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第1章14話

第1章14話


 次の宿場町まではそんなに距離も無いが、失敗のリカバリーを考えると村と峠の茶屋の間が怪しい。次の宿場町の次が水郷境だから、今日の攻撃は一度で終わる筈だ。


「オハヨーございます」


「オハヨー」


 知世さんがすっかり旅支度を終えている。まだ眠いけど洗面所に行って顔を洗い歯を磨く。


「今、何時ですか?」


「巳の刻くらいですかね」


「また寝坊しました」


「次の宿場町は近いですから」


 練習着を着て袴を穿く。帯刀して準備は終わった。


「朝食は済ませました?」


「ハイ」


「では行きますか」


 皆で村を出てプラプラ歩いて行く。


「囲まれたら知世さんは移動数珠で離れて下さいね」


「ハイ」


 タマ五郎さんはフル装備で俺と知世さんの後ろを歩いている。尻尾がピンとしてカッコ良い。


「峠で丁度昼飯かな」


 登りが続くと結構キツイ。俺と知世さんだけなら移動数珠で登れるのだけど。

 結局ダラダラと登って行く。


「1日1山なんですよ。水郷境は山の梺ですから」


 タマ五郎さんが元気に登っている。左手の林からバラバラと人が出て来た。


「知世、何故帰って来た」


 侍風の若いのが知世さんに大きな声で話し掛けている。


「あなたに関係ないでしょう。言葉遣いに気を付けなさい、分家の3男が本家の人間に遣う言葉では無いわ」


 知世さんが強気だった。分家の3男は刀を抜き走って来た。


「氷球」


 余りに呆気ない最後だった。俺の氷球が顔に埋まっている。

 他の連中が刀を振りかぶって来た。俺も刀を抜き妖力を通す。


「氷球」


「氷球」


「氷球」


 初歩的な妖術で妖力を節約しながら、俺も切り込んで行った。簡単に6人倒すと、タマ五郎さんが矢で敵を倒し始めた。

 中々上手な弓技で、素早く矢を装填して行く。

 知世さんが移動数珠で敵の背後に行き、隙を見て槍で突いている。

 相手が寄って来ないのでただひたすら氷球を飛ばす展開になっている。

 タマ五郎さんの弓攻撃も淡々と続き、相手には遠距離攻撃の手段が無いので、我々3人の標的になってしまっている。

 知世さんの攻撃も効果的で、どちらを向いて良いのか分からない状態だった。

 面白いように倒して行くと、力が流れ込んで来るのが分かる。たが能力向上にはもっと強い相手が欲しかった。この世界では陰陽師狩りが最高なのかもしれない。


 30分くらいで50人程を片付けてしまった。隠れていた一眼姫が出て来て財布を回収してくれた。天狗皮袋に財布を50くらいしまった。


「死体を片付けますね」


 天狗さんに習ったように《消滅》で消して行くがまだまだ弱く、1度に2体がやっとだ。

 一眼姫がサッと全部消滅させてしまった。


「……有り難う」


 実力の差を感じてしまう。


「峠に行って昼食にしよう」


 俺は朝ご飯を食べて無いので、急激にお腹が空いて来た。


「あと半時は登ります」


 タマ五郎さんの言葉にガッカリして、実験してみる事にした。


 俺がタマ五郎さんを抱え、知世さんが一眼姫とピョコリ瓢箪を持って移動数珠で登ると。凄く効率的に登る事が出来る。


「楽しいです!」


 知世さんと一眼姫やピョコリ瓢箪がキャーキャー騒いでいる。

 タマ五郎さんは青い顔をして耐えていた。

 時折、人を抜き去ると皆さん腰を抜かしている。この世界でも妖術はそれ程一般的では無いようだ。


「種火を着けたりする人は居ますけど、御屋形様みたいに妖術で攻撃出来る人は余り居ないです」


 青い顔をしてタマ五郎さんが教えてくれた。

 強引に移動数珠を使って15分くらいで茶屋の近くまで来てしまった。

 知世さんの妖力増加数珠が効率的なようだ。また先程知世さんが6人程倒しているのも、妖力増加の原因だと思う。


「あの3男は従兄弟?」


「再従兄弟です。父が帯刀出来るように計らってあげたのに……」


 我々は峠で蕎麦屋に入って、食事となった。


「山菜の天蕎麦を5つとビールを3杯」


 知世さんが注文している。知世さんもビールを飲む気だ。


「一応丸く収まっているので、乾杯!」


 3人でビールを一気に無くした。相当坂道で喉が渇いているようだ。


 蕎麦が来たのも一気に食べてしまった。つゆは少々塩味が強く、太めの田舎蕎麦が美味しく感じる。


「ヤマメの塩焼き下さい」


 全員ヤマメを欲しがったので、とりあえず5匹焼いて貰うようにした。タマ五郎さんは天蕎麦の追加をしている。


「どうせ襲撃して来るんなら食堂の近くが良いですよね」


 タマ五郎さんの食欲は中々のものだ。


「オイ人間。終わったのか?」


 カラス天狗が現れた。


「終わったよ」


「もう少しここに居るのか?」


「居るよ」


 カラス天狗が消えて、代わりに天狗さんが来た。


「ヤマメか。美味そうだな」


 追加でヤマメとビールを注文した。


「何人来た?」


「50人くらい」


「手伝えなくて悪かった。嫁さんが大騒ぎしていてな」


「いえ、結構簡単でした」


「そうか」


「知世さんの妖力を見てやって下さいよ」


「相当上がっているな。光球と氷球、水球は使える段階だ」


 知世さんが喜んでいる。


「キツネは妖術を使わんのか?」


「天狗様。私にも使えるので?」


「当たり前だろう。葉っぱを頭に乗せなくとも発動するぞ」


 天狗さんが自分の冗談でウケている。


 蕎麦屋でダラダラしているうちに、大分時間が経ってしまった。


「宿場町まで送るか?」


 皆で大喜びだった。知世さんが銅貨類減らしをすると宿場町まで飛んだ。

 中々大きな宿場町だ。谷川を渡った場所に有り谷川には沈下橋が付いている。


 食事の美味しい宿を聞き出し部屋と風呂を頼み、食堂でダラダラの続きを始める。


「キジが手に入りました」


 店の人が言いに来たので、すぐに貰った。料理を任すと早速調理を始めている。

 俺はビールと、ほうれん草か何かの白和えでキジを待っている。

 殺伐としているけど、楽しい旅だなと思った。


 キジの塩焼きはとても美味しく、全員でそれなりに満足出来る大きさも有った。


「また、賭場に行くよ」


 天狗さんはすっかり賭場荒らしが趣味になってしまっている。

 我々は部屋に上がって、少し休む事にした。浴衣に着替えて楽になって寝込んでいると、分家さんの財布を思い出した。


 俺が財布の中身を出して分類していると、一眼姫が妖術で簡単に分類してくれた。


 金貨が79枚、大銀貨が42枚、銀貨が93枚、大量の銅貨類が出て来た。

 また皮袋に分類してから天狗皮袋にしまった。

 知世さんが一眼姫と銅貨類を分類している。 知世さんが両手で抱える程有り、天狗皮袋に入ってないと重さで持てない状態だった。

 知世さんの銅貨支払いは当分続きそうだ。


「お金をいじっていて嫌になって来るなんて、少し前まで考えられませんです」


 知世さんが、ため息混じりで言うと風呂を沸かして貰いに帳場に行った。




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