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空の日常  作者: 七瀬 初
4/8

騒動と奏の暴走、時々真剣

 普通は経験しないわよね。

 味噌汁を吹き掛けられるなんて。

「酷いわね……」


 新人さんの吹いた味噌汁を綺麗に被ってしまった。

 奏のとんでもない発言のせいなのは言うまでもない。


「ごほっごほっ!」


 新人さんは完全に咽てるわね。

 それにしても、テレビで見るように見事なものだったわ。


「空お姉ちゃん……」


 奏が青い顔をしながら、こちらを向いている。


「怒ってないわよ」

「本当に?」

「本当よ」


 私はまだ目の前で咳き込んでいる新人さんに、水の入ったコップを渡した。


「あ、ありがとうございます……」


 新人さんはしょんぼりとしてるわね。

 『見張り』が対象に味噌汁を吹き掛けるとか前代未聞だろうし、仕方ないのかしらね。


「うん……」


 新人さんが水を飲み始めるのを見て。


「女性の顔に盛大にかけたのって、どんな気分だった?」

「ぶはっ!?」


 思った通りのリアクション。

 見事に水を吹き出し、さっきよりも酷く咳き込んでいた。


「空お姉ちゃん!?」


 奏は奏で大慌てし。


「空さん……」


 薫さんは呆れていた。


「別に間違ったことは言ってないわよ?」


 間違ってはいない。

 盛大に吹き掛けられたのは事実。

 何かやましい考えがあるのは、その人の想像力のせいでしょ?


「ごほっごほっ!……っ!」


 激しく咳き込んでいる新人さんが、咳のはずみで、テーブルに頭をぶつけていた。

 言うまでもなく、強打だった。


「空さん、あまり苛めない……」

「別に苛めてないわよ。それに元気じゃない。二回もかけておいて、それだけ動いているし」

「もう!」

「はいはい……」


 新人さんは咳き込みながら、器用に頭を抱えている。


「大丈夫?」

「……あまり」


 新人さんに声を掛けてみると、本当に大丈夫には見えなかった。

 やり過ぎたかしら?


「まぁ、若いんだし元気なのはいいことよね」

「……芙蓉様………!?」


 新人さんがやっと顔を上げたと思えば、急に横を向いた。


「なに?私の顔を見るのが嫌なの?」


 いきなり、真横を向かれるとさすがにカチンとくる。


「い、いえ!そうではなく!」

「だったら、真っ直ぐ、こちらを見て言いなさい」

「ですから!」

「空さん、それ解って言ってるなら、立派なパワハラよ……」

「パワハラ?」


 急に真横に向いた新人さんを、こちらに向き直させるのがパワハラだっていうの?


「新人さんが急に横向いたからなんだけど?」

「空お姉ちゃん、ブラウス透けてるよ……。味噌汁と水でぴったり張り付いてるし。……私的には嬉しい姿だけど、そこの種馬には毒だと思う」

「奏まで変なことを言わないの。……透けてる?」


 胸元へ視線を移す。

 見事に透けて、下着が映ってるわね。

 

「それは悪い事したわ」


 これは完全に私が悪い。


「空さん、それはいいから隠しなさい」


 薫さんは諦めて、お茶を飲んでいた。


「タオルも何もこの場にはないわよ………っ!」


 私が慌てて、口を押えると。


「空お姉ちゃん!?」


 奏が大声を上げた。


「大丈夫よ」


 髪から伝っていた、水滴が口に入っただけだから。


「具合悪いの!?まさか、つわり……?そこの種馬のせい……そうだよね?そうに違いないよね!まさか、こんなに早く、空お姉ちゃんを孕ませるなんて!」


 奏が派手に叫ぶ。

 女の子が言うには、あんまりな内容ね。


「……生物学的にありえないことを言わないで。髪をつたって、水滴が口に入ったのよ」

「本当に?でも、さすがに心配だから……この場合は産婦人科かな?一緒に行こう!私が付きそうから!」


 奏の目がぐるぐると回っている気がするわね。

 まったく、落ち着きがない。


「大丈夫だから、落ち着きなさい」

「で、でも!?」

「こんなことで妊娠とかありえないから。ね、薫さん」

「私に振られても困るわ」


 何知らぬ顔をしてお茶を飲んでいるが。


「だってそうでしょ?前に散々聞かされたし。毎晩頑張ってもなかなか子供がーって」


 私の発言で、薫さんがお茶を吹き出したのは必然である。

 ちなみに被弾したのは奏よ。



「肩まで浸かりなさいよ?」

「空お姉ちゃん、お母さんみたい……」


 二人して派手に濡れたので、お風呂に移動した。

 正しくは、顔を真っ赤にして叫んだ、薫さんにお風呂場に追いやられた。


「こんな大きな娘なんていないわ」

「小さかったらいるの?」

「……それはそれで何とも言えないわね」


 奏は私に子供を産んで欲しいのだろうか?

 昔はこんなにも過激な発言をしなかったのだけど。


「いるのなら絶対に見たいもん!可愛いに決まってるから!」

「はいはい」


 奏の言葉を聞き流しながら髪を洗う。

 さすがに味噌汁を被った経験はないから、丁寧に洗わないとダメね。


「………」


 お風呂はゆっくり入るものよね。


「………」


 おかしい。


「………」


 髪を洗い出してから、物凄い視線を感じる。


「………」


 髪を洗っているから、目は閉じているわよ?

 でも、絶対に見られてる。


「………じー」


 奏よね。

 一緒にお風呂に入れるのを喜んでいたのはいいけど。


「……じ―――」


 人が見えていない所で凝視されても困るわね。


「……奏」

「は、はい!?」

「何がしたいのよ……」


 奏の様子が所々で変だったのには気が付いてた。

 まぁ、見ているぐらいなら、減るものでもないから。


「……やっぱり、空お姉ちゃんは凄いなって思った」

「何が言いたいのよ?」


 髪を洗い終え、後ろに流す。


「だって、そのスタイルだよ?普通、男子が黙ってないよね?」

「そう?私はいつも一人で静かにしてるけど?」


 私がどういう人物か知っていれば、普通は声を掛けない。

 街でしつこい人がいれば、適当に排除すればいい。


「まぁ、私は自分の事を言うからかしらね」


 あとで騒がれるぐらいなら、先に話した方が楽だし。

 とはいえ、私の事は大々的にテレビやニュースで流れるから、知らない人の方が少ないと思うけど。


「一人で十分なのよ。それ以上は欲というものよ」

「空お姉ちゃん……」


 さて、私も浴槽に浸かろう。


「ほら、もう少し端に移動して」


 私は立ちあがり、奏に向かって身体を倒すと。


「うわぁ……」


 奏から呆れたような声が聞こえた。


「……なに?」

「大迫力だよ……」

「いいから詰めなさい」

「もう少し眺めたいなぁ……」

「詰めなさい」

「はーい」


 奏が奥側に移動する。

 私の家の浴槽は大きな方に入るだろう。

 小さい時だけど、家族全員で入っても余裕だった。


「んー!」


 足を伸ばして、腕の頭上に伸ばす。

 お風呂は足が伸ばせれる方がいい。


「温かいわね」

「……うん」


 奏の様子がまた変になってる。

 ずっと一ケ所を見ているような?


「……いいなぁ」

「………」


 ……胸よね?


「噛みつくような目で見ないで欲しいわ」


 実際、飛びつきそうだし。


「噛みついていいの?」

「……奏」


 本気で噛みつきそうな雰囲気だわ。

 何とかして話をずらさないとマズイわね。


「奏はなんで胸にこだわるの?」

「胸にこだわってるんじゃなくて、空お姉ちゃんだからだよ」

「……意味がわからないわ」


 少し頭が痛くなってきたわね。

 奏はバカな娘ではないんだけど。


「……私は空お姉ちゃんに憧れてるの」

「私に?」


 私に憧れる?

 もっと普通の人に憧れなさい。


「やめなさい」

「いや」

「私に憧れても何もないわよ」

「あるもん!」


 奏が水面を思い切り叩いた。

 水しぶきが派手に上がり、私と奏に降り注ぐ。

 お風呂だからいいけど、少し驚いたわ。


「空お姉ちゃんは……くーちゃんは、小さい時からの私の憧れだもん!」

「………」

「小さい時から何でもできて、可愛くて……でも、本当は裏ですっごく頑張ってるの知ってたから……」

「……それでもやめなさい」

「どうして!?」


 奏が今にも泣きそうな声を上げる。


「私は立派な人じゃないわ。簡単に言えば、ただの人殺し。憧れられることも、尊敬されることもあってはダメ。幼かったからというだけで、罰せられなかった……ただの犯罪者。だから、その思いは捨てなさい」


 これは嘘偽りのない本音。

 奏には幸せに生きてもらいたい。


「いや……」

「奏、私が一般人ならそれは許すけど、そうじゃない。わかるわね?」

「わからなくていいの!私が憧れる理由には……くーちゃんと同じ時間を生きたという証でもあるんだよ!だから、これだけは……くーちゃんのお願いでも譲れないの!」

「………」


 頑固よね。

 そこまで言われたら、やめなさいとは言えないじゃない。


「奏」

「まだ言うの……!?」

「ありがとう」


 奏を抱きしめて、お礼を言う。

 私が生きた証と言われると断れない。


「私はいつどうなるか、それが全くわからないわ。明日死ぬかもしれない。ずっと先かもしれない。もしかすると、国から処分命令が出るかもしれない」

「処分……?」


 奏が私を見上げながら、小さな声で言った。


「そうよ。この病らしきもを予防できる薬が開発されれば、元凶である私を生かす必要はない。だったら、皆が平和に暮らせるために処分ということがありえるわ」

「……それって、薫さんやあの種馬に撃たれることもあるってことだよね?」

「種馬って引っ張るわね……」


 奏の中で、新人さんは種馬で定着したみたい。

 どこかで正しく覚えて貰わないとダメね。


「あくまで、可能性の話よ」

「そんな嫌な可能性は聞きたくないよ……」


 奏がお返しとばかりに、抱きしめてきた。


「くーちゃんはずっと苦しんでばかりいるのに、この上さらになんて……」

「なんで奏が泣くのよ」


 人の胸に顔を埋めて泣かれても困るんだけど。

 今は仕方ないかしらね。


「……やっぱり、くーちゃんは私が守らないと」

「奏に守られるほど弱くはないけどね」


 奏は普通の女子高生だ。

 私みたいに銃を所持しているわけでもない。

 なにより、私の事なんかで危険な目に合わせたくない。

 だから、普段から遠ざけるようにしている。

 全く、効果はないけどね。


「……どこか、遠くに逃げよう?」

「え?」

「誰も、くーちゃんの事を知らない場所とか。無人島は……私が生きていく自信がないから、ダメだけど。どこか小さな外国とか探せばきっとあるよ!

「……ダメよ」


 奏の言う通り、探せば私を知らない場所があるかもしれない。

 そこを見つけ出して、辿り着けば……この先も私は生きている可能性は高くなる。


「生きていれば楽しい事もある。でも、私を助ける人に好意を寄せてしまった時、私はその人を殺してしまうから、やっぱりダメね」

「誰も好きにならなければ大丈夫!」

「……ほんと、無自覚で言うから困ったものね」


 それに、胸に顔を埋めたまま、話し続けられるのも困る。


「あと奏、そろそろ離れてくれると嬉しいんだけど?」

「……柔らかくて落ち着くからいや」

「離れなさい!」


 奏を引き離そうとすると。


「なによ、この馬鹿力!?」


 全く動かなかった。

 普段の……といっても、昔からとは想像できない、とんでもない力で抱き付かれていた。


「離れなさいったら!」


 両腕に力を込めて意地でも引き離そうとしても。


「絶対にいや!」


 びくともしない。


「あなた、奏じゃないわね!」

「奏だもん!」

「私の知っている奏はこんなにも力強くないわよ!」

「くーちゃんを抱きしめれるのに、簡単に離すわけないもん!」

「くっ!この!普段は天然ボケなのに!」

「天然ボケは酷いよ!」


 奏が顔を埋めていたのを止めて、こちらを見上げる。


「そんなに酷い事言うなら、こっちにも考えがあるよ!」


 奏が私の胸を見つめている。


「あなた、まさか……」

「再会してからずっと突き放されて寂しい思いをしていた、私の恨みを思い知るといいよ!」

「や、やめっ!」

「思い切り噛む!」


 本当に全力で噛まれた。


「本当に噛むと思わなかったわ……よっ!」

「ふぎゃ!」


 胸に思い切り噛みついた奏の頭上に肘を落として、奏を迎撃した。


「まったく……かなり痛かったわ」

「思い切り噛んだからね」


 浴槽から顔を半分だして、奏が言った。


「どうして噛むのよ?」

「柔らかくて、もちもちしてるから……お餅を思い出して……?」

「食いしん坊ねぇ。昔はあんなに甘えてきてたのに、天然ボケで食いしん坊なんて。残念だわ」

「また言ったー!次はもう片方を噛むんだから!」

「させるわけないでしょ」


 奏がこちらを向いた瞬間にデコピンをして、奏を止める。


「痛いよぅ……」

「自業自得よ。ふぅん……」


 奏をしげしげと見る。


「な、なに!?」

「私の胸を噛んだのだし、お返ししようと思ったんだけど……」

「え、ええ!?」


 私はため息を吐いて、一言。


「ペタンとしてるから、そんな場所ないわね」

「あぅ……」


 奏が力なく、湯船に座り込む。


「でもまぁ」


 右腕を伸ばし、奏の右の胸を鷲掴みする。


「掴む程度にはあるわね。スレンダーでいいじゃない?」

「誉め言葉になってない!」

「思い切り噛まれるよりましよ?」

「そ、それは……」


 奏がしゅんと小さくなる。


「思い切り噛むから、歯形ついてるし……。これ、直ぐ治のかしら?」

「歯形……」


 奏が俯いてふるふると震えている。さすがにやり過ぎたと思ったのだろう。

 反省しているのなら、許してあげるつもりだし。


「やったー!くーちゃんを私が傷ものに!ふぎゅ!」

「……反省してなかったわね」


 奏が顔を上げ切る前に後頭部に手刀を落として、意識を刈り取った。

 運よく忘れてくれればいいのだけど、今の姿を見る限り、忘れてくれそうにない。

 妹みたいに可愛がった娘がこうも危ない方向に足を進めるなんてね……。


「……本当に頭が痛いわ」


 奏がお湯に沈み込む前に、こちらに引っ張って肩の上に顔を乗せる。

 溺死されても困るからね。


「とりあえず、救援を呼びましょうか」


 お風呂場に設置されてある、呼び出しボタンを押す。

 このボタンはキッチンの傍にもある物だ。

 暫く、呼び出しの音が響いてから。


「えっと、これでいいのかしら?」


 薫さんの声が聞こえた。


「びっくりしたわ。どうしたの?」

「薫さん、ごめんなさいトラブルが起きたわ」

「家の中でトラブルとかやめてよ!?そこ、座ってお茶飲んでないで、急いでいきなさい!」

「は、はい!」


 新人さんの返事の後、走り出した音がスピーカーから聞こえた。


「……まぁ、私はいいんだけど」

「え?私何かまずい事した?」

「ここ、お風呂よ?私も奏も裸」

「あ……ああ!?ちょっと、待ちなさい!」


 薫さんも走り出したようだけど、もう遅い。

 派手な足音が浴室の前にまで聞こえてる。


「芙蓉様!大丈夫で……」

「ええ、私は大丈夫よ。少し待ってね」


 奏の裸が目に入らないように向きを変える。

 さすがに意識がない状態でも、見られると嫌だろうし。


「す、すみません!」

「ここまで来たんだから手伝いなさい」


 来たままの速度で逃げ去ろうとしたので呼び止める。


「私一人でもできなくはないんだけど、ぶつけるとあれだから。奏を運ぶのを手伝って欲しいのよ」

「いや、そういうのは……」

「目隠しすれば大丈夫でしょ」

「そういう問題じゃありません……」


 ここで、物凄い形相の薫さんが現れた。


「君は早くここから出る」

「はい!」


 返事をした後元気よく駆け出していった。


「きちんと説明してもらいますからね……」

「説明はするわよ。あ、薫さん、この歯形って直ぐ消えるかしら?」

「歯形?」


 薫さんが首を傾げているので。


「これよ、これ」


 胸を指さした。


「……え?ええ!?何やってたの、あなた達!」

「だからトラブルなのよ」

「やって良いことと悪い事があるわよ!」

「それも含めて言うわよ。それと私は湯冷めしそうだし、奏なんかお湯に浸かったままだから、危ないわよ?」

「それも早く言いなさい!」

「言う暇くれなかったの、あなたじゃない」

「ああ、もう!」


 薫さんと二人で協力して、奏をお風呂から引き揚げ、身体を拭いてお風呂場を後にした。




「さぁ、説明してもらいます」

「あなたは私のお母さんかしら?」

「違うけど、今はそれに近い心境です!」


 食事を取っていた場所で私、薫さん、新人さんの三人が座っている。

 奏は私の部屋のベッドに寝かせてきた。


「奏にお風呂場で犯されそうになったのよ」

「……はぃ?」


 薫さんから変な返事が聞こえる。

 新人さんは物凄い青い顔をしていた。


「え、ごめんなさい、意味がわからな……くないけど、ちょっとまって!?」

「あら?薫さんにそういう趣味があったの?私も気を付けないとダメかしらね」

「そんな趣味なんてありません!旦那一筋です!って、何言わせるのよ!」

「いい惚気話を聞かせて貰ったわ」


 微笑ましい内容が聞けて満足だった。


「……鬼と呼ばれる上司からの惚気話」


 新人さんはテーブルに突っ伏していた。


「はぁはぁ……空、一から説明しなさい!」

「はいはい。とりあえず、犯されそうになったというのは嘘よ」


 思わず、くすくすと笑いだしてしまう。


「怒ってるんだけど?」

「ごめんなさい、あまりにも可愛くて」


 薫さんは童顔なだけではなく、背も小さいのよ。

 確か153cmだったかしら?

 普段はスーツを着ているから間違われないけど、子供みたいな服を着せると子供にしか見えない。

 世間でこういうのをなんていったかしら?


「合法ロリだったかしら?」

「……今、なんて言ったのかなぁ?」


 しまったと思い、口に手を当てる。

 当然、わざとだけど。


「誰が合法ロリですって?」

「薫さん以外、この場では当てはまらないわね」

「………」


 新人さんはテーブルに突っ伏したまま、身動き一つ取らなかった。


「誰が合法ロリよ!永遠の子供よ!これでも一児の母だっての!それに二人目も欲しいから、旦那と毎晩が……」

「いい夫婦なのね。二人目できたら報告して」

「うぅぅぅぅ!」


 薫さんが顔を真っ赤にして震え出したので、私はそっと両耳を手で塞ぐ。


「空―――――――!」


 直後、薫さんの怒号が発せられた。




「……なんでそんなことになるの?」


 お風呂で何があったのかを簡単に説明した。


「私が知りたいわよ。簡単にわかるのは、積年の恨みで私に噛みついたってぐらい?あとは、とても満足そうな笑顔で、私を傷物にしたー!って叫んでたわね」

「奏さんって清楚なイメージがあったんだけど……」

「それは私もよ。どこで歯車が狂ったのかしら?天然なのはわかったけど」

「それは私も今日、思ったわ」


 私は真上を仰ぎ。


「あの娘の将来が心配よ」

「どこかで教育しないと心配ね」

「教育……彼氏とかできれば、大人しくなるかしら?」


 ふと、思ったことを言ってみた。


「奏さんに彼氏ね。考えは変わるかもしれないけど、簡単に作るようには思えないわよ?清楚なのは間違いないし、空さんよりも優先するとは思えない」

「そこが問題よね。こんなんじゃ、未練が残って死ねないわよ」

「……空さん」

「ま、こういうのは時間で解決するしかないわね」


 視線を薫さんと新人さんに戻す。

 個人的に聞きたい内容を今聞いてしまおう。

 奏が居ない今の間に。


「薫さんに新人さん」

「改まって、どうしたの?」

「……なんでしょうか?」

「私をいつ殺すの?」

「「………」」


 二人が息を呑んで表情を変えた。


「言っても大丈夫でしょ?盗聴器もないし。まぁ、全部外したという、薫さんの言葉を信じればだけどね」

「それは全て外したわ。これでも権力は持ってる方だから」

「だったら、教えてくれてもいいんじゃない?」


 新人さんは目を瞑って、黙ることにしたみたい。

 何か知っていても、薫さんが話すのがいいと判断したのだろう。


「空さんの命に関してどうするかは、今の所はないわ。いえ、私がさせません」

「……そう」

「空さんの命を奪うという考えの人達もいるけど、私はそれを認めない。……ずっと理不尽な事を受け、そこからさらに命を奪うとか、人のする事じゃないわ。どいつもこいつも、我が身の保身だけ考えて、空さんの事を何も考えていない!この娘だって年頃なのよ……なのに、恋愛の一つもできず、行動も制限され、見張りも付けられる。私が空さんの立場なら耐えられない。疲れ果てて、死を選ぶわよ……」

「真剣に考えてくれるだけで十分よ。ありがとう、薫さん」


 私の命は薫さんも守ってくれている。


「新人さんには辛い立場よね」

「いえ、私は……」


 私よりも年下で、場合によっては私を殺す立場にある。

 酷よね。


「ごめんなさい、命を奪う側に立たせてしまって」


 慕ってくれる幼馴染がいて、守ってくれる知り合いがいる。


「辛いとは思うけど、もしもの時はお願いね」


 私は頭を下げた。



 私の命を奪う人がいる。

 でも、その人の方が被害者ではないのか?

 私はそう考える。


(この不幸は私だけでいい)


 できる限り、最悪の結末にならないように努めよう。

 私もそれは望まない。




 でも、生き方は変えないわよ?

 からかうと楽しい反応がみられるんだから。

 全てが台無し?


 私だって楽しみは欲しいのよ。

 更新がとても遅くなりました。

 『空の日常』はもともと、ゆっくりの更新ですが今回、自分でページを見た時に、二カ月もと表記されて、焦りました……。


 こちらの小説は、『更新されてるかなー』というぐらいで見てくれると幸いです。

 早い時もあるかもしれませんし。



 次回の更新は書き終わり次第となります。

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