第2章07話
第2章07話
天狗さんと水郷城に帰る用意をして時、天狗さんが話し出した。
「哲司よ、俺とお前も連絡を取れるようにした。遠慮無く話し掛けて来い」
「はい、でも良いのですか?」
「水郷城の幹部として、俺とお前が連絡が出来ないと不都合が出て来る。先日の牛鬼騒ぎから見ても、誰かが邪神と組んだ可能性も高い」
「邪神ですか」
「そうだ、物の怪程度なら簡単に動かして来るだろう。その時は戦わねばならんからな」
「覚悟はしてますよ」
「心強いな。哲司も天狗の里に気軽に遊びに来い。もう来れるのだから」
「有り難う御座います」
「さあ、飯だ。知世も帰っている頃だろう」
天狗さんと水郷城の屋敷の居間に移動した。
「旦那様、天狗様、お帰りなさないませ」
知世さんがにこやかに迎えてくれた。
「城の風呂はどうでした?」
「楽しかったです!」
「それは良かったですね」
「母も一緒に入って、時を忘れました」
「水神様がですか?」
「私も母と一緒はたまにしか無いのですが、今日は母も楽しそうにしてました」
知世さんが本当に嬉しそうだった。
「話は食いながらだ、肉鍋に行かんか?」
「良いですね! 肉鍋屋が有るんだ」
「有るぞ、行こう!」
水郷城の繁華街に落ち着いた佇まいの店が在り《肉鍋》の彫り物看板が掛かっていた。
「いらっしいませ」
一見、人族に見える30歳過ぎの綺麗な人が迎えてくれた。
「女将、すき焼きとビールだ」
「はい、こちらにお座り下さい」
日本の居酒屋みたいに掘りゴタツ風になっている。お座りで無いのは凄く助かる。
「すき焼きが有るんだ!」
「有るぞ、それこそ迷い人が持ち込んだ」
「旦那様、どんな物です?」
「直ぐに分かりますよ、とても簡単で美味しい料理です」
女将がビールを配ってから大きめの、すき焼き鍋を2つ持って来て机に置き、タマゴはカゴに山盛りで置いて行った。
俺がタマゴを割っていると、皆も真似をしている。
「タマゴは生で食べる。美味いから気にするな」
天狗さんに言われて、皆さん何となく納得している。
肉と野菜が運ばれて、女将が説明しながら用意を始めた。
「俺と天狗さんは勝手にやるから、そっちの4人を御願いします」
女将がニヤリとして頷いた。
俺は油をひいて大きなサシ牛肉を2枚鍋に入れ、ジュウと良い音がした所へ割り下を垂らし、肉が少し赤い状態にした。
「天狗さん直ぐに!」
俺と天狗さんはタマゴを付けて肉を食べ始めた。凄く美味い肉だった。割り下の味もなかなかの物だ。
直ぐにまた肉だけ焼くと、天狗さんがまだ少し赤いうちに取って行った。
「美味いな!」
隣の鍋も肉が焼けたようで、皆が食べている。
「これ美味しい!」
知世さんと宣姫がキャーキャー言っている。
俺はまた肉だけを焼き、天狗さんと食べている。隣は野菜が入り始めてペースが遅くなって来た。
俺はお構いなしにまた肉だけを焼き、天狗さんと食べている。
隣の鍋組がこちらを見ている。割り下が焦げて来た所へ少量の豆腐と野菜を入れて焦げを取り、水を少量入れて鍋を掃除して野菜を食べると、また油をひいて肉に戻った。
「これは良い手だな!」
天狗さんが喜んでいる。
「旦那様と天狗様だけズルい!」
「そうですよ! 二人で倍くらいの速さで肉を食べているじゃないですか」
宣姫もブーブー文句を言っている。
「何事も基本が大切です。女将の言う事を聞いて、正しい食べ方を覚えなければ駄目ですよ。女将、もっと肉」
女将が大笑いしている。一眼姫とピョコリ瓢箪がタマゴ皿を出したので肉を分けてあげて、また肉に専念した。
「やはり本場から来た者は良い手を知っているな」
天狗さんに誉められてしまった。
「この、鍋を掃除した野菜類が味が濃くて美味いな。酒に丁度良い」
天狗さんが自分で鍋掃除の野菜類を入れている。
「女将さんビールと肉ね」
「はい、すぐに」
「ズルいですよ!」
「肉が堅くなるよ。文句言ってないで、食べて次の入れて」
慌てて肉を取って、次のを入れている。一眼姫とピョコリ瓢箪は両方の鍋から食べている。
「お腹いっぱいですね」
「おお、肉でいっぱいだ」
俺は残りをタマゴとじにして、ビールにした。
「このタマゴとじは美味いな」
二人でビールを飲んでいると、知世さんと宣姫達にタマゴとじは取られてしまった。
女性陣は時間をかけて食べ続けている。
「河瀬の御屋形様でしたか! 気が付きませんで。これからも御贔屓に願います」
「こちらこそ」
女将さんと話をして情報を仕入れていると、最近水郷城に物の怪が現れている噂が有るらしい。
「物の怪って死霊か何か?」
「水郷城の妖怪が嫌うなら死霊でしょうね」
確かに死霊はロクな物では無い。
「普通、奴等はここに来ないから誰かが送り込んでいるみたいな気がするな」
取り敢えずその死霊を見付けないと、何処から送り込んでいるかも分からない。
「見付け出して始末しないと駄目ですね」
宣姫は始末に固執している。
「どうやって見付けます?」
「死霊なら怨みの無い所に出ないから、此処や水郷境に出ても弱ってると思うよ」
「哲司の言う通りだな」
「普通の悪霊は光球の光でも嫌うから、夜に出せる者を集めて光球で街中照らしまくったら」
「それも良い手だな」
「だが、とどめを刺すには祓うか妖力の通った刀が必要だぞ」
「宣姫の刀と薙刀が有るじゃないですか」
「哲司殿、ズルいです! 哲司殿の刀だってそうじゃないですか」
「知世さんの槍と小刀もそうだぞ」
「人の事を言ってないで、天狗さんも持っているじゃないですか」
天狗さんが鼻で笑っている。
「カラス天狗さん達は」
「あいつ等も持っている」
「水郷城に軍隊は無いの?」
「軍隊か、前にも言ったが弱いぞ。先日の牛鬼騒ぎの時に会ってないか?」
「私の隣に居たオオカミ族の将軍に会いましたでしょう」
宣姫に言われて気が付いた。
「牛鬼みたいな特別版と違って小者なら大丈夫ですよ」
「小者だからこそ探すのが大変だけどね」
「誰か式神を使え無いの」
宣姫が意味不明になって来ている。
「宣姫よ神が付けば何でも自分の仲間と思ってないか?」
天狗さんがツッコミを入れる。
「あれこそ陰陽師の飼っている妖怪ですよ」
「そうなんだ」
俺の説明に変に納得している。
「何で水郷境じゃ無いのです。悪影響なら、あっちの方が大きいのに」
知世さんが不思議そうに言っている。
「水郷境に蔓延したら、手に入れた時に自分達が困るから」
俺の説明で納得したようだった。
「城下に不安を広げて変に騒ぐ奴等を作りたいのが一番でしょう。分断工作は国を不安定にしますから」
「城に帰って、お母さんに相談してみる」
それが一番楽な方法なので、そうする事にした。




