第2章04話
第2章04話
水郷城が牛鬼に襲われて1週間が経った。水神様が忙しく原因究明をしているようだ。
水郷境の方も分家の騒ぎが収まりつつあり、タマ左右衛門さんと代官の蓑田さんで話しが進んでいる。
「御屋形様、代官の蓑田が説明したいと言うので呼んであります」
「昨日、聞いたけど彼は6感が無いのに水郷城に入れて良いの」
「代官は特例で認められてます。まさか御屋形様が代官屋敷に行く訳にも、いきませんから」
我等は一階の謁見の間に行った。20畳くらいの部屋にポツンと蓑田さんが居た。
蓑田さんの近くに座るとタマ左右衛門さんが座布団を持って来てくれた。
殿様みたいに高い所から話すのは勘弁して貰った。
「蓑田殿、久しいですね」
「御屋形様も活躍しており忙しいところをお邪魔しております」
「どうなりました?」
「タマ左右衛門殿にも先に相談して進めて来ましたが、分家の謀反は明確で呆れるばかりでした。関わった者全員を罪に問わねばなりませが、男子後継者が全員行方不明で困っております」
俺達が成敗してしまっているので出て来る筈も無い。
「調べて有罪なら刑を確定して、お尋ね者にすれば良いのでは?」
「御屋形様はそれで納得していただけますか?」
蓑田さんは誰も捕まらないので困っているようだ。
「居ない者は仕方無いでしょう」
「分家は既に廃嫡済みで財産も没収してあります」
タマ左右衛門が補足してくれた。
「分家の騒動の中心人物は女性陣と聞くが」
「作用で御座います。ババ様は死亡してますし、嫁と長女は御屋形様が水郷境に入った夜に自害しました。残るは次女と三女ですが、死罪に問うか問わないか迷う所で……」
「次女と三女は水郷境の中でも嫌われ者でして……知世様に家の管理を頼まれていた者で御座います」
タマ左右衛門さんが補足してくれると、蓑田さんも頷いている。
「借金はだいぶ残るの」
「没収財産と相殺しても何万金貨かは確実です。周りに迷惑も掛けられませんので河瀬家が肩代わりしておきますが」
「現罪状ですと死罪を逃れた場合、百叩きの後10日の晒し刑か、30年以上の奴隷ですか」
「百叩きで10日の晒しは実質死罪でしょうし、若い女の犯罪者奴隷は殆ど売春でしょう?」
「作用ですな……」
「みっともないですよ」
「私も御屋形様に賛成ですな。河瀬の名で晒されたり、売春奴隷が居たりするのは絶対に反対です!」
「……早速死罪とします。河瀬家の方に午後に御手数ですが立会人をお願いします」
「タマ次郎を行かせます」
「これで、やっと終わりますな」
蓑田さんがホッとしている。
「水神様が色々と気にしている事が有ります」
蓑田さんがギクッとしている。
「最近水郷城で行方不明の小者妖怪が増えております。野良陰陽師が水郷境に入り込んで無いか確認頂けますか?」
「野良陰陽師ですか? 水郷境門で厳格に選別しておりますので、ただの噂では」
「左様ですか。蓑田さんがおっしゃるのなら」
「……」
「時に水郷境で賭場が立っているとの噂が有りますが」
「水郷境でですか? 有り得ませぬ!」
「蓑田殿が言うと頼もしいですね」
返事に困っていた。
午後の処刑を理由に蓑田さんが慌てて帰った。
「分家の件は終わったと考えて良いですね」
「はい」
「賭場の立つ場所と日時は分かりました?」
「こちらで御座います。御屋形様が?」
「任せて」
「野良陰陽師は?」
「只今、小者達に追わせております。6名程居るらしく……」
「6人も!」
「はい」
「少し泳がせて背後が知りたいですね」
「そうする予定で御座います」
「タマ五郎さんは」
「帰って来ております。御屋形様にいただいた移動数珠のお陰で相当仕事も進み、再度開拓民を入れて権利の確定をするか相談中です」
「危険ですから気をつけて」
話しが終わったので2階に行くと知世さんが一眼姫とお茶を飲んで無いた。
「旦那様、代官殿は?」
下での話しを説明していると天狗さんも現れた。
ヤヤさんがお茶を入れてくれた。
「ピョコリ瓢箪は?」
「隣で寝てたぞ」
天狗さんがお茶を飲みながら話している。
「分家の次女と三女は困った奴等だな」
「良い人達と思っていたのですが……」
知世さんが下を向いている。
「美人なのか?」
知世さんが首を左右に振っている。
「美人なら何かする気だった?」
俺の問いには答えない。
「これが水郷境の賭場予定」
「水郷境に賭場が有るのか?」
「有るみたいですね。今晩、俺が1つ潰しますけど」
「俺も一緒に行くぞ」
気晴らしには良いか。遂に奥さんと別れる事となったので暗い。
「良いですよ」
いきなり頭に声が響いた。
『哲司殿、良かった一寸来てくれぬか?』
水神様だった。
『良いですよ』
その瞬間、水神様の謁見室に居た。
「久しいのう。何をしておった」
今日の話しをして、ダラけた生活を誤魔化す。
「忙しいな。野良陰陽師と賭場はどうする?」
「野良陰陽師は泳がせて黒幕探しで、賭場は私と天狗さんで今晩から潰そうかと考えています」
「天狗とか?」
「はい、最近暗いので憂さ晴らしでもと」
「ああ、あのバカ嫁か。良く今まで我慢したものだ」
水神様の左の口端が上がりニヤリとした。
「哲司殿、ものは相談だが娘が退屈で困っておる。手伝わせてれぬか?」
「お姫様は退屈と決まっているようなものですよ」
「そう言うで無い。宣姫、此処へ」
どこかで見たような綺麗なお姉さんだった。
「牛鬼の時にお会いしてます」
「あの薙刀のお姉さん!」
「そうでーす」
急に元気になった。
「私も賭場に行かせて下さい!」
「危ないですよ」
「その娘は神の世界の一員だから死なぬ。神同士で争えば違うが」
「じゃ、打ち合わせ中ですから家に来ます?」
「行きます!」
と言う事でお暇して、居間に宣姫と一緒に戻った。
宣姫と居間に現れると、天狗さんが渋い顔をしている。
「宣姫さん。だよ」
「哲司様の妻で知世と申します」
「カワイイー。仲良くしましょうね」
「ハイ!」
「一眼姫とピョコリ瓢箪」
「一眼姫さん宜しくね」
「うん、宜しくである」
「宜しく」
ピョコリ瓢箪も挨拶している。
「天狗様もお久しぶりです」
「おお、久しいな」
「噂通りで離婚で暗いですね」
「うるさい!」
このお姉さんは凄い破壊力だった。
知世さんと屋敷見学に行ったようだ。
「哲司、本当にアレ手伝いに来るのか?」
「水神様の希望だしね、今日何時が良いですかね」
「晩飯の後が良いと思うぞ」
「ですよね」
大浴場からワーキャー聞こえて来る。
「風呂に入ったようだな」
「みたいですね」
ヤヤさんが手拭いを持って小走りにしている。
「水郷城の風呂の方が凄いと思うけど」
「いや、河瀬邸の風呂は有名だぞ」
そうなんだと思った。
「同世代の友人が居ないので、知世さんは嬉しいかも知れないですね」
「宣姫も友人が居ないから良いかもな」
風呂で何をやっているのか、2人と2妖怪の声が居間まで響いていた。




