第1章12話
第1章12話
朝、起きると雨だった。
「オハヨー御座います。旦那様」
「結構派手に降っているんですね」
「はい、1日中雨かも知れません」
「何時くらいかな」
「巳の刻辺りでしょうか」
10時くらいかな。すげー寝坊したようだ。昨夜は刺身が美味いので飲み過ぎたようだ。
「皆、朝ご飯は食べたの」
「はい」
「良かった」
洗面所に行って顔を洗い歯を磨く。ついでに浄化してサッパリ。
部屋で練習着に着替えると昨日の大福餅が置いてあった。
「大福餅、誰か食べる?」
一眼姫が妖術で柔らかくして3人で分けていた。朝飯もマズかったようだ。
天狗さんが窓から現れた。
「今日、どうする?」
「雨で動けませんよ」
「これ3日くらい降ると思うぞ」
「ウェー」
「川端村まで送ってやろうか? 今日、賭場が立つんだ」
「「「「お願いします」」」」
知世さんが清算して、移動すると川端村の門だった。
関所札を見せて門を抜けると、思ったより大きな村だった。
「町と言っても良いくらいですね」
「最初に何をしましょうか?」
知世さんは村の小物達にオニギリを配っている。
「天狗さん、賭場は何時くらいから?」
「未を超えないとな。田舎だし」
「どこの宿が美味しいか調べましょう」
知世さんが懲りたようだ。近所の人に聞いて歩くと村の真ん中辺に有る大きな宿が美味しいらしい。
皆でタラタラ歩いていると、誰が通りで座り込んでいる。
「大丈夫です?」
顔を上げた人はキツネ耳のハンサムな20歳くらいの人だった。
「タマ五郎?」
知世さんの知り合い?
「お嬢様ー、探しておりました」
「ここで何をしているの?」
「お嬢様を探しに旅に出ましたが、盗賊に襲われ無一文になりました」
「皆で御飯でも食べようよ」
俺の提案でタマ五郎さんと話しながら御飯にする事になった。タマ五郎さんは2日間食べて無いそうだ。
「タマ五郎さんはキツネ族」
「はい」
改めて見ると身長160センチくらいの痩せ型で薄汚れているけど金色に近い毛並みをしている。
お勧めの宿の食堂でとりあえず全員が天丼を食べる事になった。タマ五郎さんが泣いていて会話になっていない。
俺と天狗さんは昨夜の店の話しをしていると、天丼とビールが来た。
天丼の天ぷらだけ摘まんでビールを飲むと、とても美味しかった。
他の4人は天丼に集中している。
「タマ五郎さん、次に何を頼むか考えておきなよ」
「親子丼を……」
「お姉ーさん、親子丼」
お姉さんがニッコリと頷いた。
俺も御飯も食べて飲んでいると、親子丼が来た。
「ビールの追加を2つと茄子の煮浸しね」
「俺は天ぷらだけ」
「天狗さん、胃に悪いよ」
「大丈夫だって」
「タマ五郎さん、次は?」
「塩シャケ定食で……」
「お姉ーさん、塩シャケ定食」
お姉さんが笑っている。
天ぷらが来た。
「お姉さん、お勧めは?」
「今日はマグロの山かけですね」
「じゃそれ」
全員手を上げている。
「6人前」
「はい」
塩シャケ定食を食べ終えビールで流し込んで、やっとタマ五郎さんが話し始めた。
「実はお嬢様、刺客が婿殿とお嬢様に放たれてます」
「何ですって」
知世さんがムッとしている。
「お嬢様が婿取りをして本家に復活が決まったので、分家が慌てて動いているのです」
「相当誤魔化しているの」
「誤魔化すどこか、本家の家具まで持ち出して言い訳出来ない状態なんです」
「相変わらず良くやるわね」
「そこで短絡的に考え付いたのが、お嬢様と婿殿を旅先で殺せば問題無いと言う事になり3組の刺客が出されております」
「フーン」
「お嬢様にお伝えしようと水郷境を出たのですが、情けないのですが……」
「で、何処で?」
タマ五郎さんが俺を見ている。
「タマ五郎、こちらが私の旦那様で河瀬哲司様よ」
「これは気が付きませんで。代々本家に勤めております。私はタマ五郎と申します」
「宜しくね」
「こちらこそ」
「お姉ーさん、ビール3杯追加」
「はーい」
お姉さんがビールとヤマカケを持って来た。
「私もビール下さい」
知世さんが少し怒っている。
「茄子の煮浸しは美味しいですか?」
「とても美味しいですよ」
「お姉さん、私も煮浸し」
「承知しました」
「で、タマ五郎。何処で待ち伏せているのです」
「この村を出てからと次の宿場町の出た所。最後が水郷境の門の少し前と聞いてます」
「盗賊に見せ掛けたいのかな」
「村や宿場町だとすぐに役人に捕まりますし」
「お嬢様、この場はとにかく逃げて頂いて」
「何人くらい?」
「1回の刺客で50人くらいは居るとの事です」
「そんなモンか」
「ご、50人ですよ!」
「有象無象の50人くらいは旦那様の敵では有りません!」
「……ハア」
タマ五郎さんがポカンとしている。
「旦那様は樫の国の兵士50人を1人で切った方です! 水郷境の田舎侍の50人や100人簡単です!」
俺100人は嫌だと思う。凄い疲れるのよ。知世さん。
「樫の国の兵士50人を1人で……」
大袈裟だって。俺がやったのは40人切っていたと思う。それも半分以上は妖術で倒している。刀の腕は上がって無いけど妖術の能力が上がって妖力も増えているので、怖くは無い。
「知世さん、また後で話せるよ。宿の部屋、我々のとタマ五郎さんのを。我々は家族風呂でタマ五郎さんには宿のお勧めを聞いて。
それが終わったら着物の代えを2~3着タマ五郎さんに」
「旦那様、有り難う御座います」
知世さんが可愛そうな程、情けない顔をしている。
皆が帳場に行ったので、俺と天狗さんで飲み続けた。
「直接水郷境に送ろうか?」
「後で150人来られても困りますから、50人ずつ片付けますよ」
「それもそうだな」
「天狗さんは何を使って死体の処理してます?」
「消滅が一般的だよ。哲司も持っているぞ」
「本当に!」
「本当。それも結構高い能力で有るな」
「昨日切った誰かが持っていたのかな?」
「そうかもな。傀儡と依怙が凄く高いな。有名な女たらしになれるぞ」
「嫌ですよ、傀儡と依怙はどう使うのです?」
「傀儡は指示してさせるのよ、依怙は本人思い込ませてさせるの」
「なるほど」
「全般的に程度が高いな。除霊とか解毒なんかも増えている。透視も有る。陰陽師からかな?」
いちいち一眼姫や天狗さんに聞かなくても分かるようになりたいな」
希望ばかり増えて行くのであります。




