第五話 星の準則 その3
五年前の星の準則のエピソード、ついに完結!!
「私、五十億年近くこの星をいろんなルール決めて指揮してきたんだけど、
頭が古くなってきたっていうか、いい加減ワンパターンになってきたなって、
最近反省してるのよね。なんか物忘れも激しくなってきてるし。
重力加速度も九・八Gのままで変えてないし、摩擦係数も手ぇつけてないし、
大氷河期も最近してないしさ。
ハルロー君も「最近の地球ってちょっちワンパー」とか思わない!?」
「いっ、いえいえ!!、トンデモありやせん!! アスタ様は今まで善政を
しいておられですっ!! それを変えて欲しいだなんて、滅相もございや
せんぜ旦那っ!!」
急に下手に出て、手をこすりながらかしこまる僕。
アスタさんに現状維持してもらえるのなら、後世の人に情けない、かっこ悪いと
笑われようが地球人代表として、この際、土下座でもなんでもするね。僕は(笑)
「正直、少し歳とったというか、判断力の衰えを酷く感じる今日この頃なん
だけどさ、そんな悩みを抱えつつ、人間の世界を眺めてたらチビっ子のくせに、
私みたいに物事達観してて元気一杯に世界中飛び回って、面白いことしてる
女の子がいるじゃない」
ハタから見れば面白いことやってるように見えるんだろうけど、一緒にいると
なかなか大変なんですよ。ホント。
「真紀ちゃん使いに出してもえらくいい反応してるし、オツムの方もすんごく
キレるし。私の後継指揮者はもう決まり!! この娘っきゃないって感じで気に
いっちゃったわけよ。報酬はリーナちゃんの思うがまま、熱烈歓迎!!
積極的になってほしいのよ。どうよ!?」
困った地球様だ。まだまだ引退してもらっては凄く困るんですけど。
「うーん、念のために聞きますがお嬢様、アスタさんの後継者になりますか?!」
「絶~~対嫌!!」
「ですよねーー」
「後継者になってくれなきゃ困るぅ~~~~っ」
虹色に変化する液状ガラスの中でアスタさんは小さな身体を振ってイヤイヤを
している。
「そんなこと言われても、僕たちも困ります」
「この星背負ってる責任あるんだから私困る~~~~っ!!」
「リーナお嬢様を護る責任があるので僕も困ります!!」
「困るぅ~~っ!!」
「困ります!!」
「困るぅぅ~~~~っ!!」
「困りますっ!!」
どちらも一歩も譲れないので会話は堂々巡り、話をつけるのに長引きそうだ。
「リーナさん、ちょっとお話が。主とハルローさんが交渉中なのでこちらへ」
液状ガラスの中をスィッと泳いで三メートルほど僕から離れる十六夜さん。
五、六歩歩いてそれにつきあうお嬢様。
「くどくなりますがリーナさん、主の後継者の件、本当にお考え頂けませんか!?」
「深刻な顔したってヤダ!! そんなに引き継ぎやらせたいんなら、私を洗脳でも
して好きに操れば!? あんた達なら簡単でしょ、あのバカコック達みたいにさ!!」
お嬢様はプィッと横を向いてしまった。
「自分の意志で物事を考えて、積極的に舵取りをしてもらわないと意味が
ありません。なにせこの広大な地球の舵取りをして頂くんですから」
「じゃあ真紀さん、あんたがやれば?」
「わ……私には主のように最上の決断を下せる力量がありません。それに
現在、主が背負っているような重責にも耐えられません。主にベストの
サポートを尽くすのが精一杯です」
「あんたで無理なら私にできっこないよ、今月十一になったばっかだよ私!!」
「いいえ。主には後継者になる方の潜在能力が判ります。今は未熟でもあなたは
必ず星の準則に従い、この星を護っていける女の子です」
「買いかぶり過ぎよ……それで、もし私が本気で後継者にならなかったらさ、
この星どうなる?」
「今、探査機をNASAを初めとして様々な組織が宇宙に向けて飛ばしてますよね。
本来、主が正常な状態なら準則破りの、この事態を見過ごすわけがありません。
有機生命体と違い、巨大な無機生命体の主は遙かに長寿ですが、それでも五十億年
も生き続ければゆっくり衰えは出てきます。
星の保有する元素―― この場合は探査機自身なんですが、それをこの星から
遠く引き離したということは微々たる量とはいえ、地球全体のパワーバランスを
崩してしまったわけです。ダメージ的には、主の脳神経をちよっぴりむしりとり、
遠くへ投げ捨ててしまった感じでしょうか」
「つまり歳とって、そろそろボケが始まりだしたけど、まだ身体はピンシャン
してるお婆ちゃんの脳みそに、NASAとかホリエモンとかイーロンが手ぇ
突っ込んで、脳神経無理矢理引きずり出して捨てちゃったからイッキに痴呆症
まっしぐらってこと?」
お嬢様のたとえの悪さに苦笑いの十六夜さん。
「痴呆症がどんどん進行していけばやがて脳死になり、それに伴い、脳の制御を
失った身体も死に向かうでしょう。地球のスケールから見れば、私たち人間は
主に宿るウイルスか寄生虫みたいなものですから主の死は、自分たちの死と
同じです」
「私か誰かがアスタの代わりを引き受けて、星の準則を守らせるよう舵取り
しなきゃ全部お終いってわけ!?」
「主はリーナさんに似て、元気な頑張り屋さんなので衰えなんて見せようと
しませんが、いつもそばにいる私が見たところ、あと十年が限界かと……」
「あの子が…………」
僕と元気に押し問答を続けるアスタさんの横顔を悲しそうな眼でみつめる
お嬢様。
「こ、後継者になると……具体的に私どうなっちゃうのかな?!」
「まず始めに主から正式な後継者になるかどうかの〈問い〉が頭の中に聞こえ
てきて、それを自分が〈承諾〉することで、主に正式な〈承認〉を受けます。
その瞬間から身体に主の力の五十パーセントを受け継ぎます。そして、その
影響から現在の姿の他に、特殊能力を持った二種類の姿に変わることができる
ようになります」
「それだけ?! いいことずくめじゃん?」
「それだけならいいんですが、これには問題があります。主の〈承認〉を受
けてから毎年一年ごとに五パーセントの力を受け継いでいき、使える力と知
識は増大していきますが、それに伴い、リーナさんの身体は有機生命体から
無機生命体に少しずつ近づいていくんです」
「具体的に言うとどんな感じなのかな」
「たとえばカルシウムで出きているリーナさんの骨が、見た目や機能は保ち
つつも、次第にセラミックやチタンやオリハルコンなどの合成物に置きかわ
っていくとか…… 生き物の組成を無理矢理に代替え変換して、無機物質へ
近づけるんですからたびたび襲ってくる、その激痛は凄まじいものになりま
す。主の力で痛みを押さえて慣れさせる事もできますが、どの程度効果があ
るか判りません」
「あははは……。後継者なってみてもいいかなーとか、ちょっと思ったけど、
やっぱ嫌になってきた。こわい(笑)」
「それともう一つ問題があって……」
「えぇっ、まだあるの?!」
「はい。実は後継者の身体の変化が進行するに従い、この激痛は徐々におさ
まっていきます。ですが、それは同時にリーナさんの身体の無機生命体への
変化が終了に近づいたことを意味してるんです。そして完全に無機生命体に
なった場合、有機生命体向きの環境に留まることが辛くなってくるので、こ
の液体ガラスの様に、身体を収めやすい中間物質の中で身体の状態を保つ必
要がでてきます。私のような再構成された蘇生人と違い、長時間出歩くこと
が難しくなってくるんです」
「痛いわ、自由はないわ、たまんない!!」
「そしてなにより私が一番心配しているのは、完全に無機生命体になったあ
なたが有機生命体だった時に持っていた感情、今の心を果たして、しっかり
持ち続けられるのか? あなたがあなたでいられるか保証できない事なんです」
「あ、アスタもあなたも大丈夫だって言ってたじゃない!!」
「確かに潜在能力的には後継者の資格があるとは言いました。でも、その変
化にあなたの精神や感情が耐えられるかどうかまではわからないんです。
仮にあなたが廃人のようになってしまったら、主はあなたの心を潰して身
体だけでも引き継ぐ気でいます」
「ひど……」
「主には自分の感情を殺して、すべての生命体のために全体を見ながら非情
な決断を下さなければいけない時がどうしてもあるんです。この星のすべて
を背負う者として」
目を伏せて、十六夜さんはつぶやいた。
「真紀さん。あの子……、アスタってさ、何十億年もこんな液状ガラスの中
に閉じこもって千里眼みたいな眼で外界覗きながら、どれだけつらくて悲し
い思いしてきたんだろうね」
「主は同情されるのを嫌う性格ですけど、それでもあなたにそう言って頂け
ると少しは救われると思います」
僕との交渉が十五分ほど経過して、アスタさんがとうとうシビレを切らし
て十六夜さんに、おいでおいでする。
「ねえねえ真紀ちゃん、ちょいと聞いとくれよ、ハルローくんったら
リーナちゃん説得して欲しいのに、なかなか折れてくれないんだよー、
すんごいしぶといよねー、どうする~~?!」
「難問ですからね……こればっかりは相当の覚悟が必要になりますから、
決断して頂くには長い時間が必要になるでしょう」
「もぉ~~っ、お堅いお目付け役相手じゃ、ラチあかないなー、
やっぱ本人にジカ談判だなっ、あのね、リーナちゃん……」
「……アスタ。船の上で対峙した真紀さん通して、あんたが見てきた歴史、
色々見せてもらったよ。自分で手を出して助けたかった大好きだった人
たちが、たくさんいたのに、人間だけじゃなく、世界全体のバランスを
見て力を使わなくちゃいけない立場だから、何もできなかったんだよね
……」
「をっと!! 真紀ちゃん、チビっ子に余計な物見せちゃったね。うーん、
長ぁ~~く生きてるとね、いいこともあるんだ、悪いこともある。
しゃあない」
「ねぇ、後継者になるとここにいなくちゃならなくなって周りの人たちと
会えなくなるの?」
「う~~ん、体質的に会えないというか……この液状ガラスみたいな
特殊な性質の物の中でしか動きづらくなるし、やることもいっぱいあるし、
やっぱり会いづらくなるかもね」
「わたし、ちぃちゃい時からずーっと世界中飛び回ってきたんだよ。
周りはひどい大人たちばかりで友達もいなくて、つまんなかったけど、
日本に来て……大須に来て、やっと馴染めてきたのに……
好きになったのに……自分の街……」
「ごめんね……」
「学校のみんなや大須商店街のおっちゃんやおばちゃんとも会えない!?」
「うん」
「バカ親父や陳さんとも!?」
「うん……」
「メイドのヴァーンさんとも!?」
「うん…………」
「はるみんやお母様とも!?」
「うん………………」
「……ハルローとも!?」
問いかけるお嬢様の声がだんだん小さく震えてきている。
「うん……………………」
「どうしても私が嫌がったら、どうする!?」
困った顔になったアスタさんが真紀さんに目配せすると、
真紀さんは優しくウインクした。
少しの間瞑っていた眼を開き、アスタさんは少し厳しい顔に
なってお嬢様に答えた。
「そうね……どうしてもあなたがなってくれないなら、私も「最後の手」
を使うしかない。代わりの〈後継者〉になってもらうさ。
そうだねぇ、たとえばハルローくんって妹さんいたよね。
あの娘なんかいい素質ありそうだよね。とりあえず〈キープ〉はしてある
し、お願いしてみるよ」
な、なにっ、 は、晴美を!? 〈キープ〉ってなんだよっ!? なにした
んだ妹に!!
「えっ……はるみんを……!? ダメっ!! ダメ――っ!! 周りの人たち
巻きこまないでっ!!」
お嬢様の頬に涙が伝った。
お嬢様は今までどんなつらいときでも、僕に涙を見せたことはなかった。
絶対に…………
なのに…………
おまけに妹にまで手を出すつもりか……!?
頭の中が真っ白になる。
ガリっ……!!
思わず頬を噛む。口の中が血の苦みで一杯になる。
「な、泣かせたな――っ!! お嬢様を!! 晴美たちを人質にしてお嬢様を
無理矢理、後継者にして苦しめるマネはやめろっ!!」
重いはずのコルトガバメントを自分でも驚くような早さで腰のホルスター
から抜き出す。
安全装置をはずしてアスタさんの額に狙いをつける。
あとは撃鉄を起こせば引き金を引くだけで発砲できる。
射撃の正確さ「だけ」なら自信がある。
「ふう~~ん面白いニャ~~、ためしにどこでも撃ってみればいいニャ。
ニャッハッハハ!!」
指でおでこをツンツンしながら挑発するアスタさん。
人格(?)や意志を幼い頃の十六夜さんの姿に投射しているだけで、その
正体は実質地球そのものであり、その気になれば〈星の準則〉で太陽を
初め、全宇宙の星々や星間物質のエネルギー全てのご加護を幾らでも受け
られるんだ。
世界中の核ミサイルを全弾撃ち込まれても、おそらく彼女はケロっと
しているだろう。
四五口径軍用弾 七発の脅しなんて大笑いもいいところだ。
あきれすぎて、余裕のネコ語で笑われたのも無理はない。
仕方がないが――――
「じゃあ……、これでも笑っていられるか!?」
「ハ……ハルロー!?」
「えっ!?」
「ふニャっ!?」
僕はアスタさんに向けていたガバメントの照準をリーナお嬢様の頭に
ポイントした。
「あ……あはは、なんのマネかニャ……、それは!?」
「たしかにこんな銃、あんたに効くわけがないな! けどリーナお嬢様の
頭なら一発でふっ飛ばせる!!」
「えっ……、何、それ!?」
「ど……どういう意味なのかニャ!?」
「あんたと話している最中に、お嬢様と十六夜さんの話を盗み聞きさせて
もらったよ。アスタさん、あんたの寿命あと十年位なんだってな」
「ん!? ま、まだ生きるよ。あと千年は生きちゃうんだもん。
ホントだよ、ホントなんだから」
あせりで余裕のネコ語が引っ込んだ。後ろを向いて、てきとーな
返事をするアスタさん。
僕は無視して話を続けた。
「お嬢様が〈後継者〉になるには身体や心に、かなり負担がかかるらしいけど、
あんたのことだ、もしお嬢様がOKしたときに、お嬢様がなるべく苦しまないよう、
すでに前から「何か」少しずつお嬢様にしていたはずだ」
「そういえば最近ときどき眩暈がしたり、身体のあちこちに変な痛みがあるよ」
「う……」
「お嬢様が〈後継者〉をひき受けたら、いきなりあんたの力の五十パーセントを
受けとれるって言うんだ。今でもあんたの大事な部分が、かなりお嬢様に
行っちゃってるんじゃないのか? 違いますか?!」
「むぅう……そ、それがどうした!?」
アスタさんがすごい顔で睨みつけてきた。
「お嬢様をここで撃てば、あんたの計画は水の泡だ。おまけにお嬢様が死ねば、
あんたも大ダメージを受けて、残り寿命だって四、五年に縮んじゃうだろ」
「そんなことして私が死んだらこの星も終わるし、あんたもみんな死ぬんだよ!?」
右手で拳銃をお嬢様の頭に突きつけながら、左手でお嬢様の手を握る。
お嬢様もしっかり握り返してきた。
「かまわない」
「こ……こんにゃろ……!!」
「お嬢様を撃たれたくなかったら、僕の周りの人たちをこれ以上苦しめるな!!」
「く……!!」
二人じっと睨み合う。
どれくらい時間が過ぎただろう。先に口を開いたのはアスタさんだった。
「アハハハ、まいったまいった!! たいしたもんだ♪ 私の負けさハルローくん。
私はこの星の総監督さ、五年やそこらでくたばるわけにはいかないんよ」
「それじゃあ……」
「うん、一応リーナちゃんの周りの人はキープしておくけど、もうあんた達に
無理ジイは一切しない。ホントは初めから無理ジイなんてする気なかったんだけど、
リーナちゃんとハルロー君にはコトの重大さを知ってもらって、覚悟を決めて
欲しかっただけなんだ」
ぼくはほっとしてガバメントをホルスターにしまった。
「アスタさん、あのね、お願いがあるんだけど……」
「なに?」
「私、この星の人間っていうか生き物を全て消したいっていう、意志というか
空気を最近すごく感じてるんだ」
アスタさんと十六夜さんはなにか思い当たるフシがあるのか顔を見合わせた。
「私、いつか〈そいつ〉と何回も争うことになると思う。〈そいつ〉はすごい力
持ってるから立ち向かうにはアスタさんの力がいる。このまま私に〈後継者処置〉
を続けて! それで十年後に私が二十一歳になった時に、後継者になるか最後の
決断をさせて欲しいの」
「お嬢様っ!?」
「いいよリーナちゃん。待つよ十年。たしかに絶対〈そいつ〉の好きにさせちゃ
ダメだよ。がんばってね」
「うん」
「そうだね、〈そいつ〉に立ち向かう勇気があるんなら、少し早いけど私の力、
今ここで三十パーセントプレゼントだ。中に入ってきて!」
えっ、液状ガラスの中にか!?
「うん、わかった」
驚いたことに苦もなくリーナお嬢様は液状ガラスの中に入っていった。
僕の想像していた以上にアスタさんの〈後継者処置〉が進んでいたらしい。
改めて自分の無力さを思い知る。
「じゃあリーナちゃん始めるよ!」
言うが早いか、アスタさんはお嬢様に抱きつくとキスをした。ビックリして
お嬢様はジタバタ慌てていたが、それが〈後継者処置〉の手順の一つだと
気づいてからは、おとなしくアスタさんに従って身を任せた。
七色の液状ガラスの輝きが増していく……
数時間が過ぎ、やがて眩しい輝きが収まると、にっこり微笑んで
液状ガラス越しに僕を見つめるリーナお嬢様がいた。
「終わったよハルロー君! リーナちゃんお疲れ様!」
「ありがとうアスタさん」
「リーナちゃん、ハルロー君に見せてあげなよ私の力!!」
「えっ、なんかちょっと恥ずかしいなハルローに見せるの……。
だけど……やってみる!」
なんだなんだ、アスタさんの力を見せる?!
「承認……承諾!!」
お嬢様がつぶやくとお嬢様の周りに赤いホタルのような光が湧き出てきて
渦を巻きはじめた。
お嬢様の背が急に伸び、十一歳らしく、どこか少年らしさが残っていた
体つきも、肉付きが良くなり十六歳くらいの姿に変わっていく。
それに合わせて青い髪が赤く染まる。
「これって、身体の物質構成を変えて十六歳のリーナちゃんの姿を
シュミレートしてるんだよ。この姿になると体力や持久力、それに五感が
通常の五倍になるんだ。〈赤のリーナ〉ってとこかな。じゃあ次!!」
「はぁ~~い、承認……承諾っと!!」
赤くなったお嬢様の周りに、今度は黒い光と黄色のホタルのような光が
湧き出てきて、渦を巻いた。
赤い髪の少女の姿から、さらに顔つきや体つきも大人びて、髪の毛が
伸びて黒く染まり、目つきも少し怪しくなり、見つめられるとなんとなく
吸い込まれそうな気がする。
「これがリーナちゃんの二十歳のシュミレート。最強の〈黒のリーナ〉。
完全に後継者になっていないにも関わらず私の力の八十パーセントが使えるんだ。
めっちゃ凄いよ。欠点は一日三回食後に三十分しか、この姿になっていられない位
かな」
「なんか風邪薬みたいですね」
「この〈黒のリーナ〉は基本能力が〈赤のリーナ〉の二倍で、得意技は
この星で発生するあらゆる物事の〈確率〉を自分の好きに決められるのよ!!」
「えっ、それって〈確率変動能力〉じゃないですか!!」
「そうそう、凄いでしょ!?」
凄いなんてもんじゃない。それって神様と同じじゃないか!!
「神!? もしこの星に、そんなのが仮にいたとしても、この星から
そいつらが産まれた限り、まず私やリーナちゃんの力が、その上にくるよ」
究極の力だ。こんな人間がいたら邪魔で消したいと考える人間が、世の中には
きっと大勢いるだろう。
「アスタさん、この姿すごく疲れる。三十分って言ったけど、そんなにもたないよ」
「そっか、まだ十一歳だし初めてで慣れてないからね。もういいよ。元に戻って」
「はい」
お嬢様の周りに青い光が渦巻くと、青い髪のいつものリーナお嬢様の姿に戻った。
「ふぅ~~っ、疲れたぁ~~。外に出よっと」
液状ガラスからスポっと抜け出るお嬢様。
「えっへっへ~~っ、どうよハルロー、見直したでしょ私の姿!?」
「ええ。そりゃもう、凄い魅力的なグラマー美人で惚れちゃいそうでした」
「そうでしょ、そうでしょ」
わっはっはと高笑いしてる。頬を赤くしながら大喜びだ。
「でも十年待つの大変だなー」
ふと小声で漏れた僕のボヤキをお嬢様は耳をダンボにしていたのか、
聞き逃さなかった。
猛スピードで飛んできて、僕の襟元を両手で掴んだかと思ったら、
ものすごい力でブンブン揺する。
「なんですってー!! 今の私に魅力ないってか~~~~っ!?」
鬼ババにふりまわされるダメおやじの気持ちがよく判った。
「や、やあ、今のお嬢様には二十歳のお嬢様には出せない味があるというか、
カワイイ萠~~な魅力がいっぱいで、それはもう大満足というか……」
「あはは~~っ、そうかそうか、初めっからそう言ってくれなくっちゃあ~~~~」
アスタさんと十六夜さんの「あんたらバッカじゃない?!」という視線が
背中に痛い。
それにしても〈そいつ〉って、いったいなんなのだろう?
お嬢様たちは薄々気づいているみたいなんだけど……
こうして僕とリーナお嬢様は一抹の不安を抱えながら、来るときには
想像もつかなかった、〈星の準則〉にまつわる重い責任を背負って、
バミューダ海域を後にした。
数日後――――
今回の仕事はとんでもない大事件に発展したんだけど、収支的には
大成功だった。
十六夜さんは約束通り、巨額の〈二億円〉をお嬢様の銀行口座に振り
込んでくれた。
こうしてリーナお嬢様は一夜にして億万長者の女子小学生になった。
帰国して二日後、落ちついた僕らはお嬢様の自宅のマンションでフロリダ名物の
白いワニの唐揚げ(笑)をつまみながら、プティさんとヴァーンさんを交え、
成功を祝して、ささやかなお祝いパーティーに花を咲かせていた。
「カンパ~~イ!!」の合図でパーティーを始めてから一時間、宴もたけなわと
なり、梅酒に酔ったリーナお嬢様は僕にクダを巻いていた。
「ヒック……、そういやあさ、ハルロー、あんたハッタリとはいえ、私に
銃向けて殺そうとしたよね」
「えっ……、そんなことしましたっけ(笑)」
「どこの世界に、教え子の頭に発砲しようとする家庭教師がいるのよ~~~~!!
大金も入ったことだし、あんた今日から金銭管理のマネージャーに
格下げ~~~~っ!!」
「ええ~~~~っ!! そんな~~っ!! まだお嬢様には教えることがいっぱい……」
実は僕がお嬢様に教えられることなんて、もうなかった。
あのアスタさんに〈後継者処置〉を受けたお嬢様に何か教えられる教師なんて
世界中捜してもいないだろう。
マネージャー降格は、僕へのお嬢様の遠回しな心遣いだと思う。
「いやあ~~それにしても二億二億♪ むふふふふ~~
どうやって使おっかな~~~~ルンルン♪」
「あのね、リーナちゃん、そのことだけど、お母さんちょっと言いづらいんだけどね……」
「なになにお母様、何か買って欲しいの?」
「ううん、違うの。あのね、日本の税率ってね、不景気だから特に、にわか
高額所得者には情け容赦なくてね、おまけにリーナちゃんは学生で会社組織や
宗教団体じゃないでしょ、だから……」
パチパチパチと電卓を叩いて、お嬢様に見せる。
「え――っ!! なによこれ、一億円くらいしか残らないじゃない!!」
「こればっかりはね~~、リーナちゃんもう今回は手遅れだけど、次の
ために大須引っ越してモナコ国籍にしておく?! パナマやケイマン諸島に
口座開いとく?」
「な……なんの……、まだ一億円あるもんね~~だ!!」
はた目で見ると相当凹んでるけど、お嬢様はまだ元気だ。
「あとね、里井久君が、そんなに儲かったんなら十一歳になる
までの養育費頂いてくぞってリーナちゃんの口座から六千万円天引き
しちゃったのよね。それと「俺も鬼じゃないから俺の大須のマンションの
一階と二階はお前たち専用にくれてやるから改装して事務所でもなんでも
作れ。ありがたく思えよ、ワッハッハ」だって」
「あ、あんのクソ親父ィィィ~~~~っ!!」
ソファーを思いっきりブッ叩くお嬢様。
「い……いいもんね、あと四千万あるんだから……」
「お嬢様、次の仕事の準備費用を多めに残しておかないと仕事が受けられません」
「なっ、な、なによハルロー、あんた家庭教師でしょ、マネージャーみたいなこと
言わないでよっ!!」
「お嬢様が今さっきマネージャーに任命しました」
「うわ~~~~ん!! いいもん!! もういいもん!! 残ったお金でマンション
大改装だもん!! プール作ってセレブだもん!!(泣)」
なんか、もうなぐさめる言葉が見つからないくらい、しょげまくっている(笑)
こうしてわずか二夜にして、お嬢様は億万長者からニセレブな、ただの女子
小学生に逆戻りしてしまった(笑)
でも……、
本当に……
全く元気な女の子だ。リーナお嬢様は。
あんな目にあっても、自分を決して見失わないんだから。
これから、なにが、あの子に待ちうけているのかは判らない。
でも、あの笑顔をみるたびに、見守り続けたいって僕は思うんだ。
第五話 星の準則 その3 完
第六話 リーナさんお仕事中!!につづく
五年前の星の準則のお話はこの回で完結です。
次回から、5年後の現在に時が戻り、16歳になった
赤毛のリーナお嬢様が活躍する本編に突入します。
そして隠れていた恐るべき強敵〈そいつ〉と
その仲間たちが牙をむき始めます。




