第2章02話
第2章02話
「あれ何ですかね」
「大型の妖怪だと思うぞ。悪霊だな」
「口から火を吐いているので、俺でも悪霊と分かりますよ」
「水郷城の兵士が出るだろう」
「ギャー」
ここまで悪霊の鳴き声が聞こえて来る。
「兵士は強いの?」
「獸人ばかりだ。大型相手では弱いよ」
天狗さんが落ち着きはらっている。
「哲司は祓いは出来るのか?」
「一応出来ますけど」
「俺から見ると、一応と言う段階は越えているような気がするが」
ビールを飲みながら人を見ている。
「天狗さんの方が強いでしょう!」
「自分で祓う妖怪など見た事無い」
それもそうか。
仕方無いので刀を出して帯刀した。
「近くに運んでくれます?」
「此処からハッキリ見える。移動で行け」
何もする気が無いようだ。
確かに2階の窓から移動の一発で付いてしまった。現地は頭に角が生えたクモみたいな巨大な妖怪が口から火を吐いている。
「6匹も居るの!」
実は祓いはそんなに得意では無い。日本でも三度程頑張ってみたが、成功率は良く無かった。
理由は簡単。妖力不足である。
それと、1種類のお祓いしか習って無かったのだ。俺は剣術屋であって坊主でも陰陽師でも無い。
師匠にまさかの為に教えて貰っているだけだ。
「河瀬様、来て頂けましたか。感謝します!」
オオカミ族と思える武将と人族の役人が居た。
「陰陽師とか坊主とか居ないのですか?」
「ギャー」
妖怪が叫び火を吐き徐々に進んで来る。
「彼等は言う事は良いのだが、こういう時に居た事が無いですな」
オオカミ族の武将が諦め顔だ。
「1匹ずつ切りましょう」
薙刀を持った22~3歳で神官姿の綺麗なお姉さんが、切る気だ。
「試しに祓ってみますか……得意では無いのですが」
俺が言うと全員、一歩下がってくれた。
師匠に習った通り神経を集中して、みぞおち辺りに気を溜める。気の流れが出来て来るのを待つと、俺が青白く光り出した。
嘘だろうと思ったが、邪念を排除して右手の人差し指と中指で手刀を作り、手刀の先に力を溜める。
オデコの辺りに力を感じて来る。
ここまで上手く行ったのは初めてだ! 五芒星を手刀で自分の顔前に描きながら、
「バン」
「ウン」
「タラーク」
「キリーク」
「アク」
なんと目の前の五芒星からビームが出て、青い光りで巨大な妖怪を焼き出した。
俺は右手の手の平を前に付き出して命令した。
「消え去れ!」
光りが急激に強くなり、6匹の妖怪が光りの粒となって消え去った。
もの凄い力が流れ込んで来ている。悪霊退治は妖力伸ばしには良いかもしれない。
とにかく、生まれて初めて上手く行った。周りの人達が拍手してくれた。
「初めて上手く行きました」
「御謙遜を」
「本当です。終わったようですので失礼します」
移動一発で2階の部屋に帰れなかった。狙いが難しい。
河瀬邸の2階は暗かった。3階の居間が明るかったので、3階に移動した。
知世さんが待っててくれた。
「旦那様、御無事で」
抱き付いて喜んでくれた。
「獸の焦げたような匂いがします。もう1度、お風呂に」
2人で3階の風呂に入った。風呂の窓から夜景が見える。とても綺麗だった。
臭いからと石けんでゴシゴシ洗われてから湯船に入った。
「凄い祓いですね」
並んで風呂に浸かっていると知世さんが誉めてくれた。凄く嬉しい。
「皆は?」
「旦那様が勝ったところで、疲れたと寝てしまいました。天狗さんは客室で、一眼姫とピョコリ瓢箪は居間に布団をひいて寝てます」
「今日も色々有ったですからね」
風呂から上がって浴衣になっていると疲れが取れる。
暇つぶしに能力を見ると、再生と複製が伸びているので、練習着と袴を再生してから複製で増やしてみた。大成功だった。
こちらで剣術の練習着は手に入りそうに無いので助かる。パンツも沢山複製しておいた。
朝は快適に起きれた。やはり宿と違ってゆっくりと寝れる。朝風呂に入り、2階で皆と朝食を食べていると、水郷城から呼び出しを食らった。
「昨夜の祓いの話だろう」
「面倒くさいのは嫌だなぁ」
「諦めろ」
昨日から天狗さんが好き放題に言っている。
朝ご飯を終えて、知世さんに《嫌ダヨー》《行きたく無いよー》とグダグダ甘えて困らせていると、ヤヤさんが来た。
「食事が終わりましたら、下でタマ左右衛門様がお待ちです」
仕方無いので、歯を磨いてから行く事にした。
一階に降りると廊下にタマ左右衛門さんと弓を装備したタマ五郎さんが居た。
「オハヨー御座います」
「御屋形様、お早う御座います」
「タマ五郎さんは?」
「入植地の視察で御座います」
「入植地って知世さんが居た所?」
「作用で御座います」
「荒ら屋が5軒有るだけで、妖獣と敗残兵でとても危険だよ」
「でも、先代の御屋形様の墓も有りますし調査が必要です」
「歩いて行くの?」
「はい」
俺は皮袋に入れといた移動数珠を出した。
「移動数珠だよ。移動が楽になるし、襲われたら簡単に逃げれるので使いなよ」
「このような高価な物を!」
「目標を定めて《移動》だからね。旅でも直線が有れば全部移動すると良いよ。半分も時間が掛からないから。襲われた時の練習になるし」
タマ五郎さんが腕にはめている。
「では急ぎますので」
タマ五郎さんが急ぎ足で出掛けて行った。
「水郷城に呼び出しですって?」
「はい、河瀬家は水郷城の最高幹部の一員ですので諦めて」
「……では行きましょう」
水郷城へは、やはり神社を通って行くようだ。
「昨夜の大規模な祓いは水郷城で話題となっております」
「私も予定外でした」
タマ左右衛門さんが笑っていた。
本殿の隣の通路を行くと、突然広場に出て水郷城の正門が有る。
「河瀬の御屋形様である」
タマ左右衛門さんが宣言すると簡単に通してくれた。
水郷城に入ると案内の人が来て、控えの間に
タマ左右衛門さんを残して俺だけ広間に通された。
「河瀬哲司だな」
「はい、そうですが」
「私が水神だ」
とても綺麗なオバお姉さんだった。ニッコリ俺に笑いかける。
「昨夜は大変世話になった」
「いいえ、タマタマ上手く行っただけです」
「来たばかりの日に手数を掛けて申し訳無く思っている。此処は妖怪も多いので祓いが出来る者が少なくてな。迷い人である哲司殿が、あれほどの妖力を持っているのに驚いておる」
「私も、あれ1種類しか出来ません」
「あれだけ強力なら、それで構わんではないか」
「この1週間で野良陰陽師を8人程切ったら強くなっておりました」
「なる程」
水神様が楽しそうに笑っている。
「奴らには困っておる。悪霊退治もせずに小物狩りばかりしておる。聞くところに寄ると、笹美の国が派遣しているようだ」
「我等に刃を向ける余裕が有るのですか?」
「樫の国と戦うので必死と思うのだが……河瀬の家にチョッカイ出した黒幕とも噂されておる」
「本当なら私が切って来ます」
「待て待て、まだ噂に過ぎん。本当なら尻尾を出すだろう。その時は私が方を付ける」
「左様ですか……」
「哲司は陰陽師狩りの時以外は水郷城に居てくれぬか? 昨夜の牛鬼騒ぎも何か怪しくてな」
「牛鬼だったのですか」
「そうだ、此処に来るのが怪しい」
「そう言えば、松木神社の近くに巣が有ると聞いてました」
「松木神社の近くか。水郷城への抜け道が有る。そこに追い込んだ可能性が高いな……」
水神様が何か考えている。
「哲司よ、これを持って行け。昨夜の礼だ」
俺の手に皮袋が来た。
「中は八間四方くらい入る。中は時が止まっているので生物も腐らんぞ。それと飛翔枝を使っているようだが、これを使え。水郷城と水郷境の間でも飛べる。
哲司は知らぬかもしれんが水郷城の最高幹部だ。私が直接話掛けるようにした。哲司からも私を呼べるので、緊急時に使え」
「有り難う御座います」
色々貰ってしまった。皮袋と飛翔は嬉しい。
礼を言ってお暇した。




