第2章01話
第2章01話
ヤヤさんが2階の居間に通してくれた。20畳くらいの大広間で、居心地が悪いくらい。
「2階は御屋形様の執務室の他、居間と食事の間とお風呂に御座います。お風呂は温泉ですので何時でも使えますので。客間も2階に御座います。
3階にも御屋形様ご夫婦専用の風呂が御座いますのでお使い下さい。3階は御夫妻専用階となっております」
ヤヤさんがお茶を置いて居間から居なくなった。
「哲司、昼飯を食おう!」
「「「「賛成」」」」
「天狗さん、何がオススメ?」
「ここは寿司が美味い」
「寿司?」
「水郷城は色々な場所に行く門を持っていてな、港町にも繋がっているのだ」
ヨダレが出そうになる。
「行くぞ」
我々は寿司屋の前に居た。繁華街の中のようだった。
「この寿司屋が安くて美味い!」
「ラッシャイ」
中に入ると一眼の主人がカウンターから言った。
「天狗様、お久しぶりで」
「河瀬の御屋形様夫妻だ。懇意にな」
お寿司屋さんは一眼寿司と言うらしい。
「今日は良いトロが有るよ」
全員でトロを頼んでいる。ビールが出され、とりあえず乾杯した。一眼姫までビールを飲んでいる。
「一眼姫、大丈夫?」
「一杯くらいなら」
本当に美味いトロだった。トロの追加のついでに聞いてみる。
「アナゴって有ります?」
「有るよ」
「強めにアブって、ツメをタップリ」
「あいよ」
「私も!」
知世さんはアナゴを食べた事が無いそうだ。こちらでは一般的では無いようだ。
トロを食べていると、アナゴをあぶる良い臭いがして来た。
「ハマチ」
「御屋形様は寿司好きだね」
「何より寿司です」
アナゴが出て来た。少し焦げていて美味そうだ。
「美味い!」
油が乗っていて最高だった。
「旦那様! 私、これ大好きになりました」
天狗さんや一眼姫とピョコリ瓢箪もアナゴを頼んでいる。
「ウニなんかも有る?」
「有るよ」
「4貫!」
全員で食べまくりだった。
知世さんが食べる度に嬉しそうに俺を見て微笑む。美しい。
チャンバラの疲れなど飛んで行ってしまった。
「寿司も迷い人が持ち込んだ食べ物だから、御屋形様みたいな迷い人の方が詳しいのです」
アッサリ迷い人がバレている。
「アナゴは酒のアテに最高だな」
天狗さんも気に入ったようだ。
「ブリ」
「御屋形様は油の乗っているのが好きだね」
「ヒラメの昆布〆なんかも好きだよ」
「有るよ」
「握って!」
この世の天国と思ってしまった。
知世さん達は俺と同じ物を頼んではキャーキャー騒いでいる。
この一眼ダンナの腕が良い。イカの包丁入れなんかも上手く、柔らかく食べれる。
「ビールが進みます」
天狗さんは日本酒になっている。
結局、昼七つが鳴って帰ることにした。確か3時くらいの筈だ。
「幾ら?」
「3銀」
「えー! そんなに安くて良いの?」
「御屋形様、早くこっちの値段に慣れないとダメだよ」
怒られてしまった。知世さんが以前、中銅貨稼ぐのに苦労したと言う意味が分かった気がした。
考えてみると自分で払ったのが、宿の石けん以外初めてだったような気がする。とするといくら宿とは言え石けんの3中銅貨は高いと思った。
居間まで酔っ払いを担いで飛翔枝で帰った。
天狗さんがイビキをかいているのでヤヤさんに任せて2階の大浴場を使う事にした。
着替えを持って風呂に行くと温泉地のような大きな風呂だった。シームレスのガラスなど有る訳も無いのに、どういう仕掛けか水郷城の街が一望出来る。湯船には常に湯が流れ、溢れていて最高だ。
知世さんと洗いっこして風呂に入った。知世さんは頭を洗うらしい。
一眼姫とピョコリ瓢箪が入って来た。
「自分で洗える」
ピョコリ瓢箪が偉そうにしている。一眼姫を洗ってやると、知世さんが一眼姫の頭を洗い出した。
何度も洗って、やっと綺麗になった。
妖術で湯を出して流したり、風の送り方を覚えている。
「次からは全部自分で出来るぞ」
一眼姫は自信満々だった。
皆で浴槽に浮いたり、泳いでから上がった。
「飯はまだ先にして貰った」
「じゃ天狗さんも風呂に入ったら?」
「……そうか」
天狗さんが風呂に行くと知世さん達が居間に入って来た。
「自分の家が温泉旅館みたいなんで信じられないです」
「維持費が掛かりそうな気もするけど、妖術で成り立っているので分からないよ」
「そうですね」
「そうだ! 今日のお財布を数えてしまおう」
天狗皮袋から100を超える財布を出して、中身を一眼姫に分類して貰う。
金貨が283枚、大銀貨が192枚、銀貨が521枚と膨大な銅貨類だった。
金貨が多いのは各自報酬を財布に入れていたからかもしれない。
殺人が金貨2枚くらいか……安い命だ。自分も敗残兵を金貨1枚で殺していたのを思い出す。
未だに金貨1枚の価値が分かっていない。
この世界に来て4000金貨くらいは絶対稼いでいるのだが。だって金貨100枚入りの皮袋が40個になっているのだから。
そんな事を考えていると知世さんが銅貨類の山の前で、うなだれていた。
お金をしまって、知世さんの槍の手入れをしてあげた。
「槍に慣れました?」
「はい! すっかりと」
知世さんの移動数珠攻撃が素晴らしい活躍をしてた。
新たに手に入った数珠は透明数珠と移動数珠だった。透明数珠に浄化を一生懸命掛けてから知世さんにあげた。
「《透明》と唱えると透明になる数珠です。装着していて下さい。襲われた時に逃げ易いですから《透明解除》で戻ります」
「はい!」
知世さんが透明になったり戻ったりして喜んでいる。
なんでもタダで手に入れているけど、買うと高そうだなと思った。
3階の知世さんと俺の部屋を見に行った。寝室が16畳くらい。隣に夫婦用の居間が有って20畳くらい。夫婦用の展望風呂が10畳くらいで湯が出続けている。
3階にも俺の執務室が有り他にもう4部屋広いのが有るけど何かに使うだろう。
寝室に金庫が有ったので開けてみると、金貨が沢山入った皮袋が有った。簡単に持てたので天狗皮袋型くさい。ビッチリ入っていると数え切れないので見なかった事にする。
その隣に我が家の金貨の山を置かさせて貰った。こちらも天狗皮袋に入ったままなので、スペースは取らない。
知世さんのお父さんは完全な第6感持ちでは無かったのだろう。金庫が見え無かったので使えなかったようだ。知世さんが貧乏だと言っていた理由が分かった気がする。
衣類を置いて、洗濯物を持って2階に戻った。
「洗濯物は風呂場に置いて下されば、洗って置きます」
ヤヤさんが洗ってくれるらしい。
「便利になり過ぎて怠け者になりそうです」
知世さんが真剣に言っている。
「知世さん、人の仕事を奪ったら駄目だよ」
知世さんがハッと気が付き頷いていた。
晩御飯は豪華でも無く、質素でも無い美味しい食事だった。
風呂上がりの天狗さんは冷やしたビールを飲んで、またゴキゲンになっている。
「夜景が綺麗です」
知世さんが言った途端に向かいの山が光り、爆発音が聞こえて来た。
「ズドドドドーン」
何かが火を吐いて山から水郷城に向かって来ていた。




