第8話 地下鉄のハジ
第8話 地下鉄のハジ
浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような
小さな街、名古屋の大須。
どこか浅草の下町を思わせる情緒豊かな街の、地下十数メートル
下には冬でも熱気むんむんの地下鉄が、網の目の様に張り巡らされ
ている。
実はその地下鉄の、更に地下数十メートル真下に、日本の主要都市
並びに各国の主要都市から、停車駅のひとつであるこの大須に向けて
超大型の線路が敷かれている。
鉄道マニアが見たら泣いて喜びそうな、黒い巨大ロボットでも運べ
そうな一両六十メートル級の超大型貨物列車を初め、時速千キロの
海底超特急等、各国の財力を持った大物達が資金を出し合って開発し、
自分達の都合がいいように運用している秘密の私設サブウェイだ。
最近の石油の値上りも産油国の富豪達が敷設費用の足しにしてる
かららしい。
そんな訳アリの地下鉄がつながる大型イベント地下会場〈大須
ビッグサイト(※本家東京ビッグサイトの十倍の広さ!!)〉がリーナ
お嬢様の自宅マンションの最深部にある。
そこへ僕とリーナお嬢様はエレベーターで到着した。幼い頃、
何かイベントがあるごとに、奥様や旦那様にここへ連れて来ら
れたお嬢様は、この会場にはいい思い出があり、わくわくニコ
ニコしている。
可愛い女の子の笑顔っていうのは見てて救われるよね。
会場につながる大きな通路は各界の大物でごった返している。
「やあ、Tさん、メ○セデスのマイバッハに対抗して販売した
新車の大型リムジン〈グリフォン〉も凄いですが、今日のイベ
ント展示用にひっぱってきた三十メートルもある、あの二足
歩行の試作人型土木機械凄いですなあ。
陸・海・空 三タイプを用意、カラーも黒・白・赤と揃って
でどんな現場にも対応とは!
うちの新開発のプラズマレーザーとか取り付けたら大型廃棄
建造物破壊用だけじゃなく、軍用にもすぐ転用できますなあ」
「キ○○ンスさん怖いこと言わんでくださいよ(笑) しかし
イベント用二足歩行ロボで、自分たちが先を行ってると
思ってた〈あの〉会社もきっと腰をぬかすと思うとり
ます。ハッハッハ!!」
威勢のいいドラ声で、世間話があちこちでかわされて
いる。
通路を五分ほど歩くと僕たちは会場の入口についた。
会場で僕たちを待ち受けていたのは、なんと……
その道の通が涎を流して欲しがる世界中の珍品・
奇品が大は航空機や車を初め、小は飲み物や食品、
漫画等、ジャンルを一切問わず大量に勢揃いして
いた。
しかもここに並ぶ珍品・奇品は入手方法も不明な正真
正銘、人を選ぶ曰くつきのあるはずない品物ばかり。
当然目が肥えに肥えた鑑定人達の審査を通過した どれも
なぜか〈本物〉。
探し屋の本能を刺激され、早速お嬢様があちこちを
フラフラし始めた。
「ふあぁぁ~~っ、 ピニンファリーナ ミトスぅ~~!!」
「ひぃぃ~~ん、ブラフ シューペリア!!」
「うわわぁぁ~~っ、マセラッティ ブーメラン~~!!」
「うはぁぁ~~っ、スバル アマデウス~~!!」
「ひよぇぇ~~っ、凄いーっ日野サムライ~~!!」
「なぁぁ~~っ、事故で全損したランボルギーニ
イオタの錆びた残骸~~!!」
「おっきぃぃ~~っ、火災事故で爆発したはずのヒンデン
ブルグ号や大和(←(注)本物(爆笑))が何故かここに~~っ!!」
「あはぁぁ~~っ、鶴田 謙二さんの『The Spirit of Wonder』
の初版本が山積みに~~!!」
「やぁ~~ん、試食のコーナーでインスタントラーメンの
〈たまごめん〉に〈お茶づけラーメン〉見っけ~~!!
あっ、チョコぺーやテレパッチ、アイスクリームの
〈宝石箱〉、ジャフィービスケットまであるーっ!! 」
「わ~~っ、お、お嬢様 数十年前に賞味期限すぎたもの
試食で食べようとしないでくださいっ!!」 こんな珍品が
判るリーナお嬢様も普通じゃないけど、この会場に集まった
人達も同類なので普通じゃない。(笑)
大はしゃぎだったお嬢様だけど、人混みに見覚えの
あるオレンジ色のケースを見つけて突然、表情を曇らせた。
「あ……あれは!!」
そう、それはリーナお嬢様と僕が探しだし、つい先日
依頼人に渡したはずのクリーンな超小型原爆〈ポパイ・ザ・
セーラマン〉だった。そしてそのケースを抱きかかえた人物
はなんと旦那様。
がっしりしていて背が高く、知的だけどギョロっとした
目つきに、長く伸ばしたアゴ髭、山賊みたいな人相だ。
久しぶりにお会いしたけど、悪人っぽさにいちだんと磨きが
かかっている。
「な……、どういうこと?! なんであんたが持ってるのよ、
それ?!」
「ふふっ、待っていたぞリーナ。どうだ、凄いイベント
だろう?」
「確かにもの凄いけど、このイベント、曰く付きの物ばかり
並びすぎ!! 変よ!」
「ここにある物は世界中の探し屋が探し出し、依頼人に届けた
ものの、様々な事情で依頼人が手放したものばかりだ。
言ってみればこのイベントはそんな物の展示即売会だな。
世界的に有名なアルセーヌルパンの三代目とかいう日本の
コソドロもよくここに盗品売りにくるぜ(笑)
この〈ポパイ〉はおまえの依頼人が手に入れたものの、
処分が難しくて怖くなり二束三文でブローカーの俺に売り
渡したもんだ」
「それをどうする気?!」
「無論、製造元に高値で買ってもらう。そしていずれ反対
勢力がその情報を嗅ぎつけてお前のような探し屋を送りこみ
奪ってくる……
そいつをまた反対勢力から、うまく俺が頂戴して製造元に
売る。いやぁ、なんと素晴らしいループ♪ いい商売だァ」
「この死の商人が!!」
「まあ、商売なんてもんは飯を喰っていくために「儲け」を
必ずどこかから盗らなきゃならん宿命がある以上、それに関わる
奴ぁ大なり小なり歪んじまうもんさね。
この場所にあるモノは持ち主が手放してしまった物ばかり。
買ってから、なにか問題が起きたところでそれは買い手の責任。
探し屋やブローカーが口は出せんよ。それより開き直って
この状況を楽しんだらどうだ?」
「そんな話聞いた後で楽しめるかっ!!」
「ウフフ、相変わらず潔癖症な娘だな。まあいい。俺は早いとこ
ポパイを売りさばいて、その足でハリウッドのオーディションに
向かわにゃならんので、これで失敬する。そんじゃまたな!!」
「もう帰ってくるなぁっ!!」
お嬢様はさっき握りしめてヒビが入ったスマホを旦那様に投げ
つけたけどうまくかわされ、スマホは壁に当たり無惨に飛び散った。
ムスっとした顔で、あたりの散策を再開したお嬢様を元気のいい
しわがれ声が呼び止めた。
「よぉっ、リーナ、久しぶりアル!」
「あっ、チンさん!!」
お決まりの怪しい中国人を思わせる日本語で挨拶してきた、
白いチョビ髭に老眼鏡のお爺さんは陳・源斉(チン・ゲン
サイ)さん。大須商店街で書店をやっているお嬢様の昔からの
知り合いだ。
「今、おまえの親父さんから面白い本を一冊委託されたネ」
「えっ、そ、それって……!!」
それは『月光花』と銘打たれた この世にあるはずのない
リーナお嬢様の写真集だった。
第9話 再会 お母さまっ!!につづく
今回はいろいろと元ネタがわかるほど
危険で楽しいパロディ満載のお話です(笑)