第8章01話
第8章01話
あれから10日以上神々の会議が水郷城で行われ、光の神は行方不明を理由に無任所の神となり神界を追われたらしい。
今は共犯者の追求と光の神の後釜問題で揉めているようだ。
水神様は会議の場を取り仕切っているので機嫌が良い。
「水神様。精霊達の間では黒幕は豊饒の神が怪しいと言われてます。気を付けて」
「そ、そうなのか?」
「ダラダラと話しに来ている時に余計な情報を与えないで下さいよ」
「そ、それは分かっておる」
また不安の表情に戻っている。
「水神様は現在最大勢力の持ち主です。取り入りたい神や足を引きたい神々とか色々と出て来ますので気を付けて」
水神様はまた不安になって来たようだ。気分転換でもさせた方が良さそうだ。
「水神様、会議用の間に合わせに着物屋で3着くらい古着は如何です? 店主には言ってありますから」
「哲司殿、良いのか!」
「水神様が会議の中心ですから、衣装変えも必要でしょう。宣姫さんも神様ですから一緒に」
「何時も済まない」
水神様と宣姫さんが着物屋に飛んで行った。
屋敷に帰ると珍しく、知世さんと善姫さんが帰っていた。
「神様会議がダラダラしているので家族旅行にも行けないね」
1周年記念の旅は皆が楽しみにしていたのだが。
「そろそろ疲れました」
善姫さんが疲れているようだ。
「水神様と宣姫さんに会議用の着物を勧めておいたけど、2人も要る?」
「私達が目立っても仕方無いですよ」
「必要性を感じませんね」
知世さんも善姫さんも要らないようだ。それに、そろそろ前に注文したのだ出来上がって来る筈だ。
「善姫さんは休みを取るべきです。顔色が悪くなって来てますよ。私は神様にあたらないので大丈夫ですけど」
知世さんが宣姫さんを気遣っている。
「休ませるよ。知世さんから水神様に言って貰える?」
「お任せください」
という訳で善姫さんが神様会議リタイアで、サピカ村の屋敷送りとなった。
サピカ村の屋敷に行くと舞花さんまで含めて全員揃っていた。
神様会議の概要を話して、あの女が今となっては《元光の神》で神界からも追放されたらしい事を伝えておいた。
「木の精霊が変な動きをしないように気を付けないと駄目だよ」
「その心配はありませんので御安心を」
依能さんと舞花さんがニヤニヤしている。
聞いても無駄くさいので納得しておいた。
「サンリン町の町長さんの見舞いに行くので、大型のニジマス3匹とエビを10本くらい調達出来る?」
「お任せください」
林弧ちゃんが出て行った。
「旦那様。私も行きます。奥様とお嬢さんの見舞いがしたいので」
善姫さんは奥さんと仲良しなので気になるのだろう。
他の連中も暇だったらしく、全員でサンリン町に行く事になった。
「何処かの店でエールでも飲んで哲司さん達が帰って来るのを待ちますよ」
依能さんと舞花さんが飲む気満々のようだ。
「何か目的が有るの?」
「トポリ村の人が、あの大型鳥の料理屋を出したらしいので、偵察ですよ」
サネリちゃんからの情報らしい。
林弧ちゃんが縄で上手に括って持って来た。
「見事に大きいね!」
「自信作です! 御屋形様からの土産には最適ですよ」
林弧ちゃんが胸を張っている。
天狗さんも現れて一緒に行くと言うので大所帯で移動となった。
サンリン町の住民ではないので一応、正門から入ろうと行くと門番の警備隊さんが飛んで来た。
「お待ちしておりました。皆様全員で町長宅にお向かい下さい」
「全員?」
「そう言われております」
警備隊隊長さんが現れて我々を強引に町長宅に引っ張って行った。
「御屋形様、天狗様も皆様お呼びたてして申し訳ございません」
町長さんが玄関で丁重に迎えてくれた。善姫さんは出て来た奥さんと娘さんと勝手に話し込んでいるし、町の幹部が続々と集まってきた。
町長さんは家の女性陣に勲章と名誉町民のメダルをかけて歩いている。
俺はバカみたいに、まだ動いているニジマスとエビを両手に持って突っ立ったいた。
『誰か気を利かせて魚とエビをどうにかしてくれないかな』
『諦めろ。雰囲気的に無さそうだ』
『何でいきなり、こんな事を始めるかな』
『あれ以来、来なかった哲司が悪いと思うぞ』
水美の言う通り避けていたのは確かだ。
諦めて立っていると善姫さんが呼ばれ、長々と感謝の言葉が町長さんと奥さんと娘さんから送られて勲章と名誉町民のメダルが送られた。
『真っ先に飛び込んで助けたのは善姫だ。正当に評価されて良かったな』
『俺もそう思う。善姫さんの精神に良い影響が有ると良いな』
ピクピクしているニジマスとエビを持って水美と話していると、町長さんが俺の前に来てから町の幹部の方を向いた。
「町議会の皆さん、河瀬の御屋形様はサンリン町の為に多くの武器を寄付してくれています。 予算不足で買えなかった武器を寄付してくれて『自分達で町を守るしかないと』教えてくれていたのです。
ですが危機感が欠落している我々は形だけの自衛をして慢心していた結果が先日の悲劇を生んでしまいました。
あの日、私の部屋に善姫様が単身飛び込んで来て私と娘を助けてくれ、林弧様が残りを片付けて安全にしてくれました。
御屋形様が入って来て、死んでいると思っていた妻を再生してしまい、『奥さんと娘さんの悲劇は分かるが、町長として今頑張らないと駄目だよ』と言ってくれたのです。
あの言葉が無かったら私は何も出来なかったと思います。
御屋形様が来なかったらサンリン町がどうなっていたのか想像もつきません」
町の幹部と警備隊の拍手と歓声の中、ニジマスとエビを降って応えるしかなかった。
この後ニジマスとエビを持ったままの俺は皆より大きな勲章と名誉町長のメダルを貰ってしまった。
挨拶の一言をさせられたので軽く感謝の挨拶をして、後は水郷境のニジマスとエビの宣伝兼授与式と持って来た武器の寄付式にして何とかごまかした。
『なかなか面白い晒し者だったぞ』
『俺の世界でも白人系の文化では名誉は派手に与えてた。文化の差だよ』
我々が全員苦笑いしているうちにパーティーとなった。