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第2章11話

第2章11話


 黒カッパ騒ぎから3日経って水郷城に呼ばれた。謁見の間には水神様と天狗さんだけだった。

 どうも常に同じ顔ぶれで話しをしている気がする。他にも幹部は居るのだが、毎日城でウロウロしているだけで何もしないらしい。

 会議をすると意見を言い、反対はするが建設的な意見が無いらしい。

 従って、普段城に来ないで働いている俺達だけ呼ばれる事になったようだ。


「哲司よ良く来てくれた」


「いえ、呼ばれれば何時でも」


「先日の陰陽師が中々吐かんので、仕方無いので直接記憶を読んでみた」


「……それは御苦労様ですね」


「本当に御苦労様だ」


 自分で吐いてくれれば確認に心を読むのは簡単なのだが、何も無い状態で記憶を読むのは大変なのだ。


「矢張り、このゴタゴタの元凶は笹美城で?」


「そうなのだが、中心人物が君主なのか宰相なのか君主の子供達なのか分からん」


「どっちにしても笹美の国が悪いで押し切れば駄目ですかね?」


「そうも行かんだろう」


「あの陰陽師の上司は矢張り陰陽師で頼田一漸という怪しい名の成り上がりで、一応陰陽師の頭らしい」


「一応ですか?」


「あそこは百鬼夜行でな、派閥が幾つも有るのだ。だから頭は簡単に入れ替わる」


「なる程」


「だから城の幹部の言う事には逆らわない。よって誰の部下か分からん」


 酷い話しだ。


「アソコの姫もコソコソ裏工作していると聴いたな」


 天狗さんが話出した。


「姫なんて居るの?」


「善姫であったかな。居るのだが有名では無いのだ。以前何か色々有って存在して無いように扱われている」


「あの姫は此処の幹部と繋がりが欲しいらしい」


「天狗さんの嫁さんにすれば?」


「うん、それは良い考えだな」


 水神様も賛成のようだ。


「何で俺があの様なババアの跳ねっ返りを嫁にしないと行かんのだ。軽く40歳を超えている筈だぞ」


 自分は何百歳よと思ったが、口には出さなかった。


「でも、先日の賭場荒らしはバレていて、待ち伏せ食らったような気がするので、誰か繋がりが有る幹部が居るかも知れませんよ」


「あれなー。怪しいよな」


「私も怪しく感じたので、計画終了まで黙っているようにする事にした」


「それだと幹部を軽んじて、天狗と哲司だけ贔屓していると大騒ぎするバカが出るぞ」


「既に、もう出ておる」


 水神様が目頭を押さえて、うなだれている。


「じゃ、俺達と一緒に斬り込めば良いのに」


「奴等がする訳が無い」


 天狗さんが鼻で笑っている。


「先日の黒カッパ騒ぎの時でも幹部という名の城でゴロゴロしている連中は出て来ないで、宣姫と知世と警備隊だけで戦っていただろう。あんなもんよ」


「幹部の整理が先みたいですね」


「なのだがな……」


 水神様は悩みが多い。


「あの黒カッパは何か手掛かりになりました?」


「あれは違う世界から持って来た可能性が高いな」


「違う世界から?」


「此処の黒カッパは、もっと小さい。あの大きいのは、作ったか異世界の物だ。笹美の国の陰陽師にそのような力が有るのが不思議だが」


 結局、何も分からないみたいだった。


「あの黒カッパは石垣を登って城を攻撃する様子だったけど、それ程強く無いのに」


「奴等、頭がおかしいのよ」


 天狗さんの一言で終わってしまった。


「結局どうします? 笹美城で暴れて来いと言うならやりますよ」


「待て待て、まだ限り無く怪しいが証拠が無いのだ」


 面倒な世の中だ。


「そうそう、先日の悪霊だが」


「賭場と売春宿の?」


「それだ。陰陽師が仕立て上げた餓鬼のようだ」


「餓鬼? あれが?」


「陰陽師が低級の餓鬼に形を与え、人の欲望を掻き立て堕落させると人のようになれると吹き込んだらしい」


「だから博打と売春ですか」


「だがな、水郷境は獸人が半分で正規の人族は獸人と仲が良いし6感持ちも居る。獸人があいつ等の怪しいのを感知して皆に知らせたのだ」


「だから、誰も奴等に近寄らなかった訳か」


 水神様が天狗さんに頷いている。


「結局、餓鬼で作ったヒトモドキ同士で食いあっていたようだ」


「互いに金を取って?」


 確かに荒らした時の収入は大きかった。


「そこに俺達を嵌めた訳か」


 天狗さんが不愉快そうだった。


「代官所は売春宿に残して来た人間の女達も居なかったと主張しているし、どうにもならん」


 壺振りのオバお姉さんも数奇な運命を辿っているようだ。


 結局何も決まらないまま解散した。天狗さんはソソクサと居なくなった。


「水神様、図書庫を利用して良いです?」


「哲司は常に使う権利を持っている。夜中であろうと自由だぞ」


「有り難う御座います」


「ところで宣姫が知世を連れ廻して済まんな、あれは友達という者を持った事が無くてな」


「いや、知世も同じです。だから宣姫との時は出来るだけ自由にさせております。私が居ると2人で気を使いますから」


「そうだな、哲司の言うのも尤もだ。女だけの会話もしないと成長せんしな」


「今日は家で昼食を食べて昼風呂とか言ってましたから、連絡が有ったら私が書庫とは言わず会議中にしておいて下さい」


「うん、そうするぞ」


 俺は書庫で、この世界から見た異世界との行き来を調べる。黒カッパの件から気になっているよ。


 水郷城の書庫は利用者も無いのに巨大だ。違った世界との行き来に関する本を数冊集めて読んでゆく。

 難解で分からなくなって来た。


『水美』


『呼んだか?』


 水美が現れた。相変わらず美人だなぁと思う。


『水美が居た風呂は異世界と言ってたな』


『そうだ』


『水郷境と水郷城も異世界なのか』


『異世界だな』


『天狗の里は』


『異世界だ』


『今日、あの巨大黒カッパは異世界産と聞いたのだがどうやって連れて来たのか分かるか?』


『飛翔かもな』


『可能なのか』


『簡単と言えば簡単だな。時を考えなければ出来る』


『分からん』


『例えば、水郷城も天狗の里も時の流れは、ほぼ同じだ。風呂が在った水の里は時の流れは、もう少しだけ遅い。だが水郷城と水郷境では水郷境の流れは凄く早い。

 水郷境と笹美の国のだと笹美の国がもっと早い。だから行き来が普通の人間には困難になるのだ。』


『じゃ俺だって時間に影響されている筈だろう』


『哲司は強い6感持ちだったので慣れてしまったのだと思うぞ』


『慣れた?』


『哲司がこっちに来た時に、何か変わらなかったか?』


『戦っている時、相手の動きがゆっくり見えたぞ』


『お前の戦いの感覚は、日本と言ったか? お前の世界の基準になっている。子供の頃から身に付けたからな、だからゆっくり見えるのだ』


『じゃ、黒カッパは違った世界から来ていても問題が無い訳か……』


『当然だろう。悪霊なんて異世界中の異世界に居る物だぞ』


『そうか……確かにそうだな』


『水の里の景色が変わって見えただろう?』


『見えた』


『水の里の時はもっと遅い。だから不思議な見え方をするのだ』


『そうなんだ』


『何故、哲司は水の里に来ない?』


『天狗さんに会うだろう』


『バカモン、天狗はあの時だけだ。哲司には哲司の風呂と部屋が用意されている。身体も頭も休まるし妖力も強くなる。これから行くぞ!』


 水美に運ばれてしまった。




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