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第1章13話

第1章13話


「御屋形様、こんな立派な着物を……宜しいのでしょうか?」


 タマ五郎さんが知世さんに3着くらい買って貰ったらしい。まだ着替えて無いけど風呂敷包みを抱えて感動しているようだ。


「タマ五郎、お前には今風呂を沸かして貰っている。先ずは体を綺麗にしてから着替えて。新しい着物まで汚れてしまう」


 知世さんにキツイ事を言われている。まあ、何日も野宿していたので少々臭いのは確かだけど。


「タマ五郎さんは武器を使えるの?」


「狩りで弓を少々使います」


「狩りに行くんだ」


「鳥とか、ウサギ、たまには鹿程度なら」


 帳場に居たと言うのに狩りなんだ。


「風呂の前に弓を買ってあげるよ。自分を守れないとね」


 宿の風呂は半時くらいで湧くようだから、丁度良いだろう。

 飲み続けている天狗さんと、また食べ始めた一眼姫とピョコリ瓢箪を置いて武器屋に行った。


 武器屋は宿の少し先に有った。


「いらっしゃいませ」


「弓と矢と矢入れを探している」


「御武家様がお使いですか?」


「いや、この男だ」


 店の主人とタマ五郎さんが相談している。新品あまり良い武器は置いてない。


「店の裏で試し撃ちをするそうです」


 知世さんが俺を呼びに来た。店の裏に射的場が有った。

 タマ五郎さんが中古の弓を3張くらい試すようだ。新品の時は良い弓だったみたいで妖力も有るみたいだ。一通り使って悩んでいる。値段はどれも同じ位。

 的には結構当たっている。それなりに上手なようだ。


「良い弦を張ると変わるよ試してごらん」


 主人が売り上げになったので喜んでタマ五郎さんが選んだ弓に張っている。


「御屋形様、申し訳有りません」


「気にしないで」


 張り直すと良い音を立てて矢が飛んで行った。見事に的に当たる。


「これで宜しいです!」


「じゃ、この弓と予備の弦を、矢入れと矢を一締め。良い矢にしてあげて」


 店主が大喜びで用意している。


「田舎だけあって中古の弓で、矢は再生ですから中銅貨と銅貨で買えました」


 銅貨類が減ると知世さんがゴキゲンになる。まあ、一抱えの銅貨類を無くすのが大変なのは今回で良く分かった。

 一眼姫が弓を再生して新品にしている。とても立派な弓になった。

 タマ五郎さんが弓を引いて試している。


「弓を引いた感じが全然違います!」


 凄く喜んでいる。


 宿に戻ってタマ五郎さんを風呂に入れ、知世さんの特訓をする事にした。

 宿の裏に空き地が有ったので使わせて貰う。


「知世さんにこの槍をあげる」


「こんな立派な槍ですか?」


「普段は天狗皮袋に入れておけば邪魔にならないから」


「はい……」


「昨夜移動数珠をあげたよね」


「はい!」


「知世さんは、槍と移動数珠で攻撃するから」


「はい」


「知世さんは敵から必ず離れて。はぐれている奴の後ろから移動数珠で近付き槍攻撃して、移動数珠で離れている所に戻る。これだけ」


「ハイ!」


 生えている雑木を標的に練習すると、形になって来た。


「しつこく追って来たら?」


「移動数珠で逃げ続ければ良いよ。相手がバテるだけだと思う」



 宿の食堂で天狗さんと一眼姫とピョコリ瓢箪に会うと天狗さんは飲み続けているし一眼姫とピョコリ瓢箪は食べ続けていたらしい


「もう部屋使っても良いって」


「知世さんもビール飲みません? 喉渇きました」


「頂きます」


 知世さんも槍の練習で喉が渇いたようだ。


「お姉ーさーん。ビール2つとエビのかき揚げ」


「はーい」


 お姉さんが返事をしてビールを持って来た。


「旦那様、晩御飯前にお風呂を使います?」


「入っちゃいましょうか」


「帳場に言って来ます」


 知世さんが番頭さんと話しを付けて帰って来た。


「家族風呂が大きめなので半時以上掛かりますとの事でした」


 ビールとかき揚げで飲みながら、知世さんの話しを聞く。


「私が6感持ちなので、婆様が騒いだので父と開拓に行ったのですが思うように開拓が進まなく追加の開拓民を家宰に依頼したのです。

 ところが中々応援が来なくて父が身体を壊してしまいました。タマ五郎に聞くと分家と家宰が組んで応援を送らなかったらしいのです。

 そうこうする内に父は衰弱し開拓民は妖獣に食われたりして、最後には父が死に私だけ残っていたのです」


 それで俺に会う訳ね


「私、あいつ等を絶対許しません!」


「そりゃそうだよね」


「旦那様、お願いですから成敗して下さい!」


「分かった。任せて」


 天狗さんが賭場に行くと出て行った。今日もズルして勝って来るのだろうけど。また陰陽師に狙われなければ良いのだけど。

 一眼姫やピョコリ瓢箪なんか狙われると危ないなと思う。


「旦那様、お風呂が湧いたようです」


 二階の部屋に案内して貰い、浴衣に着替えて知世さんと風呂に行った。知世さんは今日も自分で洗濯をする気らしい。

 身体を洗って貰い、広い湯船で浮いていると知世さんは洗濯をしている。


「数日で全く違った生活ですね」


 知世さんの言う通りだ。


「旦那様が居なかったら死んでいるのに、信じられない生活です」


「そいつ等を成敗すれば元通りですよ」


「父が死にましたが、遥かに良い生活です。河瀬の家は格式だけ良くて凄い貧乏でしたから」


 確かに、この数日で何千金貨も稼いでいる。日本では俺もお金には無縁だった。


 知世さんが洗濯を終え湯船に来たので、しっかりとする事はさせて貰った。本当に良い生活だと思う。


 部屋に戻ると配膳が終わっていて、タマ五郎が待っていた。汚れが無いととても綺麗な毛並みのキツネさんだ。


「こんなに高価な着物は初めてです」


 着流しの番頭さんみたいなキツネさんだった。中々似合う。


「食べましょう」


 明日の襲撃される予定を聞いて、大体の計画を立てる。


「私も弓で参加します!」


「安全な場所で知世さんを守って下さい。片付けは俺がしますから」


 タマ五郎さんは明日に向かって、お櫃のお代わりまでしていた。


 窓にカラス天狗が来て騒ぎ出した。


「オイ人間! 天狗様を助けろ」


「また陰陽師か?」


「そうだ!」


 浴衣のまま、刀を持って窓に行く。外に天狗さんの姿も陰陽師も見えない。


「何処に居る? 今透明になるから連れて行けよ」


 カラス天狗が妖術で俺を飛ばした。

 村はずれの人気の無い所で、天狗さんが追い詰められていた。透明数珠のおかげで気が付いてない。

 1人めの陰陽師を後ろから切り倒して、驚いている次の陰陽師に氷球を叩き込んで、アッサリ終わってしまった。

 力がドンドン流れ込んで来る。


「哲司、毎日済まんな」


 天狗さんが財布と腕輪の数珠を回収して、天狗皮袋に入れてくれた。


「賭場に殴り込んで来て妖術封じを掛けられて危なかった」


「凄い逃げ脚ですね」


「嫁に追われて慣れているからなぁ」


「じゃ賭場にお金の回収に行きます?」


「見に行ってみる?」


 庭みたいな所に着くと30歳くらいの女が裸で木からぶら下がっている。


「壺振りだ。俺にボロ負けしたからなぁ」


 先日山賊の所で助けた女だった。会う時は何時も裸の人だ。この人と比べると知世さんは美しいなぁと思う。


「俺は金を回収して来るわ」


 天狗さんが消えて騒がしくなったので、女の縄を切って助けてやった。


「消えな。俺はこれ以上関わらないよ」


 女は裸で走って行った。相変わらず礼は言わない。

 天狗さんにいきなり移動させられると宿の部屋だった。


 天狗さんは銭箱を丸ごと抱えている。


「まるで賭場荒らしじゃない」


「いいのよ。これ分け前な」


「金貨1包みと銅貨類全部置いて、何処かに飛んで行った」


 陰陽師の財布には金貨16枚、大銀貨9枚と銀貨23枚、銅貨類多数。天狗さんがくれた分け前の金貨が20枚、銅貨類が1山有った。

 知世さんが頭を下げている。せっかく大分無くしたのに、また銅貨類の山が来たのだから理解出来る。

 数珠は《呪い除け》と《妖力増加》だった。


 また一生懸命に浄化して、両方とも知世さんにあげた。

 銅貨類のガッカリが消し飛ぶ程、喜んでくれた。



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