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第2章12話

第2章12話


『最初に来た風呂とは違うな』


『あれは初めての者用の風呂だ。あの時は天狗も慌てておったのだ。奴は天狗の里の風呂に哲司を呼んだつもりだったからな』


『天狗さんも自分の風呂と部屋を、此処に持っているのか?』


『いや。天狗は風の精霊の者だから、風の里に有る。哲司のお陰で生涯一度の水の里の風呂に入れた』


 俺の部屋は20畳以上有り、脱衣場が6畳くらい、風呂はやはり20畳くらいはある。


『風呂に入るぞ』


 水美に急かされ風呂に入った。身体を洗って貰い、露天風呂と言うか洞窟風呂と言うか景色の良い展望風呂に水美と浸かる。


『此処は心も身体も癒されるからな。出来れば毎日来る事を勧めるぞ』


『毎日は無理だな』


『今、毎日来れる理由が分かる』


 水美がビールと肉豆腐を出して、沈まないお盆に載せてくれた。


『哲司のお陰で料理を覚えたからな』


 風呂でのビールは美味い。


『此処は特に景色が良い』


 前回の風呂より景色が良いような気がする。


『風の里は似たような所?』


『あそこは森林だ。住む場所には、心地良い微風が吹いている』


『水美は行ったの?』


『行かん。風の精霊に聞いた』


 結構縄張りが有るようだ。


『前回天狗が哲司と来たのは風の精霊を一時引き離す間、許可されただけだ』


『引き離したの?』


『天狗が離縁したので風の精霊が光の精霊に呼ばれたのよ。殆どの時間一緒だったから、責任を疑われても仕方有るまい』


『天狗さんにも脅しになった訳だ』


『そういう事だ』


『今日はすぐ居なくなったけど』


『風の精霊の所だ。あの日以来だからな』


『10日以上経っているよ』


『罰だ、会う事を禁じられておった。今日解禁された』


『厳しいな』


 水美に身体を拭いて貰い、部屋に入った。のぼせていたので床に寝転がった。床の敷物がとても心地良い。


『ビールと軽い食事だ』


 水美が何処からか出したのは鱒寿司だった。驚く程美味い。


『こんな物しか無いが、水の里で捕れた鱒だ』


 美味しい物に綺麗なお姉さんで満足して、また寝転んだ。


『此処に来ると妾から妖術も受け取れるし妖力も増えたり回復出来る』


『本当に』


『そうだ。哲司は飛びたくないか?』


『飛べるようになるの? なれるなら凄く嬉しいけど』


 水美の顔が目の前に現れた。


『なら儀式だ』




 何時間経ったのだろう。気が付くと水美の膝枕だった。


『これしか妖術を渡す方法が無いのだ。知世には悪いが』


『動けるようになったら、飛んでみるぞ』


 動けるようになるのに10分くらいかかったような気がする。


 部屋の窓に行った。


『呪文は要らぬ。飛ぶと思えば良い。行くぞ』


 水美と手を繋いで、水墨画の世界を飛んでいると凄く心地良い。とても自由に飛べる。心も軽くなって心配事も消え去って行く。


『一人で飛んでみるが良い』


 宙返りをしたり、錐揉み飛行をしたり自由に飛べる。


『水美、有り難う』


『これで、また有利に戦えるぞ』


 2人で滝の近くに降りてみた。上空から見たより大きな滝だった。


『少し間を明けて、今度は水の中で自由に動けるようにするぞ』


 水美がそう言って俺に微笑んだ。

 もう少し飛行練習をして部屋に帰った。


『この部屋は外からの入り口は無いの』


『無い。脱衣場に出て来たのは履き物を置く為だ』


『天候は?』


『時折霧が出たり小雨が降る。美しいぞ』


 2人でまた風呂に入って身体を清めた。初めて空を飛んで疲れたのか風呂で寝てしまった。


 次に目覚めると部屋で寝ていた。また水美の膝枕だった。


『疲れは取れたか?』


 上を見ると水美の胸と顔が同時に目に入った。


『飛ぶのは疲れるんだな』


『違う。世界の時の流れにまだ合って無い。出来るだけ来ている内に慣れて、どの世界でも楽になる』


『そうなんだ』


『知世の為にも、そうするが良い。哲司の生まれた世界と今の世界は時間の速度が違い過ぎる。身体に相当負担がかかっているのだ』


『病気になるの?』


『迷い人が、また居なくなる原因は時間の負荷とも言われている』


『そう……消滅するんだね』


『心配するな儀式で少しづつ治せるし、水の里の力でも良くなる。知世の為だ』


 水美との儀式と知世さんの為が両立する言い訳みたいで後ろめたい。


『分かった』


『哲司が水の里で得た力の一部、妖術意外は知世にも伝わるしな』


『そうなんだ!』


『まともに夫婦生活をしていると、一部意識も共有するようになる。天狗のようになるなよ』


 水美がまたビールを出してくれた。喉が乾いていたのでとても美味い。


『哲司は2度、気を失ったから汗で乾いているのだ』


『長い時間此処に居るような気がする。どのくらい時間が経ったのかな』


『気を失った時間が長いからな。5時半くらいかな』


『10時間以上か。約束の晩御飯をすっぽかしてしまった』


『哲司の時計を見てみろ、それは水郷城時間で動いている』


『昼9つ半!』


 昼の1時くらいだ


『こっちと水郷城と時間の進みが違うのだ。沢山時間を使っても止まっているのに等しい。年は取らない。水の里の不思議だ』


『……』


『信じろ、哲司の悪いようにはしない』


『人の動きと世界の動きは別な物なのか』


『水郷境から笹美の国に移動しても、人が凄い速度で動いている訳ではあるまい。速度は人の感覚に過ぎない』


『良く分からんな』


『誰も良く分からないから不思議と言うのだ』


『良く分からないが、ここに来ている人は水郷城の6倍近くの時間を使える訳だな』


『使えるが隔離されて良い自然しか無いがな。学者には良い世界かも知れないが時がほぼ止まっているのは水郷城でも水の里でも変わりが無い。本来ならここに来る理由は無い。

 ここはゆっくりと身体と頭を休める為に有るようなものだ』


 最後の説明で分かったような、分からなかったような……まあいいや。


『哲司は水郷城に行き、書庫から出て水郷城の記録に残せ。知世と宣姫はまだ昼食中だろう。後は仕事でも好きにすると良い』


 俺は飛翔で水郷城の書庫に戻り、城を出て屋敷でタマ左右衛門さんを筆頭のタマ兄弟と水郷境の学校を、税金内で整備できるか話しを始めた。


「来年は減税で水郷境の景気も良くなりますので、運営費が出せるようになると思います」


「今年するとなると、施設代が……」


「幾らかかる?」


「1000金貨はかかります」


「俺が寄付するよ」


「御屋形様にご迷惑を掛ける訳には。予算を組み直して」


「分家騒ぎで遅れまくっているのに、そんな事を言っている余裕は無い。俺が払うので直ぐに建設を始めなさい」


 金を取って来ると言って3階に走って行くと、知世さんが走って付いて来た。


「宣姫と楽しんでいるのに邪魔してしまった。済まない」


「とんでもない」


「知世さん1000金貨使うよ。水郷境に学校を寄付するのに使う」


「素晴らしいです! どうぞ!」


 数珠も4本持ってまた1階の詰め所に行った。


「1000金貨です。これで直ぐに建設出来るでしょう?」


「はい! 直ちに」


「それとタマ五郎さんにだけだったから」


 移動数珠を4本渡した。タマ左右衛門さん、タマ次郎さん、タマ三郎さん、タマ四郎さんが大喜びだった。


 水美の言う通りだ。やる気になって、後回しだった懸案が終わった。

 知世さんと宣姫、一眼姫にピョコリ瓢箪が役場の戸から覗いている。

 役人が20人くらい一斉に立ち上がり知世さんと宣姫に頭を下げている。


「皆さん気にしないで下さい」


 仕方無いので知世さんと宣姫を2階に連れて行った。


「あなた達が役場側に顔を出したら、ああなるに決まっているでしょう!」


「「スミマセン…」」


 時間を見ると3時くらいだった。


「甘味でも食べに行きますか」


 全員で万歳をしていた。

 大福屋で知世さん達と大福や団子を食べながら思った。知世さん達から見ると、俺は昼飯抜きで朝9時くらいから城や屋敷で6時間は働いていたのだ。

 実際には間で10時間以上サボっている。水の里万歳と思った。



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