる。
「光球」
「水球」
明るくすると3匹まだいたので水球を真ん中の大牙オオカミに飛ばし左の奴に木刀で切りかかると、オオカミの右前脚に当たりオオカミが倒れたので頭を木刀で突いて殺した。
すかさず右手のオオカミが飛び込んで来た。
「水球」
「グシャ」
オオカミを撃墜したようだ。大牙オオカミは全部2メートルは有る大物で、俺の弱い妖術や木刀で倒せるとは思えない妖獣だった。
今の俺も相手を確実に捉え対応して木刀で叩いても、妖術を出しても以前より遥かに力を増している。
昨日から相手を倒す度に何かが俺に流れ込んで来ているのが原因だろうか?
「哲司様」
知世さんが心配そうに戸口に現れた。
「大丈夫です。終わりました」
「私達と料理の臭いで来たようですね……でもこんな事初めてです」
「戦で環境が変わったのでしょう。ここは女の人が1人で住むには危険ですね」
「……そのようですね」
「故郷には住めるのですか?」
「ここから5日くらいの水郷境という所には家が在ります。売らなかったと言うより、売れなかったので」
「買い手が無かったの?」
「いえ、墓なども在るので売る訳にいかなかったので……従姉妹に管理して貰ってます」
「じゃ、そこまで行きましょう」
「ハイ!」
知世さんが嬉しそうに返事をしたのが印象的だった。
家の前と中を明るくしてあげると、知世さんは牙オオカミの血抜きを始めた。
「凄いですね。水球の当たった所の骨が砕けてます」
そんな事を話しながら、知世さんはテキパキと仕事をしてゆく。
2軒向こうの家から大八車を出して来て、牙オオカミの血抜きが終わったのから積んで藁紐で固定してゆくと朝日の昇る頃に仕事が終わった。俺が役立たずなので、殆ど知世さんがやってしまっている。
「お武家様の仕事ではありません!」
途中でこのように、怒られてしまったのも有るのだが……
「松並村には昼過ぎには着くでしょうから、村でこのまま売りましょう」
知世さんの荷物は風呂敷に1つだけだった。
一角ウサギの肉の残りで朝ご飯を食べ、残った塩焼きは知世さんが葉に包んで2人で分けて、すぐに我々は出発した。
目的地は最も近い村の松並村だ。
知世さんが大八車を引き、俺は槍を持って並んで歩いて行く。俺には大八車を引かせてくれない。
「槍を持った、お武家様が居るだけで盗賊除けになります!」
互いの役目を守れと、また怒られた。
大八車で山沿いの道を歩いて行くと、小物の妖怪達が寄って来た。
「何か用が有るのか?」
「人間、儂等が見えるのか?」
「見えるし話せるし切る事も出来るぞ」
妖怪達が怖がって立ち止まっていると我々は妖怪達を置いて離れて行く。
「哲司様、小物を怖がらせても可哀想です」
「知世さんも見えるのか?」
「ハイ。子供の頃からずっと」
「苦労したろう」
「ここでは結構見える人達が結構居るのでそんなには……ただ、お婆様が見える女は妖女と言って大騒ぎしたので父と私はこちらへ」
「婆さんは?」
「去年死んでます」
「父上は?」
「5日程前に、誰かに殺されました」
婆さんが居なければ、誰も苦労しなかったのに。見えるだけで苦労する人が多いなと思った。
今朝オオカミと戦った時、水球の威力が上がっていたので以前師匠に習った次の妖術を試してみる事にした。
「知世さん、少し騒がせます」
知世さんが立ち止まって不思議そうに俺を見ている。
「氷球」
平地側の木に氷球を放つと10センチくらいの氷球が狙った木に結構なスピードで飛んで行き、30センチくらいの木の幹を折ってしまった。
「哲司様! 凄いですね」
「氷球が撃てるなら湯も出せるかも?」
「白湯」
伸ばした右手の下から白湯が出て来た。
「知世さん、使いませんか? 汗拭きに良いですよ」
知世さんが手拭いで白湯を使って顔や首を拭いて嬉しそうにしていた。
知世さんを見ていると自分が変な世界に飛ばされているのに、現地に変に馴染んでいるのが不思議な感じがした。