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第1章11話

第1章11話


 宿に行くと番頭さんも揉め事を見ていたらしく、対応が丁寧になっていた。


「御武家様、夕御飯は酉の刻辺りを予定しております」


「できたら部屋に運んで下さい」


「かしこまりました。お風呂はその後で?」


「そうします」


 我々は2階の部屋に入って楽にした。


「哲司よ、先程はありがとう」


 一眼姫が礼を言って来た。ピョコリ瓢箪も頭を下げている。


「本当に妖術封じがされていたの」


「されておった」


「あいつ等、相当妖力が有るんだね」


 一眼姫が頷いている。


「旦那様の口上が素敵でした。嬉しかったです。河瀬家は貧乏ですけど格式だけは異常に高いですから」


 知世さんが旅道具などを片付けて、浴衣を持って俺に話し掛ける。


「全部脱いでください。これから洗いますから」


 俺は全部脱いで浴衣に着替えると、知世さんが階下に向かった。刀をお金の皮袋に入れてから懐にしまい、階下にビールを飲みに行った。


「ビールと人参の白和え」


 この世界のビールはアルコールが少ないらしく、とても飲み易い。水代わりになっている。

 白和えがとても美味しい。


 知世さんが洗濯物を干して降りて来た。


「知世さんもビール、飲みません?」


「頂きます」


 人間とは勝手なものだ。知世さんも居るし日本では望め無い能力を手に入れると帰る気がしない。


 食事時間になったので、部屋に帰ると既に配膳がしてあった。一眼姫とピョコリ瓢箪がお膳の前に座って待っている。


「「「「いただきます」」」」


 期待した程の味では無かった。川魚中心の惣菜は薄味で醤油をかけると醤油だけの味になってしまう。

 適当に食べて諦める事にした。知世さんと一眼姫もガッカリしているが、ピョコリ瓢箪だけは一生懸命食べている。


「見た目だけは美味しそうだったのですけど」


「田舎だし仕方無いですよ」


 知世さんが、お櫃の御飯でオニギリを作っている。一眼姫が何処からか笹の葉を調達して来て知世さんに渡していた。

 ピョコリ瓢箪は全員の分の惣菜を食べて満足そうだった。


「御武家様、膳を下げて宜しいでしょうか?」


「構いませんよ」


「お風呂は一階の突き当たりに御座います」


「有り難う」


 俺と知世さんは2人でイソイソと風呂に向かった。


 《河瀬様》と札の有る風呂に入ると、石造りの結構な広さの風呂だった。


「光りを」


 脱衣場と風呂場を明るくして、洗い場で知世さんに洗ってもらった。その間に自分で頭を洗う。


「旦那様は毎日頭を洗うのですか?」


「当たり前です」


 俺が知世さんの背中さん流して風呂に入る。丁度良い湯加減だった。知世さんも温まり出ようとしたので湯に沈めてあげた。


「さあ、頭を洗いましょう」


 洗い場で石鹸を付けてゴシゴシ洗っていると、黒い汁が出て来る。長い間洗って無いようだ。昔の日本人も女性はたまにしか洗わなかったという。

 綺麗になるのに2度洗った。


「湯を」


 妖術で湯を出して、しっかり流しておしまい。最後の方では知世さんも自分で湯を出して流していた。


「簡単に洗えるものですね」


 妖術に感謝なのであります。

 水分を手縫いで取ってから乾燥させる。


「温風」


 俺の右手から温風が出て、知世さんの髪を乾かしてゆく。知世さんも何回か失敗して温風を出せるようになった。


「残りは部屋でしましょう」


 2人でもう一度湯船で温まり、ついでに……あんな事とか、こんな事をやってから風呂場を出た。

 良い日だった!


 部屋に帰ると布団がひいてあった。知世さんは髪の乾燥の残りを始めると、一眼姫が手伝っている。


「さっき買った椿油を、軽く濡れているうちに使うと行き渡りますよ」


 知世さんが椿油を使っている。


「本当に馴染みますね。旦那様凄いです」


 宿場町は静かになり向かいの役人詰め所も人気が無くなった頃、窓から天狗さんが飛び込んで来た。


「済まんな、妖怪退治の陰陽師に追われていてな」


「2人組みの?」


「そうだ」


 窓から見ると、確かに2人の陰陽師が通りの向こうで何か相談している。


「片付けましょうか?」


「頼めるか?」


「財布と妖術道具の回収とあいつ等の始末頼めます?」


「任せろ」


 俺は2人の正面辺りに狙いを付け刀に妖力を通す。


「移動」


 見事に2人の正面に出現出来た。

 驚いている陰陽師の1人めの眉間を割り、2人めは胴を切り付けた。

 2人から凄い勢いで力が俺に吸収されて流れて来る。

 上手く奇襲して返り血も浴びて無い。満点の出来だった。


 天狗さんが現れ、俺に財布の皮袋2つと腕輪を3個渡して陰陽師の残骸を消した。


「済まんかったな。だが哲司も《術封じ》が十分使える段階になったぞ」


 術封じが使えるのは嬉しかった。野良陰陽師狩りは美味しい。

 さっさと部屋に帰り腕輪を調べてもらう。


「この透明な数珠が透明の数珠だ。付けて《透明》と唱えると見えなくなる。《透明解除》で戻る。気配は消えない。だがこの緑色の数珠を付けると気配が消える。唱える必要は無い。もう一つは移動だお前のと同じだろう」


 俺は3本を丁寧に浄化して《透明》と《気配消し》を装着した。透明をひ左手に気配消しを右手に付けた。もう一本の移動は知世さんにあげた。

 部屋の中で移動して凄く喜んでいる。


 財布の中は意外に入っていた。

 金貨28枚、大銀貨13枚と銀貨36枚、銅貨類多数だった。

 種類別にしまって天狗皮袋に入れた。知世さんが、また一眼姫に分類してもらっている。


「バタバタしたら喉が渇いたけど、どこも開いてないな」


「良い所がある。行くか?」


「知世さんは」


「留守番します」


 天狗さんと軽く飲みに行く事になった。


 着いた所は凄く華やかな通りで、遅くなのに人通りも多かった。

 海鮮の店に入ってビールと刺身の盛り合わせを注文した。


「ここ何処です?」


「笹美城よ」


 首都に俺も飛翔枝で来れるようになった。


「刺身が凄く美味いです!」


「だろう」


 今度知世さんを連れて、ここに来ようと決心した。



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