第8章02話
第8章02話
「なんかサンリン町は暫くは行き辛いですね」
「我々は有名に鳴り過ぎましたよね」
善姫さんと依能さんがボヤイている。
「私はまだ町民なのに名誉町民貰ってもね」
ブリュネちゃんは白けている。
「暫くは正門から入らないようにしよう」
「行かないとリブズさんが泣きますよ」
善姫さんに怒られてしまった。
「御屋形様。この屋敷の土地が沢山余っているので、全部森林にしてしまって良いですか?」
林弧ちゃんが聞いて来た。
「構わないよ。農業する気は無いもの」
「凄く空気が良くなりますよ」
依能さんもやる気らしい。
「嬉しいな。あの森林の香りは大好きです」
舞花さんが喜んでいる。確かに善姫さんや舞花さんみたいに体調が戻ってない人達には最適だと思う。
「なら大木だらけの森林で屋敷と別宅を囲みましょう」
「そうだな。それで行こう」
依能さんと林弧ちゃんでプランを立てている。2人が何か唱えていると、敷地内の木が成長を始めた。
木がメキメキと音を立て目に見えて大きくなっているのが分かる。
『流石に豊饒の精霊と神の使いが揃っていると不思議な術を使うな』
『水美にはできない?』
『似て非なるものならな。あんな速度で成長は無理だ』
「こんなに早く出来るの」
「今は、既に生えている木を成長させているだけなので簡単なんです。畑部分に行くと挿し木とか考えないと」
「面倒だから庭の木を複製して移動しましょうよ」
林弧ちゃんの提案を依能さんが受け入れたようだ。
「他所から持って来ると、病気なんかを持ち込み可能性が有るんです」
依能さんと林弧ちゃんに難しい所は任せて、皆で運ぶ手伝いをする事になった。
「ブリュネちゃん、サネリちゃんの所の大きな鳥の丸焼き3羽頼んで」
「お昼用ですよね。すぐ頼んで来ます」
ブリュネちゃんがスッと消えた。
エサをぶら下げると働くスピードが上がる。
「これを次に」
畑部分に移植する木は母屋の周りと別宅と山の木を混ぜながら移植して行く。5~6メートル四方のブロックが基準となっている。
「屋敷内の木にして良かったね。違う所からなら大変だった」
開墾されたまま放置されていた別宅側の畑を整地し直し、複製した木を依能さんと林弧ちゃんの指導でどんどん置いてゆく。
畑がたちまち森に変わってゆき
「確かにはかどってはいるけど、土地がやたら広いので達成感に欠けますね」
善姫さんが俺の所に来てボヤいている。善姫さんのボヤキは珍しい。
ある程度進んだ所で依能さんと林弧ちゃんが根を生長させて、しっかりと根着かせている。
「途中でヘタレても良いように屋敷側の畑も、同じくらい森にしますよ」
依能さんに言われて単純作業を続けてゆく。
途中でサボって空から見ると森林の入り口から少し先に池と屋敷が2軒あるような感じになって来ている。
ヘタレな妖術師集団に3時間以上の労働は無理だった。
全員途中から木を運ばなくなり、依能さんと林弧ちゃんの手際を眺め出している。
「御屋形様、喉が渇いた」
林弧ちゃんの一言で休み時間となり、母屋のコタツで田楽をつまみにビールとなった。
「丁度、昨日から味を仕込んでいる鳥が有ったので期待出来そうですよ」
今日は午前中で作業は終わりを覚悟させる報告だった。
神様会議が長引いているようで、3日間ヤヤさんと知世さんを取られている。
丁度ニジマスとエビを放して落ち着くのを待っているので、時折誰かが帰って池と湖をチェックして帰って来ると12日くらいの休暇になる。
最近、我が家のお姉さん達は暇さえ有ればサピカ村に居て、《ヤヤさんの御飯時間はしっかり帰って来ているけど》サピカ村の屋敷改造に熱心になっている。
やはり4倍の時間を使えるのは強味なのだ。
結局、田楽とエールの後は昼寝になり、丸焼きを食べに行った。
「今、仕上げ中です。10分待って下さい」
サネリちゃんに言われてエールを飲んで待っていると天狗さんが現れた。
「丸焼きですよ」
「こういう時だけ鼻が利くな」
俺の歓迎に舞花さんが横槍を入れた。最近、舞花さんはしょっちゅうヤヤさんの御飯を食べに来て、サピカ村の屋敷に泊まっている。
天狗の里の御飯は不味いらしく、サピカ村の屋敷に居ると体調が良くなるし仲間が増えて楽しいらしい。
天狗さんが困っている。
女だらけなので天狗さんにはサピカ村の屋敷の別宅を使うよう勧めている。
「神々の会議はまだ続きそうだぞ」
「何をもめているの?」
「光の神の後釜」
俺の関係じゃないなと思う。
「長引くならもう3着くらい買ってあげた方が良いかな?」
「良い手だと思うぞ」
我が家のお姉さん達が笑っている。
「お待ちどおさま」
サネリちゃんとレンギちゃんが巨大な丸焼きを持って来た。
「次のは1時間後でーす」
水美が素早く保存袋に入れている。どうせ全員が同じようにしているのだろうけど。
林弧ちゃんが相変わらず1人で巨大な鳥足にかじり付いている。俺は初めて鳥足を貰ったので善姫さんと半分ずつ食べた。
確かに油が乗って美味しい鳥足で、林弧ちゃんが一生懸命食べるのが分かった。
意外と沢山食べるのが舞花さんで、2羽目の鳥足を1人で食べていた。
食べながら作業の割り振りをしたりしているうちに夕方の4時過ぎになっていた。
「最後に少しだけ仕事をしましょう」
ブリュネちゃんに言われて、全員で重い腰を上げた。
流石にお腹いっぱいで全くはかどらない。ホンのチョット皆でダラダラ働いているうちに暗くなってしまった。
屋敷に入って皆、風呂となった。女性陣が主屋側の風呂、俺と天狗さんが別宅側の風呂に入ることになった。
2階の風呂に入ると庭の池と森が良く見える。
「良い屋敷になったな」
「お陰様で」
「舞花がここに居ると目に見えて体調が戻って来ているのが分かるよ」
「やはり仲間が出来たのが良かったと思います。善姫さんも同じですから」
「そうだな……」
自業自得とは言え、舞花さんがサピカ村に入り浸っていて天狗さんが困っているのが手に取るように分かるのだが、俺には何もしようが無かった。