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空の日常  作者: 七瀬 初
5/8

三永 薫

 誰にだって秘密の一つぐらいはある。

 自分からはばらさない。

 ばれた時はその時よ。

 カタカタとパソコンに文字を打つ。

 報告書と言えば聞こえはいい。でも、これは観察日誌みたいなもの。


「……いつも嫌になるわ」


 私、三永薫は芙蓉空の『見張り』である。

 今書いている内容は要約すると、『空の日常』である。

 本音で言うと、こんなものは提出したもくもない。


「大体、なんで胸噛まれるのよ……」


 今夜にあった出来事も書かなければならない。

 奏さんが空の胸に噛みついたことも。

 提出先の連中を喜ばせるものなんて書きたくもないのに!


「考えただけでも腹が立つ!」

「空ちゃんの事になると、いつもイライラしてるね」

「空の事でイライラするわけないでしょ!提出する先の奴らの事に対してよ!」


 声の主は夫のあきらだ。


「何か飲むかなと思ってお茶持ってきたけど、お酒の方が良かったかな?」

「もう少しで終わるから、お酒ちょうだい」

「取ってくるよ」


 部屋のドアが閉まる音がした。


「……これでよし。報告者、芙蓉ふよう はるか


 三永薫みながかおるというのは偽名である。

 本名は芙蓉遥。血の繋がりはないが立場は、空の従姉だったりする。

 この世の中、空だけが珍しい生き方をしているわけではない。


「持ってきたよ」

「ありがと」


 彰が持ってきた、缶ビールを受け取る。


「ほんと、嫌な仕事よね」

「空ちゃんの監視?」

「……撃ち殺すわよ?」

「『見張り』と監視の違いが、僕にはわからないんだよ」

「……そうね。ごめん」

「いいよ。それだけ、空ちゃんが大事なんでしょ?」

「ええ」


 缶ビールを開けて、一気に飲む。


「……はぁ」


 美味しいとは思わない。でも、飲まないとやってられない。


「そこまで気が進まないのに、なんで『見張り』するの?」

「私しか空を守れないからよ……」


 そう言って、動きが止まる。


「違う。……見守るしかできないの」


 私は空の母、真夜まやの姉、真宵まよいの養子である。

 つまり、真夜さんは私の叔母になる。とても優しい人だった。

 姉妹仲はよく、いつもニコニコと笑っているイメージしかない。

 どうして過去形なのか?……二人とも故人だからよ。


(……私は空を芙蓉の家から守れるのかしら?)


 ここで芙蓉という家の説明をしよう。

 芙蓉の本家は大きな製薬会社を営んでいる。

 私と空の母は本家の血筋であるが、本家に嫌気がさして、姉妹で家を飛び出したと昔聞いたことがある。

 本家を飛び出してからは、金銭面では不自由だったらしいけど、充実した毎日を送っていたらしい。

 『籠の中の鳥』ではなく、一人の人間としての生活。それが何より嬉しかったと教えて貰った。


(……芙蓉ってほんと、歪よね)


 芙蓉の人間は基本的に研究者だ。

 人に役立つ薬を開発しているのは本当である。

 老若男女問わず、安全で効果のある薬を開発している。


(公表されない内容は酷すぎるし……)


 芙蓉の女性は実験体の親である。

 真夜さんと私の母の親、つまり祖母は実験の為に子供を産まされた一人である。

 芙蓉では女は子を産める身体になると隔離される。また、子供の父となるのは同じ芙蓉の家の者が基本である。そこには法も人権もない。外道、鬼畜という言葉の方が合う。

 一応、結婚可能な年齢までは薬の被験者であるが……真相はわからない。


(母さんたちは運がよかったのかもしれない)


 芙蓉の女性は昔からその行動が当然という考えがあった。

 イレギュラーな要素にも対応できるように。


(……親が娘に自分の子を産ませる。あり得ない事が、芙蓉では日常)


 私と空は面識はないが、私と空の祖母にあたる人は、その異常が普通の人であった。

 世界のためになるならばと親、兄弟、血縁と多く交わったそうだ。

 そんなのだと、誰が親かわからないって思うでしょ?

 でも、奇跡的に私と空の母は一般の人との間に生まれた子だった。


「………」


 普通の事だ。何も悪いことではない。


(世界のためといえ、法を無視して情交に及ぶのは人としてはダメだけどね……)


 母さんも真夜さんも育てばそうなる人生しかなかったのだが、母さんは真夜さんを連れだして、本家から逃げた。追ってはなかったらしい。普通の反応を示した時点で、研究対象ではなくなったんだろうと、母さんが言っていたのを覚えている。


(……行動力あるよねぇ)


 母さんは結婚はせず、一人でのんびりと暮らしていたらしい。

 最初は真夜さんと一緒に暮らしていたそうだが、働いてお金を貯め、各自で頑張って生活しようと言い、住んで居た場所を真夜さんに譲って出たとか。

 それでも、姉妹仲はいいので、よく集まるのは必然だった。

 別々に暮らし始めて数年が過ぎ、真夜さんが結婚したいと言い出したらしい。母さんはそれを祝福たと。


(その時に大喧嘩もしたと聞いたけど)



 真夜さんが結婚をしない母に。


「姉さん、早く結婚しないと行き遅れになるよ?」


 と。


「あなたみたいに結婚がしたいわけじゃないのよ。のんびり暮らしたいだけ」

「姉さん、相手がいないから仕方がないか。……狂暴だし」

「……誰が狂暴ですって?」

「色々?」

「黙れこの発情女」

「は、発情女!?私はそんなのじゃないわよ!」



 などと、言い合いをしたと。

 まぁ、そんなこんなで、暫くして空が生まれた。

 その時にも問題は起きた。言うまでもなく、私の存在で。



「へぇ、その子が私の姪になるのか」

「可愛いでしょ?それと、気になるんだけど、その娘は?」

「ん?そういえば、会うのは初めてか。この子は遥。私の娘だ」

「む、娘!?姉さん、いつの間に結婚してたの!?」

「結婚なんてしてないけど?」

「……結婚してないのに娘?適当に付き合った男の子供を産んだの!?」

「子供の前でバカなことを言うな!養子だよ」



 私は今もこの光景を覚えている。

 空を抱いたまま、大慌てで叫ぶ真夜さんの姿を。

 とても真剣な顔をしていた。


「この子は遥の従妹になるんだ。何かあったら、お前が守ってやるんだぞ」

「うん」

「ありがとう、遥ちゃん。あと狂暴な姉でごめん……」

「誰が狂暴だ!」

「そういうところよ!」



 真夜さんは母さんを狂暴だと言っていたが、とても優しい人だった。

 厳しくはあったけど。


(……いい思い出よね)


 空には私の本名は教えていない。

 あの娘の事だから、気が付いているかもしれないけど。


「……ん?」

「思い出すのは終わった?」


 視線に気が付いて、彰が横にいるのに気が付いた。


「あ、ごめん。ちょっと色々思い出してたの」

「気にしないでいいよ」

「ありがと。……ねぇ、彰」

「何かな?」

「私と結婚して幸せ?」


 少し気になった。

 だって、毎晩遅くまで帰宅せずに『見張り』を続けて、家事も全て任せている。

 だからこそ、気になった。


「幸せなんて個人が感じる事だからね。今の僕が幸せじゃないとすれば、何が幸せなのかわからない」

「よかった」

「妻が居て娘のあやだっている。まぁ、働かずに家事をしている主夫というのが珍しいと言われるけど」

「……それはごめん」

「言いたい人に言わせておけばいいんだよ」

「そうよね。……んっ」


 缶ビールを飲み干す。


「もう一本飲む?取ってくるよ?」

「この一本でいい。もう一本飲むと、つぶれるまで飲みそうだし」

「わかった。僕もこの一本だけにしておくよ」


 彰も飲んでいたらしい。


「今日ね、空に合法ロリって言われたんだけど」


 ふと、彰に向かって言った。


「……それはまた凄い単語だね」

「そうでしょ!酷いと思わない!?」

「まぁ、言葉は酷いとは思うけど……」


 彰がこちらを眺めて。


「間違いじゃない……かな」


 と、呟いた。


「彰までそう思うの!?っていうことは……彰ってロリコンだったの!?」

「それは誤解だよ……」

「でも、私を見て言ったじゃない!」

「ねぇ、遥。背が小さくて、ぶかぶかのシャツを着ているだけの女の子って、子供に見えるよね?」

「うぐっ」

「しかも、ぶかぶかのシャツには猫の足跡の柄が入ってる」

「……いいわよ、合法ロリで」

「それに、そんな風に言われようと、遥は遥かだ。僕が好きになった人に違いない」

「……照れずによく言えるわね」


 彰はいつもストレートだ。

 だから、私も好きになったんだけど。

 惚気?うるさいわね!


「事実だから仕方がない」

「ありがと」


 空になった缶ビールをパソコンの横に置き、彰にもたれ掛かる。


「疲れた?」


 彰は自然に私を受け止めてくれている。


「疲れた」

「今日もお疲れさま」

「うん……」


 彰が頭を撫でてくる。


「私、子供じゃないんだけど?」

「たまには甘えたらいいと思うよ」

「そっか……甘えたいにゃん……」


 自分で言って、顔が真っ赤になった。


「なし!今のなし!」


 私が慌てて、彰を見上げると。


「うんうん。疲れてるんだね」


 と生暖かい目で見守られていた。


「違うの!今のは気の迷いなのよ!」

「綾が起きるから、小さい声でね」

「うぅぅぅぅ!」


 甘えるのって難しいわよ!


「まぁ、僕としては珍しい一面が見れてよかったかな」

「……ずるい。殺し文句じゃない」

「それは言いすぎだと思うけど」

「……今のはダメ。反則」

「ちょっと、遥?」


 ゆっくりと、彰に体重をかけて押し倒し。


「今日は疲れてるから、止めようと思ってたけど」


 あんなの言われると止まれない。


「早く二人目が欲しい」


 返事の代わりに抱きしめられた。




「ふんふんふーん」


 今日も『見張り』の為に、空の家に向かう。


「ご機嫌ですね。何かいいことありました?」

「わかる?夫に愛されてるのって嬉しいのよ」

「そ、そうですか……」


 空の家の前で合流した新人と会話をしていると。


「二人ともおはよう」


 家の中から、空が出てきた。


「おはよう、空さん。今日も早いわね」

「いつも教室の掃除をしているから。……ふぅん」


 空がこちらを妖しい目つきで眺めてくる。


「ごちそうさま。昨夜は旦那さまにたっぷりと愛してもらったようね」

「ま、まだ何も言ってないわよ!?」

「顔に出てるわよ。『昨夜、旦那様とたっぷりいいことして、今日は朝からご機嫌なのよ!』ってね」

「う、嘘でしょ!?」

「早く二人目見せてよね。……できれば私が生きている間に」


 そう言って、空が学校へ向けて歩いて行く。


「……本当に見せてあげたいわよ。これから先もずっとね」

「三永さん……」

「私は今から行くところがあるから。あなたは空さんを守りなさい」

「はい!」


 新人が空を追いかけるのを見送る。


「ああやって見れば、恋人同士なのにね」


 新人が空の後ろを歩いていると、空が振り返って新人の腕を掴んで横に歩かせる。

 空の事だ、後ろを歩かれるのが嫌で横を歩かせたのだろう。


(お似合いなのにね)


 仲良く歩いてるとしか思えない。

 微笑ましい光景だ。


(あんな事がなければ、空は幸せでいられたのに……)


 私は芙蓉家の前から離れた。




 空は小さい時に一度、行方不明になったことがある。

 行方不明になった期間はたった一日。正確に言えば一晩。

 真夜さんが青ざめた顔で、母の元に来たのを覚えている。

 私は当時16歳だった。



「姉さん!空が!空が!」

「落ち着きなさい。何があったのか話してくれないとわからないわよ」

「空が学校から帰ってこないの!」


 真夜さんは必死だった。


「……警察には連絡したの?」

「夫が家で対応してる……」

「いつからいなくなったの?」

「学校の下校時間の前に向かえが来たって聞いたわ……」

「……迎えね。今は22時か……身代金とかの要求はないの?」

「ええ、そういう類の連絡は一度も来てないわ」

「……事件とかに巻き込まれてなければいいんだけど」


 母が考えながら言っていると。


「事件!?やっぱり、そうなるよね……。最悪、空はもう……」

「馬鹿なこというな!母親がそんなのでどうする!」

「……ごめん」

「上がりなさい。落ち着くまで、ここに居ればいいから」

「……ありがとう」


 真夜さんは俯いたままだった。


「遥」

「なに、母さん?」

「空はわかるよね?何度か会ったことはあるからわかるはずよ。少し探してきて」

「警察も動いてるって話なのに、無茶言わないでよ……」


 一般人の私が動いてどうにかなる話ではない。


「気持ちの問題。それとも、遥は心配でないの?」

「心配に決まってるでしょ!母さんこそ、ふざけたこと言わないでよ!」


 私はこの日、明け方まで外を探し続けた。

 結局、空は見つけられなかった。



 疲れ果てて、家に戻ると。


「お帰り。その様子だと、見つけてないか」

「……見つけられなかったよ。というか、疲れ果てて帰ってきた娘に対して言う言葉?」

「おつかれさま」

「酷い母親だよほんと……」


 この数時間後、自体が一転した。

 空が連れられて、家に帰ったと。


「よかったね、真夜さん!」


 空が見つかって、本当に良かったと私は思った。


「真夜さん……?」

「……え?ええ、そうね。本当に見つかってよかった……」


 真夜さんの瞳から涙がこぼれたので、私は喜んでいると思っていた。


「本家から連れられて帰って来た。……何もなければいいけどね」

「……ええ」


 私は母さんと真夜さんの言葉の意味がわからなかった。

 空が見つかって、いいことだよね?


 でも、数年後にあの事件は起きた。




「おはよう、母さん、真夜さん」


 私はお墓の前に立っている。

 お墓には『芙蓉家』と書かれている。

 個人の名前は書かれていない。でも、このお墓は母さんが建てたものだ。


「空もここに来ることあるけど、一緒に来れないのはちょっと残念よね」


 何度か空とここで出会ったことはある。

 お墓の場所は空に伝えているし。

 『見張り』としてね。


「隠さないとダメだとわかっていても、結構辛いんだよ?」


 お墓に話しかける。

 返事なんて当然ない。


「……弱音ばっかり言ってると、母さんに怒られそう。真夜さんが後ろで止に入るのが目に浮かぶけどね」


 未だに空が起こした事件については本家が関わっているのかわからない。

 それでも、母さんは関わっているのは間違いないと言っていた。


「このままじゃ、空を助けられない……」


 空の特殊な症状は人に感染する可能性が極めて高いという。

 でも、空以外が発症したという報告は出たことはない。


(本家なら……)


 空を治す方法を本家なら知っているかもしれない。


「……守ってるつもりだけど、そこまで立派じゃないわね」


 私に本家に対抗できる力があれば、直ぐにでも動くのに。


「これから先も頑張るよ」


 私は暫く、お墓の前に佇んでいた。




「えーと、今日の空の予定は……」


 空の学校の近くにある喫茶店で手帳を眺める。


「今の時間だと……体育ね」


 この手帳には空の日常が書き込まれている。


(予定は空が普通に教えてくれるからいいけど……)


 最近の空の予定を思い出してみる。


(先週の月曜日は帰宅してからは家の中。火曜日は帰宅前にスーパーで買い物。水曜日は家。木曜日も家。更に金曜日も家。土曜日は一歩も外に出ていない。日曜日は……私が連れまわされたわね。そして今週はっと……月曜日にスーパーと奏ちゃんの襲撃ね)


 ため息を吐きながら、手帳を閉じる。


(人と関わらないようにしているのはわかるけど、もっと外で遊びなさいよ!)


 空の行動はシンプルなものだ。

 用事がない限りは家の中にいる。

 ジョギングは予定には含まない。


「どうしたらいいのかしらね」


 目の前にあるコーヒーを一口飲む。


「……砂糖入れるの忘れてたわ」


 別にブラックでも平気で飲めるが、今は一人だから甘い方がいい。

 砂糖を加えてかき混ぜ、改めて一口飲む。


「甘くておいしい。……素直にパフェでも食べれたらなぁ」


 以前、空と一緒にお店に入って二人でパフェを頼むと、私だけオマケが付いていたことがあった。


「……あれは屈辱だったわね」


 小さなウサギのキーホルダー。


『薫ちゃん、ウサギさん可愛いわね。……ふっ』


 と、空に思い切りからかわれた。

 最後には目に涙を浮かべて笑うのを堪えていたし……。


「そこまで子供に見えるのかしら?」


 手帳に付けられている、キーホルダーを指ではじく。


(一児の母ですって顔見てわかってくれたらいいのに……)


 身勝手過ぎる内容だと、我ながら思っていれば。


「そこのお嬢ちゃん、学校はどうした?」


 と、声が聞こえた。


(あらら……。学校の傍のお店なんて、補導されるに決まってるのに。最近の子は甘いわねぇ)


 そう考えていると。


「無視するのは関心できんよ」

「……ん?」


 肩をポンポンと叩かれた。


「……私?」


 スーツ着てるのに間違われた?


「お嬢ちゃん以外に誰かいる?」


 それも、若そうな警察官に。


「これでも大人なんだけど?」


 腹が立つのを辛うじて抑える。

 平日の喫茶店でスーツ着てるのって大人しかいないでしょ?


「最近、若い子がそうやってごまかしているのが多くてね」

「……あんたの上司は?近くにいるの?」


 ご機嫌なのを妨害されると、睨んでも仕方がない。


「最近の子供は口も悪いなぁ……」

「いいから、連れてこい!」


 テーブルを叩いて叫ぶと。


「お前は補導の一つもできんのか」


 喫茶店の中に上司と思われる人が入って来た。


「……あなたが上司?」

「そうだが……お嬢ちゃん、どこかで見たことがあるな」

「……でしょうね。頑張って思い出しなさい」


 私はそう言って、コーヒーを飲もうとすると。


「こら、人の話は最後まで聞きなさい」


 若い方に肩を掴まれた。


「あ……」


 当然、飲む直前だったのでコーヒーはこぼれた。

 白いブラウスなのに……。


「……三永薫」

「君の名前か?」


 悪びれずに言われたので。


「今言った名前で、上に照合しろ!」


 この後、若い方が土下座したのは言うまでもない。

 あと、クリーニング代は徴収したわよ。それと、腹が立っていたので、ここの支払いもさせた。

 経費?自腹切らせるに決まってるでしょ。




「着替えに帰りますか」


 予備の着替えを持っていない時に限ってこれだ。

 下校時間ではないので、自由に動けるのが幸いだけど。


「万が一もあるし、連絡入れておかないと」


 スマホを取り出し、電話を掛ける。


「……もしもし?ごめんなさい、ちょっと着替えに家に帰るわ。合流するまで、空さんのことお願い。大丈夫だと思うけど、何かトラブルがあった時は直ぐに連絡して。急いで戻るから。じゃ、よろしくね」


 彼に投げるのは可哀そうだが仕方がない。


「理由はともかく、コーヒー溢した跡なんて見られるとからかわれるしね……」


 家の方へ歩いていく。


「こちらの方はさらに確率低いけど……若い子で遊んでくれたらいいのにね」


 

 空の考えぐらいわかる。

 あの娘はその様な状況であっても、決して楽しむことを選ばない。

 自分は罪人なのだからと。


「……頑張らないとね」


 私は空が思っている以上に空を知っている。

 空は昔のことを覚えているかもしれないけど、知らないふりをしているのなら、別にそのままでもいい。

 真夜さんの代わりと大層なことは言わないけど、あの娘を守ることに変わりはないのだから。


 大切な家族のためだもの。

 助けたいと思うのは当然でしょ?

 三永 薫の家族と芙蓉家のお話でした。

 薫(遥)は空の事をとても大切にしています。

 正体を明かさない頼りになる大人です(見た目は違いますが)。


 世界は空に対して優しいものになるのか?




 次回の更新は書き終わり次第となります。

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